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野球は持続可能な資本主義の核になりえるか (後編)

 前半で述べたように、無理やりに合理化を進める株主偏重によるROE至上主義では、手段であったはずのお金が目的となり、顧客への視点を欠きかねません。さらに、環境対策や地域への寄与はコストとみなされてしまいかねない懸念もあります。
 そこで『持続可能な資本主義 100年後も生き残る会社の「八方よし」の経営哲学』(以下『持続可能な資本主義』)では、近江商人の三方よしを発展させ、社員・取引先および債権者・株主・顧客・住民や地方自治体などの地域・地球や環境などといった社会・政府や国際機関などの国、経営者という八者をステークホルダー(企業における利害関係者)とし、企業はこのすべてのステークホルダーにとの間に共通価値、いうなれば互いにとって価値があると感じられるものをつくっていくことを目指す“八方よし”を提唱しています。
 『持続可能な資本主義』ではリターンをお金のみではなく、資産の形成・社会の形成・心の形成への書き換えを提唱しています。リターンをお金のみにて考えるこれまでの資本主義のもとでは社員の給与や国税、社会貢献活動費などをコストとみなしてしまいますが、“八方よし”ではこの全てのステークホルダーを付加価値を分配する対象として捉え、同じ目標を共有。そして社員・取引先や債権者・株主・顧客・地域・社会・国がその企業のファンになるような経営を目指します。

 では、すでにファンがついている野球は“八方よし”になりえるのか。それについて、我が贔屓の横浜DeNAベイスターズを引き合いにして考察していきます。理解が浅く本来の“八方よし”からずれてしまっていることも十分にありえますし、内部の方に取材した訳ではないので実情と異なる点があるかもしれません。あくまでも素人の個人的な妄想としてお付き合いいただければと思います。

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 かつては親会社の広告塔だったり放送事業の一環に過ぎなかったりと、野球は単なる娯楽サービスに過ぎませんでしたが、今では球団単独で黒字経営を目指すようになってきています。
 その良い例が、横浜DeNAベイスターズです。
 TBS時代は最下位常連で、試合があってもスタンドはガラガラ。野球自体の人気が下降し放送コンテンツとして視聴率を取れない上にこのありさまでは、赤字続きだったのも無理はありません。
 2011年に横浜ベイスターズを買収したDeNAは横浜スタジアムも買収し改修工事(最大収容人数が約2万9千人→2020年には3万4046人に増加)。ターゲットを明確化し、ターゲットとその周辺にアプローチするよう独自のクラフトビールなどの商品開発をしたりスターナイトなどのイベントを企画したりして勝っても負けても観客が満足を得られるように工夫。また練習環境を整え戦う下地作りを進め、2015年についに黒字化を果たしました。その目覚ましい成長ぶりが注目され、経済誌に取り上げられることもあります。

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人気イベントゲームBLUE☆LIGHT SERIESでは、入場者に青く光るグッズが配布され、ハマスタが青一色に染まる。

 すでに球団単独で黒字化している横浜DeNAベイスターズを一事業として捉え、“八方よし”になるか考えてみましょう。


⓪共有目標


 まずは、横浜DeNAベイスターズを取り巻く社員・取引先や債権者・株主・顧客・地域・社会・国・経営者と共有できる目標とは何でしょうか。 
 顧客であるファンにとって一番の目標はリーグ優勝を果たしたうえで日本一になることです。しかしそれは社会や国にとって特に価値として捉えられることではありません。
 セ・リーグおよびパ・リーグを統括する日本野球機構(NPB)は、一流の技術を持つ選手たちによる野球を通して、人々に夢と感動、元気を与えることが使命でありプロの誇りでもあるとし、「野球の夢。プロの誇り。」をスローガンに掲げています。
 そしてまた横浜DeNAベイスターズは「横浜DeNAベイスターズは良質な非常識に挑戦し続けます より多くのファンの皆様の夢と共に」というコーポレートアイデンティティを掲げ、試合・球場を新たなコミュニケーションを育む空間にするCOMMUNITY BALLPARK PROJECT(コミュニティボールパーク化構想)を進めています。

