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落語日記 燕弥師匠が奉公人の悲哀を熱演

RAKUGOもんすたぁず CHAPTER83
6月6日 古石場文化センター 2階大研修室
毎回通っている会。前回開催の3月7日に続けて訪問。今回もご常連さんでいっぱい。安定した人気の会。
入場前の検温、手指消毒、連絡先の記入は前回同様。しかし、前回までは演者は入場時には受付等にはいなかったのが、今回は燕弥師匠が受付に座り、志ん陽師匠が入り口に立ってお出迎えするという変化が見られた。状況が少し好転している証しだろうか。

オープニングトーク
いつものように、4人の出演情報の告知。大変な状況の中で、4人の皆さんそれぞれが頑張っている様子が伝わってきて、ファンとしては嬉しいお知らせだ。
二ツ目と前座だったころから始めた会が、全員真打となっても続いているのは珍しい。私も足掛け9年は通っている会。どうか、このまま継続して欲しい。

古今亭松ぼっくり「初天神」
志ん陽師匠のお弟子さん。変わったクスグリはないのに、妙に可笑しい一席。金坊が大人っぽい。この会の前座の松ぼっくりさんにとってこの会は、3ヶ月ごとの出演になるので、その成長の様子が伝わってくる貴重な機会となっている。

柳家小傳次「権助提灯」
レギュラー四人の皆さんも久しぶりに拝見。コロナ禍の大変な状況の中で、それぞれが前向きに頑張っていることが、この会で皆さんのお姿を見ることから伝わってくる。
マクラは趣味の話から、人の気性は十人十色、焼きもちを焼く人の性分の話へ。女の焼きもち焼きより男の焼きもち焼きの方が、質が良くないと。なるほど、何となく分かる気がする。落語を聴いていると、そこに登場する嫉妬心は、女性の方が表立って見えるので分かりやすくてシンプル、男性の方は隠れていて見えづらく陰湿、私的にはそんな違いを感じる。
そんなことを感じさせるマクラから、本編は本妻と妾の悋気対決の噺。
この噺は旦那が女性陣の感情に鈍感な野暮天として描かれていて、観客は権助の視点で、旦那を哀れみそして笑い者にしている。この旦那の遊び人とは思えない野暮天具合が、小傳次師匠の雰囲気にピッタリ。普通に演じていて、いじられキャラが可笑しい。

春風亭三朝「天災」
このコロナ禍でも、寄席の出番が続いている人気者。この日も一朝師匠譲りの江戸っ子の馬鹿々々しさが弾ける一席で、安定の実力を発揮。
マクラは、今年1月に引っ越しした新居が暑いというお話から。ご自身の身辺のエピソードを楽しく聴かせてくれる。この辺りも寄席で受ける理由かもしれない。この会は、皆さんのマクラは、楽しみの一つだが、三朝師匠の身辺話は特に面白い。
江戸は職人が多かった、というところから職人の性分や職人の定番の小噺へ。何度も聴いている定番の小噺なのに、聴くたびに笑ってしまう。
この主人公の江戸っ子は乱暴者で喧嘩っ早い男。短気の江戸っ子と言うよりは、家族に暴力を振るう完璧DV男。現代なら犯罪者として糾弾されるべき亭主だ。
この心学者が乱暴者を諭す場面が見せ場となる。この乱暴者を、紅羅坊名丸先生が心学の理屈で根気よく説得する。暴れん坊を屁理屈でも説得し改心させてしまうのだ。この紅羅坊先生は、指導者としては凄腕なのだ。
キャラの濃いこの二人を見事に描き分けている。それぞれの性格が持つ可笑しさ。特に、紅羅坊先生が我慢強いというか、おっとりとしていて、乱暴者の反論にもめげずに淡々としているところは、三朝師匠らしさが発揮されている。そんな一席だった。

仲入り

古今亭志ん陽「家見舞」
オープニングトークでは大人しい志ん陽師匠だが、マクラではいつも饒舌で話も楽しい。この日の天気は雨模様、もんすたぁず開催日の天気としては珍しい。楽屋で雨の話をしていると、燕弥師匠から私の所為です、と思わぬ告白。燕弥師匠が主任のときに限って雨が降るという雨男らしい。それも、張り切れば張り切るほど雨が降るとのことなので、今日の燕弥師匠は気合が入っています。会場を穏やかに温める楽しいマクラ。
本編は、兄貴分の新築祝いを探す二人組のキャラが楽しい噺。噺が進行していくにつれて、二人ともろくに金を持っていないことが分かってくるが、当然のように道具屋で買い物しようとするふざけた二人組。この二人は漫才コンビのようにボケとツッコミの役割りのように、性格が違っている。間抜けだけど積極的な男と、冷静に状況を判断できるのに優柔不断で大人しい男。この二人の遣り取りで、終始笑わせてくれる。
このコンビの積極的な方が、肥甕であることがなかなか気付かず、繰り返される「何で?」という応えが、私的にはツボ。この日一番の爆笑の一席だった。

柳家燕弥「千両みかん」
登場早々、志ん陽師匠の話を受けて、雨男として張り切っていますが、どうやら雨があがったようです。ツカミから会場を盛り上げる。三朝師匠のマクラと同じく、燕弥師匠も自宅の話題。自宅の自室には冷房はない、室内で熱中症になりそう、そんなマクラから上手く本編へ。
主役の番頭の奮闘ぶりが楽しい演目。燕弥師匠の番頭は、結構、お調子者。真夏でもみかんが手に入ると簡単に考えてしまい責められるところに、奉公人の悲哀を強く感じさせる。みかん問屋の主人の落ち着いた商売人らしさが、息子可愛さのあまり少々ヒステリックになっている番頭の雇い主と対称的だ。
この噺の下げの切なさは、落語の中でも屈指のものと思っている。若旦那からの信頼が厚い番頭は、今までの奉公人生活を真面目に勤め上げてきたことが分かる。そんな奉公人の悲哀を見せてくれた燕弥師匠、下げの切なさも強く感じられる一席となった。

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