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落語日記 寄席の主任選抜競争という激戦を勝ち抜いている三朝師匠

浅草演芸ホール 9月下席昼の部 春風亭三朝主任興行
9月25日
一昨年7月下席昼の部、昨年11月下席昼の部に続いて浅草演芸ホールにおいて三度目となる春風亭三朝師匠の主任興行にお邪魔してきた。
コロナ禍にあって、感染を恐れて不特定多数が集合する演芸場に出向くことを控えている高齢者も多いと思う。平日昼間のメインの観客は、仕事をしていない高齢者だ。そんな観客の柱となる高齢者の観客が減少している状況は、寄席の経営を苦しくしている。
そこで寄席の席亭は、興行成績をより重視し、集客が見込める人気者を少しでも多く出演させたいと考えているはずだ。また、若者にも人気や知名度がある落語家を呼びたいとも考えるだろう。そうなると、席亭が呼びたい落語家は限られてくる。人気者の取り合いになるのだ。なので、寄席の顔付け競争はかなり激化していると思われるのだ。

今の寄席の顔付けを見ていると、人気者であふれていて、以前にもまして顔ぶれが固定化してきているように感じる。また、人気者の寄席の掛け持ち出演も多い。その結果、寄席に出演できる落語家と出演できない落語家とに分かれてきているのは間違いない。そして、寄席に出演できる落語家のなかでも、トリを務める主任に抜擢される落語家はもっと数が限られてくる。現実として、落語協会の真打の中にも、主任を務めたことがない真打は数多くいるのだ。
主任に抜擢するのは、寄席の席亭の役目。集客が見込める人気者であって、かつ、トリのネタを掛けることができる実力者が選ばれる。しかも、選ばれる要素はそれだけではない。寄席の常連客に好みの落語家がいるように、席亭にも好みがある。なので、席亭に好かれることも重要な要素なのだ。そんな種々の条件や運も混じっていて、寄席の主任選抜競争はかなり激化している。

落語家にとって、寄席の出演は人気のバロメーターでもある。どの落語家だって寄席には出たいはずだ。また、主任を務めることは、落語家にとっては誇らしい栄誉なのだ。
そんな状況で、三朝師匠は真打昇進後、寄席に出演し続け、毎年のように主任に抜擢されている。まさに人気と実力の証しであり、ファンとしても嬉しい限りだ。
三朝師匠が寄席で人気の理由は色々と考えられるが、私が感じる一番の理由は、一朝師匠の芸風を引き継いでいるからというもの。一朝師匠は、噺の中で江戸っ子気質あふれる人々を見せてくれるし、そのうえに明るく華やかさがある。ネタ数も多いし、寄席で引っ張りだこである一朝師匠。なので、三朝師匠が寄席で人気なのも、おそらくこの一朝師匠の人気の理由と共通しているから、そう感じるのだ。
そんな三朝師匠のハレの高座を拝見したくて、浅草に出掛けてきた。

途中入場

アサダ二世 マジック
お馴染みのツカミのロープの手品。いつも結び目がこんがらがるところを、この日は時間をかけて丁寧に。

三遊亭歌奴「鼓が滝」
マクラでは、三朝師匠と同じ大分県出身という話。大分県出身の落語家は増えてきましたが、県庁所在地なのは私だけ。
演目は得意の一席。声色がいつも心地良い。

春風亭一朝「目黒の秋刀魚」
弟子の主任興行を、師匠がアシスト。一朝師匠をはじめ、この一朝一門は皆寄席の人気者だ。この日も兄弟弟子も集合して、主任を盛り上げる。
噺のなかの家来が人間味にあふれて、本音が溢れ、殿様に対してぞんざいな感じが楽しい。

仲入り

林家ひろ木「クイズの王様」
いつもの雰囲気。浅草ではよく拝見する。浅草の席亭さんがハマっているのかも。
ひろ木師匠の雰囲気を活かした新作。いい加減な解答が、見事な正解になっていく可笑しさで爆笑を呼ぶ。

すず風にゃん子・金魚 漫才
久しぶりに拝見。お二人とも変わらずお元気。ネタは朝ドラ「エール」に因んで、古関裕而の名曲を題材にしたもの。朝ドラネタは旬を過ぎているが、古関メロディーの話は時代を超えて皆さんで楽しめる。漫才の題材としてはグッドなチョイス。

春風亭柳朝「お菊の皿」
ここからは、一朝一門でトリまで駆け抜ける。まずは惣領弟子。柳朝師匠も、フワフワとした独特の雰囲気を持つ。呑気な江戸っ子たちの馬鹿騒ぎに合っている。

春風亭一之輔「壷算」
膝前は、人気者の兄弟子。こちらも、いつもの様に機嫌悪そうな表情で登場。マクラでは、妻が5円安い柔軟剤を買いに電車で出掛けるという買い物の話。このシニカルさが冒頭の表情にぴったりで可笑しさ倍増。恐妻感も匂わせて、共感を呼ぶ。
本編は、コンパクトながらメリハリの効いた一席。買い物上手な兄貴分のふてぶてしさと店の主人の弱々しさの対比が楽しい。

翁家社中 曲芸
翁家和助・小花夫妻の息の合ったコンビ。和助さんのチラッと見せる恐妻キャラに似合わない小花さんの可憐さ。ほのぼのしていて、私生活での仲の良さがあふれている。

春風亭三朝「佐々木政談」
さて、お待ちかねの登場。いつものような飄々とした感じは変わらず。この気負っていないところが三朝師匠らしさだ。
マクラでは、引っ越しされて畳の和室生活から、椅子の洋室生活への変化した話。何気ない日常の話から、いつの間にか本編へ。
三朝師匠では初めて聴く演目。この噺は、四郎吉のあどけなさと奉行の武士らしさのぶつかり合い、対比が見せる可笑しさや楽しさを感じさせてくれることが大切な肝だと思っている。
この点からすると、この三朝師匠の一席は、四郎吉が生意気ながらも子供らしさを失わなず、幼さやあどけなさを充分に感じさせるもの。また、南町奉行の佐々木信濃守の威厳を持った武士らしさも見事。少し堅物で融通が利かない風でありながら、その実は庶民に対する優しさを持つ人間味にあふれた武士ということが伝わり、それによって四郎吉との会話は、ほのぼのとした優しい雰囲気を醸し出している。
強烈に可笑しいクスグリや笑いどころが少ない噺だが、四郎吉が見せる頓智と、それを腹を立てずに優しく受けとめる佐々木信濃守の対話を楽しむのが、この噺の核心。二人の人物描写が上手くないと楽しくない。そして、この人物描写は、まさに一朝師匠ゆずりのものなのだ。
そんな、主任らしい見事な一席を観せてもらって、満足して帰路についた。

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