野球が大好きな人だけでなく、
一度も体験したことのない人も含め、
家族や友人、同僚と気軽に集まり楽しめる場をつくりたい。
地域や職場における様々なコミュニティが”野球”をきっかけに集い、
集まった人たちが”野球”をきっかけにコミュニケーションを育むような、
地域のランドマークになりたい。

横浜DeNAベイスターズCOMMUNITY BALLPARK PROJECTサイトより一部抜粋

 つまり、地域に根差し、野球が日常に溶け込み、より多くの人が楽しめコミュニケーションが生まれるような、野球を介した複合的なエンタテインメントの場となることを目指しているのです。
 そのために横浜スタジアムを含む横浜公園一帯の改修・整備を段階的に進め、ベイスターズエールやベイスターズラガーなどのクラフトビール、地元老舗店とコラボしたり地元産の食品を使ったりしたフード、日常使いもできそうな球団オリジナル商品を開発。日本大通りの入口にある旧日本綿花横浜支店事務所棟をリノベーションしたクラシカルな外観の複合施設THE BAYSには、横浜DeNAベイスターズが手がけるアパレルや雑貨を扱うライフスタイルショップ+B(プラスビー)、球団オリジナルビールはじめ常時10種類以上のビールが提供され球団の寮で出されるカレーが食べられるブールバードカフェ&9、ワークショップも行われるシェアオフィスのCREATIVE SPORTS LAB、ヨガやピラティスなどができるスポーツスタジオACTIVE STYLE CLUBが入っており、試合がなくてもこの周辺を訪れたくなる場所になっています。また、夏になると横浜スタジアムのある横浜公園内にビアハウスやケータリングカーが出て試合をライブビューイングするBAYビアガーデンが風物詩となっていました。こうした取り組みが注目され、コミュニティボールパーク化構想は2017年度グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。

 この、NPBが掲げる使命、横浜DeNAベイスターズが進めるCOMMUNITY BALLPARK PROJECTの理念を合わせ、スポーツマンシップにのっとりスポーツの楽しさや目標を達成する喜びを伝え、スポーツ振興に寄与すること、そして横浜の地に根差し野球を通し幅広い人々の楽しみの場となること、を仮に共有できる目標としましょう。

 それではこの目標のもと、各ステークホルダーとどのように付加価値を分け合えるでしょうか。

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①社員

 親会社であるDeNAは、Delight and Impact the World(世界に喜びと驚きを)をミッションに掲げています。創業者で代表取締役会長、横浜DeNAベイスターズのオーナーでもある南場智子さんはグローバル・ウーマン・リーダーズ・サミットでの講演で、DeNA最初のサービスが立ち上がった瞬間の写真を掲げました。そこに写っていたのは、それぞれモチベーションの源泉が異なる社員たちが一様に溢れんばかりの笑顔でした。南場氏はその様子のことを、DeNAという会社を何かチームで共通の目的を達成したときの高揚感と表現し、この喜びで牽引していこうと決めた瞬間だと仰っていました。そして、「人や自分に向かわずに、コトに向かう」姿勢が大事だと説いています。
 親会社が掲げる自他ともに喜びをもたらす姿勢は、横浜DeNAベイスターズにも通じていると思います。
 先に挙げた目標に喜びや楽しみという言葉を入れたのは、そのためです。

