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落語日記 対談で盛り上がった落語会も珍しい

第22回一之輔たっぷり 後援会主催落語会
1月31日 鈴本演芸場 余一会夜の部
このところの毎年1月31日と8月31日は、鈴本演芸場の余一会夜の部として、春風亭一之輔師匠の後援会主催の会員限定の落語会が開催されている。一之輔師匠の独演会としては、最近はこの会くらいしか通えていない。なので、年に二回の貴重な機会。前回の日記にも書いたが、たまのご馳走は、これくらいのペースがちょうどよい。
この日の鈴本演芸場の昼の部は、一般公開されている独演会があって、「長屋の花見」「蛙茶番」「花見の仇討」の三席を披露したそうだ。その上で、夜の部でも弾けっぷりの口演で満場の客席を沸かした二席と対談をこなした。一之輔師匠の落語体力の凄さは、毎回感心するばかり。昼夜通った観客もいるようで、さすが一之輔ファンも、聴く側の落語体力がある。私は夜の部だけでお腹いっぱいだ。この日も熱心な後援会の皆さんで、満員御礼。

春風亭貫いち「権助提灯」
まず前座は四番弟子。最近、五番弟子のらいちさんも前座入りしたようだ。ますます繁盛の一門。
マクラがあって、間男が冷蔵庫で死んでしまう小噺。その後、やきもちは昔は悋気と言った、そんな導入から本編へ。この演目を前座で聴くのは初めてだと思う。そのうえ、マクラを振って本編に入るという堂々とした構成。正直、驚いた。師匠の独演会でこそ許される構成だ。かなり、大胆で度胸のある貫いちさん。
口跡明瞭なところは聴きやすい。あとで気付くが、この噺は師匠の最後の一席と付いている気がする。こちらは女性の悋気の噺だから、良しなのか。

春風亭一之輔「愛宕山」
この会の魅力は、時間たっぷり使った一之輔師匠のマクラが聴けること。特に、後援会会員限定という閉じた空間のためか、自由奔放さにあふれたマクラがたっぷり聴けるのだ。
この日の話題は、何と言ってもゲストの鈴々舎馬風師匠のこと。なんと、馬風師匠は一之輔師匠と同じ野田市出身で、小学校の先輩にあたる。地元出身の落語家で大出世した先輩を独演会のゲストにお迎えして、初っ端から一之輔師匠のテンションが上がっていることが、その語り口から伝わってくる。
そこから、地元野田の話題へ。野田市駅が最近、改良工事がなされた。前面からは綺麗に見えるのだが、後ろはスカスカ。地元での独演会の世話役の人が、野田名物のホワイト餃子を買ってきてくれた話。地元を巡るエピソードに吐く毒舌で、観客を楽しませる。この毒舌は、地元愛の裏返しなのだ。

話は幇間の話題へ。現在、中学一年生となったお嬢様の小学校卒業の際に、卒業生を送る会で、落語の依頼があった。その会の共演者で、幹事の父兄の知り合いの幇間と出会う。落語芸術協会に所属し寄席の高座にも上がる幇間、松廼家八好(まつのやはちこう)師匠だ。八好師匠とは面識はなかったが、控室での初対面の場面でいきなりのヨイショ。お嬢さんにもヨイショ。リアル幇間のヨイショの様子に会場爆笑。
そんな幇間の話から本編へ。さて、どんな幇間の噺が始まるかと思っていると、なななんと「愛宕山」。一之輔師匠では初めてなのと、ここまで長いマクラに時間を使っていたので、ここからまた長講の体力のいる演目に取り組むのかと、演目だけですでにサプライズ。
終わってみると、かなりの短縮版。選択と集中が効いた一席。主役の幇間の一八にフォーカスして、一之輔師匠らしい悪態をつきまくる一八。贔屓の旦那に対するヨイショはあまり語らない。その代わり、欲望丸出しの感情に正直な一八。そんな一八の、哀れな奮闘ぶりで笑わせる。マクラが長かったが爆笑の連続だったので、本編の短さは感じない。むしろ、凝縮され濃厚な印象の一席だった。

