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落語日記 変則な主任興行でも、きっちりとトリの一席を見せてくれた馬生師匠

百日寄席 上野街笑賑 5月下席前半 金原亭馬生主任興行
5月22日 鈴本演芸場
クラウドファンディング感謝公演として、「百日寄席 上野街笑賑」と称する落語協会の自主公演が百日間の期間限定で行われてきた。この日は終盤の92日目に当たり、限定期間の百日間が、この下席で終了となる。
10日間を前半と後半に分けて、この下席前半は馬生師匠、後半は小里ん師匠が主任を勤める。協会の重鎮が主任として、感謝公演の最後の芝居の幕引き役となった。
前半の馬生師匠はネタ出し。ネタは以下のとおり、馬生師匠の十八番が並ぶ。
21日 抜け雀
22日 井戸の茶碗
23日 鈴本休業日
24日 笠碁
25日 居残り佐平次
昼の部なので、行けるのは週末。そして、この日曜日の「井戸の茶碗」の日にお邪魔した。協会による顔付けなのだろうが、この芝居は鈴本演芸場でよく拝見する出演者が多かった。
 
柳亭市助「道灌」
マイク無しでよく通る声。口跡も明瞭で、将来が楽しみな前座さん。
 
金原亭馬太郎「元犬」
観る度に感じるのが、馬生師匠の語り口にだんだん似てきた。年齢と経験を重ねてきたことも、似てきた要因かも。
 
金原亭馬治「生徒の作文」
マクラは、馬治師匠の定番マクラのカニと入歯、師匠の入院。何度聴いたことか。個人的には、すでに古典化。
本編も、古典化している新作。作文を書いた生徒が中尾彬、上西辰延(馬治師匠の本名)、祖父の代筆など、クスグリも含めてかなりオリジナル。
 
ホンキートンク 漫才
拝見する度に、お二人の息が合ってきた感じがする。ネタ自体は、定番化しているのだが、その中にも時事ネタがぶち込まれる新たなパターンを見せる。町役場の誤入金問題など、最新の話題を取り込んで笑いの種にしてる。まさに、漫才コンビとして、息が合ってきたから見せられる余裕だと思う。
 
柳家風柳「長短」
マクラは自己紹介から。大阪出身で、上方落語と江戸落語の両方が出来ること、つまり、寄席の二刀流を目指していると。本名が大谷なので、寄席の大谷さんと呼ばれたい。風柳ファンにはお馴染みのツカミだろうが、この日の客席には結構受けていた。
と言うことで、この日は江戸落語の古典。お馴染みの噺を、飄々とした語り口で聴かせてくれた。そして、驚かされたのが、下げがお馴染みのものと一味違うものだったこと。初めて聴く下げ、オリジナルの工夫だろうか。最後まで楽しませてくれた一席だった。
 
古今亭菊丸「幇間腹」
仲入りは、古今亭のベテラン菊丸師匠。落ち着いた高座の佇まいだが、飄々として、ときおり見せる毒舌が可笑しさを産んでいるのが、菊丸師匠の芸風だと感じている。
マクラは、ヨイショの小噺から。ご機嫌取りやおだて上げるセリフを喋っている男が、既に幇間のように見えて、幇間が登場する噺に入ろうとしていることがすぐに分かる。こんなマクラ、導入部のお手本のようなマクラだ。
本編は、若旦那の場当たり的で、いい加減な性格を上手く伝えてくれる。幇間は芸人らしさを感じさせるもの。ヨイショを武器にしているが、顧客の要求に逆らえない商売人の悲哀と芸人としての矜持と天秤にかけている。目先の金品に転んでしまう悲しさ。この悲しさを悲劇にせず、笑いに変えた微妙な匙加減が、さすがのベテラン。
 
仲入り
 
古今亭志ん橋「無精床」
志ん朝師匠の弟子らしさを、あるときから気付いてから好きになった師匠。だみ声でスキンヘッドの風貌から、志ん朝師匠のイメージとは、かけ離れているが、志ん橋師匠の噺は志ん朝師匠の型をしっかりと引き継いでいるのだ。
そんな志ん橋師匠のこの日の演目は、スキンヘッドの風貌と似合わないと思われる床屋の噺。ぞんざいな扱いを受けても、月代を剃ってもらおうと懇願する客の情けない様子が可笑しい。
 
翁家勝丸 太神楽曲芸
この日も座ったままのスタイルで、お馴染みの曲芸を披露。鞠の取り回しで結構失敗。マジなのか、ネタなのか。ぶっきらぼうな表情からは、どちらかよく分からない。
 
金原亭馬生「井戸の茶碗」
いよいよ、お目当ての登場。いつもの様に、静々と登場。マクラそこそこに本編へ。この百日寄席では、主任の持ち時間が通常興行よりも短いような気がする。この井戸の茶碗も、全体にコンパクトな印象の一席だった。
その分、無駄なセリフを整理して、噺の本筋に関わるセリフをリズムよく聴かせてくれた感があった。大ネタと呼ばれるものでも、口演時間は十分に短縮できるというお手本を見せてくれた馬生師匠。この短さが、また寄席らしさでもあるのだ。口演時間の長さと観客の満足度とは、必ずしも比例するものではない。そんなことを改めて感じさせてくれた充実の一席だった。

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