 現在の横浜DeNAベイスターズの編成トップは、DeNAで人事を長年務め、2013年1月横浜DeNAベイスターズへ異動、2016年10月に球団代表に就任した三原一晃さんです。プロ野球経験のない人が編成のトップになることは異例のことです。前GMの高田繁さんのそばで学び、GM制度を廃止した今ではチーム編成は元選手である幹部陣と相談しながら行っています。組織がうまく回るように良いスタッフを集めることに心血を注いでいるとの記事(新興球団の挑戦 野球未経験で編成責任者に DeNA球団代表 三原一晃氏 | 2020/5/22 - 共同通信より)がありましたが、野球畑の人、DeNAからの人などが混ざる組織運営には人事の経験を活かされていることでしょう。三原球団代表はチームに帯同、ユニフォーム組の現場のことには口を出さず、ファン目線も選手目線も大事にされています。また、2018年に移籍してきた伊藤光選手が2019年の契約更改後の記者会見で明かした、三原代表に「ベイスターズに救われました」と感謝の気持ちを伝えたところ「チームがおまえに救われたんだよ」と逆に感謝の言葉が返ってきたというエピソードに代表されるように、選手たちと血の通った関係を築いているのが見えてきます。ちなみに、三原球団代表は平松政次元選手のカミソリシュートに魅せられて以来横浜ファンだったそうです
 DeNAの取締役会長であり横浜DeNAベイスターズのオーナーでもある南場智子さんもまた、大きい予算と大きい人事を決め信頼できる体制を築くのが仕事で、現場のことには口を出さないようにしているとのコメントがありました。プロのことはプロを信頼して任せる姿勢を貫かれています。
 両名のこの姿勢からするに、現場の社員にとってはとてもやりやすい環境になっているのではないでしょうか。


②取引先および債権者

 プロ野球選手は球団の労働者ではありません。プロ野球選手は個人事業主であり、球団と年ごとに契約を結び野球をしています。つまり、球団とプロ野球選手の間は債権・債務の関係があると思います(どちらが債権者・債務者か理解しきれていないので曖昧です)。
 ということで、ここで選手についても触れておきます。
 横浜DeNAベイスターズでは、コーチたちが教えを押し付けるのではなく、選手たちの自主性を重んじ、気付いて自ら行動を起こしたものを支えていきます。2019年秋季キャンプには投手、野手ともに個別練習に特化。ベイスターズのキャンプは他球団と比べ緩いと言う解説者もいますが、むやみに力任せに過重負荷になるほどの練習をするよりも、リラックスした状態で合理的にトレーニングした方が効果的のように思います。一人一人足りない部分・磨きたい箇所は異なるのだから、個別練習に重きを置くのは理にかなっていると言えましょう。
 先代キャプテンの筒香嘉智選手は、キャプテンがすることとはと聞かれ、いたずらをすることと返答したように、様々な選手にいたずらを仕掛けていたのはファンの間では有名な話。試合前にはロッカールームでラテン系音楽を大音量で流しテンションを上げ、先輩・石川雄洋選手の1000本安打が出た試合後にはケーキを持って駆け寄り皆で祝ったなど、面白エピソードには事欠きません(筒香選手はチームを第一に考えて行動しており、こうした面白エピソードもチームのためであります、多分)。
 トレードで来た伊藤光選手、FAで来た大和選手、戦力外通告を受けやって来た中井大介選手・武藤祐太選手、……球界入りしてからずっと同一球団に在籍し続けるいわゆる生え抜きの選手が重んじられる風潮がありますが、ベイスターズは他球団から来た選手でも垣根なくともに笑い、共に喜び、共に悔し泣きする姿をよく見かけ、選手にとっていい環境であることを窺い知れます。なお、他球団から移籍しベイスターズで引退した田中浩康さんは2020年二軍内野守備走塁コーチに、同じく中川大志さんはスカウトに就任。アレックス・ラミレス監督だって、MLBではクリーブランド・インディアンス→ピッツバーグ・パイレーツに、日本でも東京ヤクルトスワローズ→読売ジャイアンツ→横浜DeNAベイスターズ→独立リーグの群馬ダイヤモンドペガサスと渡り歩きました。こうしたことからも、球団の人事面でも生え抜きにこだわるような垣根がないのがわかります。
 また、中継ぎのパットン選手が出産立ち合いのため休暇を取ったり、2020年新加入のオースティン選手の奥様が帰国するのに際し見送るため休暇を取らせたりと、プライベートでの大切な用事で試合を休むのを許可することが度々あります。監督が報道陣の前で話す言葉はポジティブで、公の場で特定の選手に苦言を呈するようなことはまずありません。選手たちを大切にしていることが伝わってきます。
 そんな彼らが繰り広げる試合は、2017年の3連続サヨナラ試合や2018年の代打ウィーランド(通常先発投手であるウィーランド選手を代打に起用)、2019年の序盤に10+5連敗もしておきながら夏には首位と0.5ゲーム差に詰め寄るなど、嘘だろと驚くほど強烈にドラマチックです。まさにDeNAがミッションに掲げるDelight and Impact the World(世界に喜びと驚きを)を体現しています。
 新キャプテン佐野恵太選手のもと新しく始動するチームを楽しみにしています。

