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落語日記 こみち流の音曲噺を主任興行で披露

鈴本演芸場 11月下席夜の部 柳亭こみち主任興行
11月28日
柳亭こみち師匠の鈴本演芸場の夜の部での初主任興行。最近の鈴本演芸場は、主任の演目をテーマに沿った噺をネタ出しする企画物の主任興行を開催している。この下席夜の部は「こみち流音曲噺九夜」と題し、三味線や太鼓などの鳴り物が入った音曲噺をこみち師匠が披露する企画の主任興行。この芝居は9日間なので、9演目。公表された演目は以下のとおり。
第一夜 舟弁慶
第二夜 七段目
第三夜 任侠流山動物園
第四夜 三枚起請
第五夜 植木のお化け
第六夜 らくだの女
第七夜 鰍沢
第八夜 稽古屋
第九夜 掛取万歳

これを見ると、音曲噺として有名なのは「稽古屋」くらいで、その他の演目は元々は音曲噺ではない。なので、ネタ出しされている演目は、普段は音曲噺でない演目をこみち師匠が音曲噺としてアレンジされたのだと思われる。
タイミングが合ったこの日は、まさに本来の音曲噺である「稽古屋」。芸事の得意なこみち師匠ならではの見事な唄や踊りが見られるだろうとの期待を持って出掛ける。仲入りの時間から発売される幕見券という割引で入場。
チラシには膝代りの出番にぺぺ桜井先生が書かれていたが、ネットの案内では柳家小春師匠に変わっていた。代演ではなく顔付けの変更のようだ。ぺぺ桜井先生が体調を崩されたのだろうかと、ちょっと心配。

仲入り

ニックス 漫才
協会の寄席ではお馴染みとなってきたお二人。この日も定番の「そうでしたかぁ」の連発で客席を暖める。

古今亭文菊「猫の皿」
出囃子にのってゆるゆると登場する歩き方は独特。ご自身の気取った雰囲気をいじるマクラはいつもどおり。この日は、生まれ持った品(ひん)ではなく、こんな風に育ってしまいすみません、と頭を下げる初めて聴くパターン。嫌味を笑いに変えられるのは、文菊師匠ならでは。
この演目は、文菊師匠で聴くのは初めて。笑いどころの少ないこの噺を、文菊流にどう聴かせてくれるのだろうか、そんな期待が高まる。そして、聴き終わった印象は、旗師の表情の変化で気持ちを伝え、その表情の変化が笑いを呼んでいた一席だった。
何とか茶屋の親爺を騙そうとして、何気ない世間話からいよいよ猫に話題を振ろうと決意する瞬間、2、3秒の沈黙があり、その短い間での微妙な表情が見事。猫を可愛がった後に、何気に猫が食べていたお目当ての梅鉢も貰いたいと言う前にも間があった。ここ一番のセリフを言おうとするときの旗師の動揺や臆病さが伝わる表情を見せる。そして、親爺が高麗の梅鉢と知っていると判明したときの旗師の落胆ぶり。そんな感情の変化を微妙な表情で伝えてくれた。
ずる賢い計略を行う男が意外と小心者で、大袈裟に言うと良心の呵責との葛藤が根底にあることを表情で伝え、それによって思わずふと笑ってしまう、そんな見事な一席だった。

柳家小春 粋曲
膝変わりは、ぺぺ桜井先生に替わって柳家小春師匠。この年の3月に落語協会に入会したばかりだが、最近、寄席での出演も増えている。
この日の昼間は陽射しもあって陽気が良く、こんな天気を何て言いますか、そう小春日和です、そんな挨拶から始まる。
小菊師匠の姉妹弟子、でも小菊師匠では聴いたことのない唄「きのこ節」などが聴けて楽しい。小春師匠ならではの独自性とふんわりとした雰囲気が魅力の高座。

柳亭こみち 特別企画公演~こみち流音曲噺九夜~ 第八夜「稽古屋」     
マクラはまず、この企画公演の趣旨説明から。得意の邦楽や舞踊の芸事を活かせる音曲噺をネタ出しで口演するという企画。
踊りの稽古の話から、昨年ある日突然右腕が上がらなくなったときの経験談。もしかして四十肩では、そんな心配も診察の結果は石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)という中年女性に多くみられる病気。病名が判明してからは、すぐに完治したそうだ。この病名もオチにするマクラで笑いを呼ぶ。
ネタ出ししている演目のうち、この日の噺「稽古屋」のみが、本来の音曲噺。他の演目はこみち流アレンジで、音曲噺に改作されているようだ。なので、この芝居唯一の本格の音曲噺を披露する日に行けたのだ。邦楽や日本舞踊の稽古に励んできたこみち師匠、まさにその成果を十分に発揮された本寸法な音曲噺の高座だった。

馬生師匠の得意な演目で、何度も聴いてきた噺。この日のこみち師匠の高座は、こみち流の改作ではなく、男性目線の男性の欲望を描いた本来の型。女性演者であることの違和感をまったく感じさせない高座は、女性落語家のひとつの到達点だ。
見どころも、前半のどうしたらモテる男になれるのかの問答場面と、後半の稽古屋での間抜けな稽古風景のどちらも省略なくきっちりと聴かせてくれた。
この演目では、こみち師匠が従来から取り組んできた改作のように登場人物の性別を変えることなく、男の欲望を女性のこみち師匠が描いてみせる。女にモテたい、その秘訣を知りたいという八五郎の欲望、それを真面目に受け止めて答える岩田の隠居。その男同士のたわいのない会話を、ふざけた八五郎と隠居の貫禄で、違和感なく馬鹿々々しい会話によって爆笑させてくれる。
そして後半の稽古風景では、まさにこみち師匠の本領発揮。今まで培ってきた唄や踊りの技量を発揮して、清元の喜撰の唄声、娘道成寺手鞠唄の稽古での上半身だけで表現する日本舞踊を見事に見せてくれた。伴奏の音曲とも息がぴったり。邦楽の楽しさ伝える高座でもあった。
その芸事がしっかりしているので、八五郎の間抜けな稽古とのギャップが大きく、これが笑いに繋がっていく。音曲の楽しさと滑稽噺としての可笑しさ、充分に味わえた一席。
こみち師匠の芸風を活かした鈴本の企画に、見事に応えた主任興行だった。


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