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遊かりさんと一花さんの新しい挑戦の会が始まる

遊かり・一花の「坂の途中」Vol.1
4月12日 高田馬場ばばん場
遊かりさんと一花さんのお二人主催の会。新宿の無何有から会場を移し、会のコンセプトも変え、会の名前も「すきききらい」から変更して、再出発させた落語会の第一回目。「すききらい」からだと第13回に相当、なかなかに続いている会だ。「すききらい」の途中回から通っている。
この新しい会場は、初めての訪問。ちょっと、分かりづらい場所にある。らくごカフェくらいの規模の小さな演芸場。無何有よりは客席が広くなった。高座は近くて観やすいが、椅子が硬かった。

オープニングトーク
この会ではお馴染み、お二人のオープニングトーク。リニューアルしても、相変わらず賑やかだ。
まずは、会の名前やコンセプトの説明から。好きな噺と苦手な噺を選んで挑戦し続けることは難しくなってきたので、会のコンセプトを変えたとのこと。お二人が苦手な噺と悪戦苦闘する姿を見るのは、ファンとしては楽しい。しかし、演者としてはそんな姿を見せるのは、抵抗があったのかもしれない。
落語家人生の道の途中にいるお二人。その道程は、平坦ではない坂道。そして、その坂道にはゴールが無い。そんな坂道に挑戦されているお二人。このような趣旨で、この二人会を「坂の途中」と命名されたようだ。
今の坂道は?とお互いに問い掛け、一花さんは猫八襲名披露興行の番頭役、遊かりさんは足の怪我と答える。それぞれの目の前の坂道の苦労を語る。特に、この日は遊かりさんが足の怪我について詳しく説明。その闘病記を熱く語る。お二人の目の前の坂道も、なかなかに大変そうだ。

三遊亭遊かり「あくび指南」
マクラは、オープニングトークに引き続き、怪我の話から正座椅子を使うことを説明。そこから、この日に観てきた歌舞伎座昼の部の話へ。市川猿之助丈が出演されている「新・陰陽師」という演目が上演されている。その観劇の感想を歌舞伎愛にあふれている遊かりさんが、熱く語る。日本舞踊を習っている遊かりさんは、歌舞伎役者たちの踊りの凄さを経験者として語るのだが、その凄さを言葉にして伝えるのはなかなか難しいようで、遊かりさんのもどかしさが伝わってくる。
そんな芸事の話から、色々な稽古事が盛んだったという、ひと昔前の時代の噺へ。稽古を付けけてもらっている若い衆が、不真面目でわざとふざけていると思える稽古風景。その馬鹿々々しさに思わず笑ってしまう、力技の一席。

春風亭一花「三枚起請」
仲入り前の一花さんの一席は、ネタ下ろし。なので、近況報告的なマクラは一切なく、定番のマクラから本編へ入る。
私の好きな志ん朝師のこの噺とほぼ同じ型で、入れ事もなく、習ったことに忠実だと思われる一席だ。聞けば、正朝師匠に稽古を付けてもらい、その正朝師匠は志ん朝師から習ったとのこと。なるほど、志ん朝師の型と同じになるはずと納得。
この噺自体が持つ可笑しさや楽しさが伝わる高座。棟梁の男気や大人な態度、亥之さんの若旦那っぷりと人の好さ、清公の江戸っ子らしい一本気、そんな主役三人のキャラが見事に描かれていた。悪役の喜瀬川花魁も一花さんが見せてくれるのは、どこか憎めない、真の悪人ではないことが感じられる遊女。この辺りも一花さんらしさかも。まずは、基本形を披露された。今後も磨いていき、一花スペシャルな三枚起請を目指して欲しい。

仲入り

春風亭一花「黄金の大黒」
ネタ下しを終えて、ほっとした表情でゆったりとしたマクラ。観客に対して、同じ噺を何度聴いても笑ってくれるお客様はありがたい存在だ、との感謝の気持ちを伝える。
自分はすぐ忘れるという気質。佑輔さんとの二人会で、姐さんは同じ噺の同じところで笑っていると指摘される。この忘れるという気質は、落語脳と呼んでもよいくらいで、観客側としては、何度も楽しめるという利点になると思っている。私自身も、何度も聴いたことがある噺を、初めて聴くように新鮮に楽しめている。しかし、演者としては、覚えた噺を忘れるというデメリットにもなる。演者としては忘れないということだろうか。一花さんの告白に、落語家の記憶の不思議さを感じた。
学生時代に演劇部だった一花さんは、早稲田はよく来ていた街。そんな思い出から本編へ。長屋の衆のワイガヤ噺、これは一花さんの得意な分野だと感じている。この一席も、見栄を張る若い衆たちの呑気で馬鹿々々しい大騒動が見事に描かれていた。ほっとした気持ちのゆとりが、笑いに拍車を掛けていた。

三遊亭遊かり「紺屋高尾」
前席の一花さんの忘れるというマクラを受けて、自分は執念深いので、なかなか忘れないという話。前座時代に受けた先輩たちからの厳しい指導は、辛い思い出としてなかなか忘れられない。
そこから、忘れられない男性がいるという話。初恋の人の話かと思ったが、そうではない。高校時代に、祖母に初めて連れて行ってもらった歌舞伎座。その舞台に現れた坂東玉三郎丈を観て、このときから世界が変わった。物を知らない当時は、歌舞伎役者になりたいと真剣に思ったそうだ。
遊かりさんの歌舞伎熱のルーツはここにあったのだ。遠くから眺めているだけで心ときめき、忘れられない人となった玉三郎丈。そんなご本人の実話から、同じ設定の噺へ突入。

この一席は、見所が盛り沢山。遊かりさんが見せてくれる噺の登場人物の女性は皆、とにかくカッコイイと思っている。この高尾太夫も凛とした貴賓があった。
前半の久蔵が寝込むまでの場面や、親方に預けた給金を貰うまでの場面は、丁寧に描く。この久蔵のもどかしさや切なさを描くことで、高尾太夫への恋心を伝えてくれる。噺の冒頭、高尾太夫と当り前のように結婚できると考えた久蔵、歌舞伎役者になると決心した高校時代の遊かりさん自身とダブってみえる。
まだ足の怪我が治っていないなか、正座椅子を使ったうえでの長講を熱演。この紺屋高尾は、遊雀師匠の十八番の噺。この日の熱演からは、師匠のこの噺が大好きであること、かつ、この噺を引き継いでいきたいという強い思いが伝わってきた。
この日の裏テーマは、善人の花魁と悪人の花魁との対決。喜瀬川と高尾のどちらの性格も、人間の真実を描いている。両極端な花魁を描くことで、人間の面白さを感じさせてくれた二人会だった。

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