 取引先の代表例としては、先にも触れた球団オリジナルビールの一つ、ベイスターズエールの醸造元について触れます。
数あるベイスターズビールの中でも人気を博すベイスターズエールですが、このコロナ禍でベイスターズエールの醸造を手がける横浜ベイブルーイングは野球開幕延期に伴い横浜スタジアムでの販売がなくなり、さらに経営する飲食店舗の休業を余儀なくされ、3月は売り上げが前年比75%減。社長の鈴木真也さんが自身のTwitterでこの窮状を訴え店頭のみで売り出していた限定ビールの通信販売を始めた旨を投稿したところ、ベイスターズエールの危機を危惧したベイスターズファンをはじめ大きな反響があり、半日で8千本もの注文が殺到。やがて自社のビールのみならず、他のクラフトビールとのセットや地元飲食店の食品を抱き合わせで販売を開始し、自社のみならず他社の灯も消えないよう工夫。5月にはtvkで放映された過去のベイスターズの試合を振り返る番組にCMを打ち、再度多数の注文が寄せられました。
 つまり、ベイスターズのファンがベイスターズエールの危機に積極的に購買行動を起こし、ベイスターズから派生してファンが取引先のファンに、さらにその先のファンに、と輪が広がっていっているのです。
 商品を製造する企業と組んでベイスターズの名を冠するものはいいものだと思われベイスターズファンがファンになるような品物づくりをしブランド形成ができていくと、取引先企業の下支えや成長につながっていくのではないでしょうか。

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ベイスターズエールから派生した期間限定のビールMake me Happyは、ラズベリーの甘酸っぱさが効いた、初夏にぴったりの爽やかなビールでした。

③株主

 横浜DeNAベイスターズの筆頭株主はDeNAです。
 決算公告(https://kanpo.tremolo.work/ 他)から2015年12月期(第63期)→2016年12月期(第64期)→2017年12月期(第65期)→2018年12月期(第66期)→2019年12月期(第67期)の株式会社横浜DeNAベイスターズの純利益/利益剰余金を追うと、(第63期)0.64億円/0.55億円→(第64期)8.60億円/9.15億円→(第65期)11.93億円/21.08億円→(第66期)11.18億円/32.26億円→(第67期)15.25億円/47.51億円と推移しています。

利益推移

 特に2019年には横浜スタジアムのライトウィング席が完成し約4000席が新たに設けられた上に、ペナント2位となり初めてクライマックスシリーズを本拠地横浜スタジアムで開催し、利益を押し上げています。
 一方DeNA本体ではのれん減損などが響き、2020年3月期通期の連結決算は売上高が1214億円(前年同期比2.2%減)、営業損益は457億円の赤字(前年同期は135億円の黒字)に、最終損益としては492億円の赤字に陥っています。
 DeNAの柱であるゲーム事業はじめ他事業が低迷する中、単独で黒字をコンスタントに続ける株式会社横浜DeNAベイスターズは非常に優秀です。
 しかし新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みプロ野球のオープン戦や練習試合が無観客で行われ、開幕は3ヶ月近くずれ込み、試合数は削減。その影響は今後大きく響いてくるでしょう。いまだ予断を許さない状況が続く中、チケット収入以外の収入をどう上げるかが課題になります。
 もちろんそれは現場・経営陣含め重々受け止めているところで、南場オーナーは山﨑康晃選手とのリモート対談で、なりふり構わず経営努力しなきゃいけないとの言葉を出していました。

