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自分だけで勝手に黒門亭復活祭 その2

黒門亭一部
4月2日  落語協会2階
前日に引き続き黒門亭訪問。日曜日一部の扇蔵師匠をお目当てに出掛ける。自分だけで勝手に黒門亭復活祭は二日間で終わる。
この日の入場者は、前日より多くて総勢15、6名。見事、ツ離れを果たす。そして、女性客が多く、半数を占める。どなたがお目当てなのか。
この日も、顔見知りが何人か来場。落語に詳しい知り合いの隣に座り、抜擢昇進などの最近の落語界の話題をおしゃべり。扇蔵師匠のネタ出し演目「ざこ八」についても教えてもらう。この知人も「ざこ八」目当てで来場されたそう。他にも、この珍しい演目狙いで来場された落語マニアが多く来られていそうな雰囲気。

春風亭てるちゃん「元犬」
前座さんは、初めて拝見する小朝師匠の弟子。開演前の準備などで頑張って走り回っていた。

柳亭市童「紙屑屋」
市童さんは久しぶりに拝見。以前はもっとふっくらしたイメージがあったが、二ツ目としての貫禄も付いたようで、引き締まった風貌に見える。
本編は、芸達者で良い声の市童さんの芸風を活かした一席。噺の所々で聴かせる唄や都々逸で自慢の咽を聴かせてくれた。古紙の中から見つけた新内節の稽古本、開きながら美声を聴かせる。古典芸能の素養が必要な噺、芸達者なところを見せた市童さん。若旦那の呑気な風情も良い。

柳家小里ん「禁酒番屋」
黒門亭は香盤に関係なく顔付けされるので、売れっ子やベテランも登場する。この日は重鎮の小里ん師匠が登場し、柳家の十八番の噺の熱演を間近で聴くことができるという幸運に恵まれる。自分だけで勝手に黒門亭復活祭開催のご褒美だ。
二十代で聴いた小三治師の禁酒番屋に衝撃を受けて以来、この噺と小三治師が好きになった。そんな記憶を蘇らせながら、この噺を聴くたびに楽しんでいる。先代小さん師を彷彿させる風貌の小里ん師匠、柳家の代表格としてこの噺を承継されている。
徐々に酔っ払っていく番小屋の役人が、最後の小便屋が行くころは酔いがヒートアップし、べろべろになっている。この酔っ払いの描写は見事。酒屋の奉公人たちも、いたずらっ子のようで楽しい。
この噺は、下げが下ネタなので下品になりがちだ。しかし小里ん師匠の下げは、あっさりで上品なもの。不潔さや嫌味がない。さすがの一席だった。

仲入り

ニックス 漫才
体格のよいお二人を間近で拝見すると迫力がある。その迫力も手伝ってトモさんの「そうでしたか~」の連発とエミさんのゆるい反発に、会場は大いに沸いた。この日一番笑いが多かった印象だ。
この日のネタは、調味料のさしすせその「せ」と「そ」がおかしい、から始まる料理のあいうえおのネタ。か行以下五十音を料理の格言のような言葉の羅列。その不思議さと馬鹿々々しさに思わず笑ってしまう。ざこ八前の良い露払いとなった。

入船亭扇蔵「ざこ八」
さて、お目当ての登場。自分だけで勝手に黒門亭復活祭の主任を飾るに相応しい扇蔵師匠の一席。
自分の落語日記を検索すると、この演目を聴くのは今回が二度目。前回は2019年9月の黒門亭で、扇蔵師匠と同じ入船亭一門の入船亭扇里師匠の高座だった。ところが、このときの記憶はほとんどなく、今回の高座は、新鮮な心持ちで楽しめた。
この珍しい噺は、もともとは上方の噺。東京では三代目三木助師、八代目正蔵師が得意としていたそうだ。その三代目三木助師の弟子だった九代目扇橋師が引き継ぎ、持ちネタとされていた。その九代目扇橋師が亡き後、入船亭一門の皆さんがこの噺を承継し、一門のお家芸となっている。そんな、噺の系譜を大切にされているところが扇蔵師匠らしさ。

この噺には、笑いどころがほとんどない。しかし、会話の中で明かされる悲惨な商家の没落の様子とその裏にあった真実のドラマが急展開の様相を見せ、下げまで目が離せない一席だった。こんな難しいだろう噺を、扇蔵師匠は端正で流れるような語り口で見事に聴かせてくれた。
噺は、大阪から帰ってきた商家の次男の鶴吉と、昔馴染みの商家の主人の升屋新兵衛の対話のみで進む。演目名「ざこ八」の由来は雑穀屋八兵衛という商家。このざこ八の没落の切っ掛けとなったのが鶴吉。升屋新兵衛から鶴吉が知らなかった事実を突き付けられ、この噺を聞く観客も鶴吉同様に驚きを感じる仕組み。その後、鶴吉からも意外な事実を聞かされ、観客の感情も二転三転。
そして、後半では鶴吉がざこ八を再興し、めでたしめでたしで大団円。本来は、この日の扇蔵師匠の下げの後もこの噺は続く。ところが、扇蔵師匠はその後のエピソードをカットされたようだ。こうすることによって、前半の悲惨さを打ち消し良い余韻のまま、観客は心地良く終演を迎えられる。この下げの演出は扇蔵師匠に合っているし、扇蔵師匠らしさも感じるのだ。
先代三木助師の弟子だった三遊亭司師匠も、この噺を掛けている。芸の系譜を大切にされている落語家の皆さんの取り組みは、まさに伝統芸能らしさを感じさせる。演目と一門の所縁を感じさせる一席で、しみじみとした雰囲気で自分だけで勝手に黒門亭復活祭を終えることができた。


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