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落語日記 老舗の地域落語会デビューを果たした馬治師匠

第36回 亀戸寄席 金原亭馬治独演会
2月25日 亀戸香取神社参集殿
今や地域落語会の老舗となっている亀戸寄席。過去の出演者は、人気者が名を連ねている。そんな亀戸寄席に馬治師匠が初登場。
何度か亀戸寄席にお邪魔していて、その規模や雰囲気は経験しているので、ここに出演できることの凄さは知っているつもり。なので、ここに馬治師匠が出演されると聞いたときは、欣喜雀躍。と同時に、人気者を聴いてきて耳の肥えた亀戸寄席の常連さん達に馬治師匠の落語は受け入れてもらえるだろうか、そして客席が埋まるだろうか、そんなことが馬治ファンとしては心配になる。
しかし、当日は客席が埋っていて、ほっとひと安心。丹精会にいつも来ていただいている馬治ファンも、数多くお見掛けした。本当にありがたい限り。
私自身は、2018年2月24日の一之輔師匠の会以来の5年ぶりの亀戸寄席訪問となる。
この日もスタッフの皆さんが、熱心に運営されていた。そんなスタッフの皆さんをはじめ、馬治師匠を今回オファーしてくれた亀戸寄席の席亭さんには感謝申し上げたい。
 
三遊亭二之吉「十徳」
前座は吉窓師匠のお弟子さん。初めて拝見。前座ながら笑いを取りにいっている意欲的な高座。演目も、珍しい噺。吉窓一門はよく掛けているそうだ。
 
金原亭馬治「真田小僧」
まずは、地域落語会で披露しているだろう定番のマクラから。この日の観客を大切にしなさいという教え、蟹と入れ歯、師匠の入院と馬治ファンなら何度も聴いてきたマクラのフルコース。これは、初出演の亀戸寄席で、初めて馬治師匠を観る観客を充分意識したもの。
マクラの客席の暖かい反応に、まずはお馴染みの滑稽噺。挨拶代わりのこの噺で、手応えを掴んだようだ。
 
金原亭馬治「棒鱈」
二席目のマクラは、馬治師匠と亀戸の街とのご縁の話から。押上に住んでいた馬治師匠は、亀戸は馴染みのある場所で、よく飲みに来ている街でもある。そんな亀戸で落語会が出来る喜びを語る。演者と地元とのつながりの話は、亀戸寄席の地元の常連さんにとっても楽しい話であり、ツカミはオッケーだ。
一席目の客席の暖かい反応を受けて、二席目も得意の滑稽噺。今では馬治師匠の代名詞と呼んでもよい演目。酔っ払いと田舎侍との部屋越しの掛け合いは何度聴いても可笑しい。
噺の終盤で、観客お一人の体調が悪くなるアクシデントが発生。幸いなことに大事には至らなかったようだ。高座を降りる前に、観客を心配する様子を見せた馬治師匠。よっぽど中断しようかどうか、迷われたとのこと。なかなか難しい判断だ。
 
仲入り
 
金原亭馬治「百年目」
後半の演目は、春の噺としては長講の人情噺。馬治師匠のこの噺は、2018年4月になかの芸能小劇場での独演会で聴いて以来の5年ぶり。馬治師匠はこの噺の番頭さんに相応しい年齢となったなあと感じさせるくらいに、リアル番頭さんを見せてくれた一席。番頭が見せる余裕と失意の落差の表情。馬治師匠の年齢からくる円熟味を感じるのだ。
落語聴き巧者である亀戸寄席の常連さんたちもきっと満足させたはずと、馬治ファンとしては確信している。
この噺の下げのセリフ「百年目だと思いました」の意味が、昨今は通じ難くなっている。この下げの元となっている「ここで会ったが百年目」という決まり文句の意味を解説する演者もいる。このように、現代では通じにくくなった下げについて、前振りで説明する落語家は多い。二席目の棒鱈の下げの「故障が入った」も同じく意味が通じなくなっている。そんな二席の下げを、馬治師匠は特に解説をしなかった。これは、落語好きにはお馴染みの演目であり、落語ファンが通う亀戸寄席の観客を信頼して、解説をしなかったのだと思う。
馬治師匠の熱演に対する客席の暖かい反応をみて、馬治ファンとしてもひと安心。さて、馬治師匠は亀戸寄席にまた呼んでもらえるだろうかと思っていたら、席亭さんから嬉しいお言葉をいただいた。どうやら、亀戸寄席で裏を返せそうだ。

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