 一方、間接的ながらDeNAの株主の視点からするとどうでしょうか。
もちろん先に挙げたようにスポーツ事業単独では2020年3月期通期までは黒字ですがこれから新型コロナウイルスの影響がどう響くか見通しが立たず、DeNA全体としてはスポーツ事業・ゲーム事業と共に柱となる新機軸をなかなか確立できておらず、成長性を見込めるか厳しい判断をする投資家もいることでしょう(個人的意見です)。自社株買いや自己株式の消却などといった対策を講じてはいますが、株価は、ベイスターズ買収前の2011年始値が2,914円、横浜DeNAベイスターズ誕生後の2012年始値は2,321円、2020年始値は1,739円になっています。また、年間累積売買高は2012年には1,369,224,000株あったものの、2019年は428,864,600株で、2012年の約31.3%程度に落ち込んでいます。

株価推移

日本経済新聞サイトよりhttps://www.nikkei.com/nkd/company/history/yprice/?scode=2432

 個人の投資家の中には、株主優待を目当てにしている方もいます。DeNAの株主優待は、横浜DeNAベイスターズプロ野球公式戦チケット、人気試合への招待(抽選)、オフィシャルグッズショップ10%オフクーポン、株主限定感謝イベント(抽選)、同じくDeNA傘下の川崎ブレイブサンダースプロバスケットボール観戦チケットです。
 球場や試合会場に比較的容易にアクセスできるベイスターズファン(あるいはブレイブサンダースファン)には嬉しい内容です。しかし、スポーツに触れるチャンスではありますが、スポーツに完全に興味のない方、株主優待を目当てにする首都圏以外にお住まいの方への訴求力があまりない上に、今回の新型コロナウイルスの影響で観戦できない事態も十分ありえます。
 例えば横浜DeNAベイスターズと川崎ブレイブサンダースのオリジナルビール詰め合わせ(そうすれば球場・会場で売るはずだったビールの有効利用につながるのでは)など商品との選択制にするなど、株主優待の魅力を上げる努力もほしいところです。
 株主優待をやめる企業もある中、欲しがりすぎでしょうか。要は、DeNA株にもっと魅力がほしい、ということです。
 リターンはお金だけではないとは言いますが、投資するからには何かしらのリターンは欲しいところ。投資した資金が何かしらの役に立っている、横浜DeNAベイスターズ含めDeNAの事業をより深く知れるチャンスとなる、などの手ごたえがあると、DeNA株への見方は変わるかもしれません。


④顧客


 ファンは魅力を感じているから横浜DeNAベイスターズのファンになっている訳ですが、ファンからの人気が如実に表れる観客動員数はどう推移したでしょうか。
 2011年12月、ベイスターズは親会社がTBSからDeNAに移り、名称も横浜ベイスターズから横浜DeNAベイスターズに変わりました。
 2011年はホームゲームでの入場者数が110万2192名(1試合平均1万5308名)だったのが、2012年以降増加の一途を辿り、2018年には初めて2百万人を突破し202万7922名(1試合平均2万8166名)に、2019年はライトウィング席約4千席が加わり228万3524人(1試合平均3万1716名)と過去最高を記録しました。

ホームゲーム入場者数推移

参照元:NPB統計データ
BASEBALLKING 2020.1.20配信『横浜スタジアムのレフト側「ウィング席」新設で収容人数は3万4046人に』

 横浜スタジアムの座席稼働率は、2011年は50%程度だったのが、2018年には97.4%、2019年には98.9%に。完売することも多々あり、横浜スタジアムでの試合はチケットが手に入りにくいとさえ言われています。2020年にレフトウィング席が稼働開始したらどれだけ稼働率が変わったか、それによりチケットを取りやすくなったか、見てみたかったものです。