対談 鈴々舎馬風・春風亭一之輔
一旦閉った緞帳が上がり、椅子に座ったお二人が登場。一之輔師匠が聞き役で、馬風師匠から色々な話を聞きだすスタイル。
まずは、同郷の野田の思い出話。馬風師匠は相撲好きで、中学時代は相撲部だったという話。かなり昔の話なのに、記憶力抜群で、楽しいエピソードの連続。
なかなか売れなかった若手時代の思い出。富司純子さんの父親である俊藤浩滋(しゅんどう こうじ)氏という東映の名プロデューサーの知己を得て、鶴田浩二主演の映画に出演させてもらったときのエピソードも楽しい。この俊藤氏は、芸能界とのつながりが出来て売れる切っ掛けとなった恩人。その後、キックボクシングのリングアナの仕事を始めてから一気に仕事が広がった。これは高座でもよく聴く思い出話。
話は、若かりし頃の落語家仲間の話へ。兄弟子にあたる立川談志師の思い出。兄弟子だったが、よく喧嘩もした。また、師匠柳家小さん師の思い出。弟子の中でも特に可愛がってもらったそうだ。ストリップ劇場に一緒に行った話、内弟子時代に女将さんの裸を見てしまった話などなど。エピソード自体が、爆笑させる小噺のよう。
ご自身の奥さんが、二葉百合子の弟子で二葉百合江という芸名の浪曲師だったとのこと。奥様との馴れ初めを話すときに、ちょっと照れた様子は可愛い馬風師匠だ。
ちょうど、昨年12月に文化庁長官から表彰されたばかり。それから、師匠も認定された人間国宝のお話。昔の思い出を鮮明に語り、その記憶力には本当に驚くばかりだ。お話は寄席で聴く演目「楽屋外伝」を高座で聴いているかのようだったし、時折り見せる馬風師匠の可愛さも大いに感じた対談だった。

仲入り

春風亭いっ休「代脈」
一之輔師匠の三番弟子。京都大学出身という異色の経歴。配布されたプログラムには、寿二ツ目昇進と書かれている。そのお祝いを兼ねてクイツキでの出演。
まずは、出囃子の北海子供盆おどり唄の話から。札幌出身という経歴から、地元ではお馴染みの子供盆おどり唄を選んだという経緯のお話。これで、いっ休さんの出身地はかなり印象付いた。
ご自身の昇進と共に、同期昇進の仲間の話。特に鈴々舎美馬さんが相模原で開催された昇進お披露目の会が、キャパ1800名の会場という大胆さを上げて、ご自身も来月19日に内幸町ホールで開催する昇進記念の会の告知。定員180名なので、美馬さんの10分の1。そんな自虐的な表現で、会の宣伝。
昔の医者はいい加減という話からお馴染みの手遅れ医者、葛根湯医者の小噺を振って本編へ。小僧の銀杏の可愛さが際立つ一編。いっ休さんの任に合っている。
前半は淡々と笑い少な目で進むが、丁寧で表情豊かな語り口で物語に引き込む。後半の診察に出向いた銀杏さんのいい加減な医者ぶりが笑いを呼ぶ。銀杏は丁寧に医師の真似を繰り返すが、微妙に違っていて、思わず笑ってしまう可笑しさ。まさに正統派という印象を受けた。これからも楽しみな、いっ休さん。

春風亭一之輔「不動坊」
まずは、馬風師匠との対談の感想から。あの年齢であの笑顔を見せられる人は他にはいない。一之輔師匠でも、椅子に座って、同じ目線の高さ、あの至近距離で馬風師匠と会話を交わすことはなかった。落語協会最高顧問であり、「会長への道」の演目どおりに会長になった人。その願望を達成されたことの凄さや、馬風師匠の人間としての魅力を熱く語り、この対談という初めての経験に、感慨感激の様子を率直に語る一之輔師匠。
やきもちは男の方が執念深い、そんなマクラから本編へ。おそらくは一之輔師匠のこの噺は初めてではないはずなのに、初めて聴いた噺のように感じた一席。一段とパワーアップされているし、一之輔流ブラッシュアップされた一席だった。
この一席でも強く感じたのが、選択と集中が効いていたこと。噺の中で、一之輔師匠がおそらく好きな場面は盛り沢山でたっぷりの時間を掛ける。一席目の愛宕山でも感じた選択と集中が、二席目でも感じられた。

この噺では、まず、前半のお滝さんを嫁にもらえる吉兵衛の浮かれ具合が頭抜けていた。大家から話をもらった時点で、お滝さんはすでに嫁さんだという妄想爆発状態とその後に湯へ行くところから独り言の妄想爆発。この一人妄想状態の暴れ方は尋常ではない。
そして、後半は、屋根の上での偽幽霊騒動の場面。この場面の主役は、あんころを買ってきたチンドン屋のチャラ萬。この萬さんの粗忽ぶりが大爆発。動機は、お滝さんを取られた吉兵衛に対する嫉妬だろうが、その後の騒動は本来の目的が何なのか分からなくなっている。この粗忽者のトンデモ具合が、突き抜けているのが一之輔落語であることを、この日も強く感じた一席。
マクラ、本編とも終始途切れることのない笑い声に包まれた客席。皆さん、笑い疲れたのではないだろうか。この日の企画、構成はバラエティさに富んでいて、いつもの独演会とひと味違う楽しさがあった。

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