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落語日記 仲の良さが伝わる兄弟弟子の二人会

新富寄席 馬治・小駒二人会
1月29日 呉服なかや
中央区新富町にある呉服屋さん主催の落語会で、昨年7月以来の訪問。会場は呉服屋さんのお店の二階の座敷。なので、十数名で満員の客席。少人数で間近で聴ける、そんなお座敷落語の贅沢さを味わえる会なのだ。
お店のご主人が金原亭馬生師匠の高校時代の同級生。その繋がりで、馬生一門が出演される落語会を開催している。この日も、馬生師匠の同級生の皆さんも数名参加されていた。今回は、馬生一門から惣領弟子の馬治師匠と五番弟子の小駒さんが出演する番。
 
金原亭馬治「徂徠豆腐」
マクラは、このお店とのご縁の話。前回出演時に着物2着誂えた。お代は月賦払い、今日がその日なので、出演料がそのまま支払いへ。そんな話で会場を暖める。
本編は、棒手振りの豆腐屋さんがいきなり登場なので、開口一番がこの演目とは、とビックリ。馬治師匠の徂徠豆腐は初めて聴く。侍と町人の絡む噺は、馬治師匠の得意の範疇。なので、一気に高まる期待でワクワクしながら聴いていた。
世に出る前の荻生徂徠は、儒学者というよりも生真面目で、貧すれど鈍せずという武士の尊厳を保ち、まさに清貧の言葉がふさわしい言動を見せる。
とは言っても、堂々と無銭飲食をするという矛盾する行動が、この徂徠の世間知らずの一面でもあるし、面白さでもある。しかし、実は徂徠が豆腐屋に対する恩義を強く感じていたことが後半になって分かり、観客の気持ちも一気に晴れる。ここが、この人情噺の醍醐味。
前半での徂徠の無銭飲食に対する武士の屁理屈にも、豆腐屋はあきれずに偉いと感心する。この素直さというか、一本気で情に厚い豆腐屋の性格が、前半の無銭飲食の場面の面白さを増幅させていた。
淡々とした流れの中に、町人と幕府の御用学者の身分を超えた交流を描いてみせて、人情噺らしさあふれる一席を聴かせてくれた馬治師匠だった。
 
金原亭小駒「花筏」
いつものように、ニコニコ笑顔で登場。このお二人の組み合わせは、先日の亀戸の会でも楽しませてもらったので、期待の高まる二人会なのだ。
マクラは、小駒さん在住の葛飾区立石の地元のお話。先週末で大相撲の初場所が終わったばかり、地元立石は相撲に縁のある土地。白鳥相撲教室、大道中学があり、青少年の相撲が盛んな地域。また、同じマンションにも元力士が住んでいる。そんな地元話を自慢気に話す小駒さん。
そんな相撲話から、本編へうまく導入。病気で相撲が取れない大関花筏に代わって地方巡業に替え玉として同行した提燈屋をめぐる滑稽噺。まん丸顔の小駒さん、相撲取りに違和感ない。呑気な提燈屋が、急遽土俵に上がることになったときの恐怖の表情は見事。可哀そうだが、可笑しい。ここは小駒さんの雰囲気ぴったり。会場の爆笑をさそう熱演だった。
 
仲入り
 
金原亭小駒「堀の内」
二人会の出番順、業界用語でABBA方式というらしい。今日のように、トリが開口一番を務める理由を解説。このABBA方式をここで書いていて気付いたが、文字面をみるとスウェーデンのポップ・グループの名前と同じ。小駒さん世代は分かるかなあ。
マクラは、アメリカ人にリモートで小噺を教える授業をしたという経験談。小駒さんがアメリカ人相手に先生を務めたという場面を想像しただけで可笑しい。
得意の滑稽噺第二弾。トリの馬治師匠の演目を聞いての選択だろう。突き抜けた粗忽者という難しい人物描写を、観客に考える暇を与えずボケまくる。小駒さんの本領発揮の一席。滑稽噺二席で兄弟子の高座の盛り上げ役を務めた小駒さん、さすがです。
 
金原亭馬治「らくだ」
トリの演目は、久々に聴く演目。何度か聴いている馬治師匠の十八番の演目。トリの出番でじっくりと時間をかけて聴かせてくれた。
噺の大半は、屑屋とやくざ者な兄貴分の二人の遣り取り。年齢を重ねてきた馬治師匠が見せる二人の表情は、より自然体であり、力が抜けている。それぞれの性格の違いがセリフや態度で伝えるのだが、過剰な演出がなく、どちらもあるがままの姿なのだ。
酒を飲み進めると、徐々に立場が逆転していくところの描写は、相変わらず見事。酒が引き出す本音で、屑屋も兄貴分も同じ人間の感情を持つもの同士ということが伝わってくるのだ。雰囲気の異なる二席の熱演で、この日も馬治ファンを満足させてくれた。
終演後、高座から馬治師匠が2月の出演する落語会の案内。国立演芸場の2月中席では、コロナ禍で休止していた鹿芝居が復活する。その演目が「らくだ」であり、この一席とどう違うのか、ぜひ観に来てくださいというお誘いでお開きとなった。

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