 球場に足を運ぶ人は増えましたが、その満足度はどうでしょうか。
慶應義塾大学理工学部管理工学科の鈴木秀男教授は、2009年よりプロ野球のサービスに関し、前シーズンに1回以上試合観戦をしたファンに最も応援するチームについての満足度を調査。総合的な満足度、総合的に見た場合の理想への近さ、チーム成績、チーム選手、球場、ファンサービス・地域貢献、ユニホーム・ロゴ等の項目から算出した、各球団の総合満足度スコアを発表しています。
 それによると、横浜DeNAベイスターズは2020年1月調査では総合満足度スコア平均値68.93をマーク、福岡ソフトバンクホークス、広島東洋カープ、埼玉西武ライオンズに続いて4位となっています。
 日本一に輝いたホークス、地域密着が著しいカープ(セ・リーグ4位)、パ・リーグ優勝を果たしたライオンズに続いて、セ・リーグ2位のベイスターズがランクイン、セ・リーグ優勝の読売ジャイアンツは66.2ポイントの5位になっています。
 各項目のスコアについては発表されておらず憶測になりますが、横浜DeNAベイスターズに成績だけではない魅力をファンは感じていると言えるのではないでしょうか。
 チケットが手に入りにくい点が満足度にどのように影響を与えているのか、知りたいところです。

 横浜DeNAベイスターズは事あるごとにモチベーションを上げ盛り上げるような映像を配信しています。その映像には、球団として伝えるべきメッセージを込めるとともに、SNSなどからファンからの反応を集め、球団とファンをつなぐ役割を果たしています(MarkeZin2020.6.4配信『「映像ディレクターはファンと球団の中間管理職」横浜DeNAベイスターズの動画はなぜ刺さるのか』)。広報担当の方はSNSでのファンの声を吸い上げているのではと思いたくなるような企画を始めたり発信したりすることも度々あり、球団はファンの方を向いています。

 もちろんファンは野球の試合を享受し勝敗に一喜一憂するものですが、単に娯楽として享受するだけでなく、球団の姿勢を理解する、地域・社会へのアプローチに共感できたら協力する、球団の理念を自分ごとに置き換え実践するなどと積極性を持てば、球団の可能性の輪を広げる一助になるのではないでしょうか。


⑤住民や地方自治体などの地域
⑥地球や環境などといった社会

 ここは重なる部分が大きいので、合わせて。
 横浜DeNAベイスターズは横浜市と包括連携協定を提携し、横浜DeNAベイスターズをはじめとしたDeNAグループのスポーツリソースを中心に、行政組織・パートナー企業が三位一体となり、スポーツの力で横浜の街に賑わいをつくることを目指す“横浜スポーツタウン構想”を打ち出しています。
 これは横浜スタジアムのにぎわいを核に、スポーツ×クリエイティブをコンセプトにしたTHE BAYSのある日本大通り、中華街、石川町駅周辺、横浜文化体育館、大通り公園、教育文化センター跡地、横浜市庁舎跡地といった横浜市関内・関外地区を計画策定対象地域にし、スポーツ施設やスポーツコンテンツを活かしたまちづくりをするというもの。スタジアムやアリーナなどの施設が、単なるスポーツ興行の器であるだけでなく、普段から周辺の街のにぎわいを作り出す装置となり、環境に負荷をかけずに産業・文化・人・物・情報などが行き交う場となるような仕組みを作っていこうとしています。
 横浜スタジアムは、すぐ近くに横浜中華街や元町商店街、港の見える丘公園、馬車道、山下公園やみなとみらいなどのベイエリアなど、魅力のある場所が多くあり、試合のある時には神奈川県内や周辺地域より球場に集まった人々がさらに足を延ばして周辺地域が賑わう光景をよく見かけます。この賑わいを、試合のない時にも創出したいと考えています。
 元々横浜は高校野球やサッカーなどスポーツ競技も観戦も盛んなところですので、見る、そして自ら実践しスポーツに親しむことを促進することで、関内関外地域の活性化を目指す、ということでしょうか。
 具体的にどのようなことをプランニングしているのか、発表はこれからですので、楽しみにしています。

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関内、馬車道、伊勢佐木町、横浜中華街、元町商店街などハマスタ周辺では、街頭にフラッグバナーが掲げられる光景がお馴染みになりました。

 また地域経済活性化を目指す施策として、横浜DeNAベイスターズは新たなスポーツ産業の共創を目指す新事業BAYSTARS Sports Accelerator(ベイスターズ スポーツ アクセラレータ)にて採択した株式会社ギフティと共に、横浜スタジアムや周辺地域での加盟店で決済できる電子地域通貨サービスの検討をしています。地域通貨は、地域にお金が落ち、そのお金がまた地域で使われ……と、お金の地産地消を目指すものです。これを使って、例えばある一定数以上一軍登録日数がある選手には年俸の一部を電子地域通貨で支払えば、かなりの額が地域に確実にお金が落ちるような仕組みになるでしょう(私自身があまり高級ブランド品に興味がないからか、選手たちが国産の高級バッグや時計、衣類、車を愛用してくれたら、海外ではなく国内に多額が回っていき、国内経済にプラスになるのに、と安直に思うことがあります)。

 経済面だけでなく、本来の野球振興の面においても、これまでにも選手OBがコーチを務めるベースボールスクール、小学校への訪問授業や幼稚園・保育園への野球ふれあい訪問、プロ・アマの壁を超えた神奈川県野球交流戦の開催など、地域における野球振興に寄与してきました。
 また、ベースボールキャップや球団のマスコットを描いた絵本の配布、選手寮で出されるカレーを給食に提供するなど、地域に根差す努力を続けています。
 さらに、開幕延期を受けて球団オリジナルフードのベイマグロ皿を寄付しています。

 これまでの様々な試みに加え横浜スポーツタウン構想の目標の一つでもありますが、恒常的に横浜DeNAベイスターズが地域に貢献することはできるでしょうか。
 北海道日本ハムファイターズが新しく拠点にする2023年開業予定の北海道ボールパークでは、併設する温浴施設を開放、グラウンドでは仮設テントを設置し、災害時の避難場所となることを想定しています。
 これをヒントに、横浜スタジアムに災害時拠点の性格を持たせられないでしょうか。
 例えば横浜スタジアムに太陽光発電システムを設置、あるいは廃熱を利用し(実際、真夏の観客席は下のコンクリ部分が熱くなり蒸し風呂状態に)電気を作り蓄電、球場で使わない余剰分は売電。停電時には横浜スタジアムで充電できるよう近隣住民などに開放。既にリリーフカーに電気自動車の日産リーフが使われていますが、球団の使用する車を電気自動車に統一すれば、いざという時に充電カーとして方々に配置することもできます。
 横浜スタジアム発電所案は、正確には横浜DeNAベイスターズの地域貢献・環境保護ではなく、完全に私の妄想に過ぎませんが、一考の余地はあるのではと思っています。
 ちなみにすでに行われている環境面については、フードの容器を紙製にするなどできる部分で脱プラスチックに、電子チケットを併用しペーパーレスを選択できることが挙げられます。また、選手が使ったバットを&9のビール注ぎ口のハンドルや選手寮である青星寮のインテリアに利用。横浜スタジアムのグラウンドの人工芝を張り替えた際にはその芝をグッズに使って売り出したり、観客席に使われていた椅子をリメイクして販売したりと、工夫を凝らして使い古しを再利用する面白い試みをしています。
 しかし大きく環境保護に寄与する施策をできているわけではありません。
 例えば、再生プラスチックを利用する、リサイクル・ポリエステルを使った衣料を販売する、不要になったタオルを回収する(実に多くのタオルを販売しています)など、様々な取り組みができるかと思います。

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人気フード、青星寮カレーとベイ餃子の容器。


⑦政府や国際機関などの国

 東京オリンピック野球日本代表選手に恐らく数人選手が選出されるのでは……ということを除くと、スポーツの振興になるでしょう。スポーツの楽しさを通して身体を動かす運動習慣を身につけることで、基礎体力をつけ、生活習慣病を抑えることにもつながっていきます。国民の健康・体力増強対策は、昭和39年に閣議決定されて以来今日まで続いています。

 スポーツの振興と合わせて、スポーツマンシップの普及もぜひお願いしたいです。
 スポーツマンシップとは、日本スポーツマンシップ協会によると、Good gameを実現しようとする心構えとのことです。つまり、スポーツすること自体を楽しみ、良い試合をするために相手や仲間、ルール、審判への敬意を忘れず、困難や危機を恐れず、公平公正に正々堂々と全力を尽くすことと言えましょう。
 よく、上から理不尽なことを含め何かを強要される体質を体育会系と呼ばれていますが、そういったパワハラ体質はスポーツマンシップから外れています(そもそも、体育会系=パワハラ体質というのは偏見かと)。
 このgood gameを仕事や学業に置き換え、スポーツマンシップを実生活でも実現できるよう努力することを広げていければ、互いを尊重しあえる信頼のおける社会を、ひいては国を作っていくことができるのではないでしょうか。


⑧経営者

 南場智子オーナーは、応援歌やチャンステーマを歌い、自らフードを買いに行き、観客席から叫び、ベイスターズの動画を見すぎて会議に遅刻してしまいそうになるなど、完全にファンの一人です。
 そんな南場オーナーは、球団を持つ理由として、社会貢献を挙げていました。

「球団を持つ理由が『社会貢献』であるとして、本当に社会貢献をしたいのであれば、球団運営そのものが事業として成り立つ状況にしなければならない。そうでなければ親会社の浮沈により、スポーツに影響を与えてしまうわけです。」
Number web <直撃インタビュー>“南場ママ”が明かす満員御礼の思考法。

 こういう経営者の元だからこそ、横浜DeNAベイスターズは黒字化に成功、多くのファンから愛され、大きな影響を与え得る球団になったのです。
南場オーナーのおかげで、どれだけ多くの喜びが生まれたことでしょう。


最後に


 “八方よし”に沿って(脱線しつつも)横浜DeNAベイスターズについて多角的に見てまいりました。
 横浜スポーツタウン構想や環境対策、直面する新型コロナウイルス禍にどう対処していくのかなどまだ見えてこない部分や不十分な点がありますが、私は横浜DeNAベイスターズは持続可能な地域経済の核になる可能性があると思っています。

 実は、MLB(米プロ野球リーグ)、NFL(アメリカンフットボールリーグ)、NBA(米プロバスケットボールリーグ)の各リーグは持続可能性の推進の部署を設置し注力、2021年に延期された東京オリンピック・パラリンピックも国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に沿った大会運営を目指すなど、世界のスポーツ界はSDGs達成に向け取り組んでいます。

 2019年のセ・パ公式戦入場者数は、2653万6962人。
 もちろんこれはリピーターを含めての数字ですが、それでも相当な数の人が球場に足を運んでいるのは確かです。
 北海道、東北、首都圏、中京圏、近畿圏、中国地方、九州にあるセ・パ12球団それぞれが持続可能な“八方よし”の形を目指せば、そしてファンがそんな球団の理念やこれからの展開、ビジョンに共感・賛同し、直接関わらなくても自分事に落とし込んで実践していけば、持続可能な輪はどんどん広がっていくことでしょう。

 野球から形成されていく持続可能な社会。なんだか面白そうです。


 2020年プロ野球開幕日が6月19日と発表されましたが、しばらくは無観客。観客がスタンドに入れるようになるのは7月頃だろうと言われていますが、新型コロナウイルスの感染状況によるでしょう。
 青空の下、額に汗し応援しながら飲むベイスターズエールは格別の美味しさです。
 そんな日が一日も早くまた訪れることを、そして新型コロナウイルス禍を境に理不尽なことが横行する社会から抜け出せるよう願いながら、知識不足で本来の持続可能性に沿って考えられているかわかりませんが、筆を取った次第です。

 『持続可能な資本主義』のカバーの袖には、こう書かれています。

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誰かの犠牲で
成り立つ経済を、
終わらせよう。


喜びで溢れる経済社会ができることを望んでいます。


(ちなみに、写真に写り込ませているオリツルサイダーは、サイダー発祥の地・横浜の地サイダーです。甘すぎずさっぱりした飲み口でいいですよ。オリツルサイダーの製造元・坪井食品では、ベイスターズラムネも手がけています。)

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