見出し画像

落語日記 名跡を引き継ぐ当代の覚悟を感じさせてくれた五代目桂三木助師匠

池袋演芸場 2月下席昼の部 桂三木助主任興行
2月23日
昨年の浅草演芸ホール11月上席夜の部で初主任興行を務めた五代目桂三木助師匠。そこからあまり時間を置かずに、池袋演芸場でも主任興行を務めることとなった。寄席の席亭さんたちに気に入られている証し。主任競争が激化している中、若手真打としてはトップランナーとして頑張っている。
昭和の名人の孫で先代の甥っ子という落語界のサラブレッド。その大名跡を背負うという重責は、かなりのプレッシャーだと思われるが、前向きでマイペースな様子がうかがえ、そんな重圧もどこ吹く風な感じが頼もしい。

馬治師匠繋がりで、二ツ目時代から馴染みのあった三木助師匠。馬治丹精会にも勉強のため、たまに顔を出していた。人懐っこい若者で、先輩方からも可愛がられるタイプ。生前の談志師匠からも可愛がられていたことも納得できる。
当時から、今風の若者でマイペースで明るい気立ての良い若旦那というのが私の印象。でも、どこか頼りなさも感じさせていた。そんな三木男さんが、五代目三木助を襲名してから、名跡の重みをより強く意識されてきたように感じている。それは、三代目三木助所縁の演目を大切にして、名跡を引き継いだ自分が祖父が残した噺も引き継いでいこうという強い意志を、寄席の高座で見せてくれたからだ。
ウェブのインタビュー記事にあったのが、三木助襲名がまだ早いのではと悩んでいときに、馬生師匠からの「名前を継いでから名前に育ててもらう」との言葉が背中を押してくれたというエピソード。ご自身も馬生という大名跡を引き継いだ師匠なので、その言葉には重みがある。
昭和の名人の一人である三代目の芸域の高みへは、まだまだ道半ばの五代目。高座では、若さゆえの勢いにまかせた荒削りなところも見える。しかし、背負った名人の名跡の重さを感じながら、その名前に相応しい芸を目指して奮闘中なのだ。そんな三木助師匠の主任興行は、思い入れもあって、親戚の叔父さんのように感慨深いものがある。

この主任興行も、馬生師匠が膝前、馬治師匠と馬玉師匠がクイツキ、二つ目には馬久さん小駒さん馬太郎さん、前座には駒介さんも入っていて、まさに馬生一門総出演の顔付け。馬生一門祭りと呼ぶにふさわしい2月の、締めの寄席となった。
祝日の午後、客席は7、8割の入り。なかなかに盛況。ご贔屓さんも出来ているようだ。

三遊亭まんと「つる」
頼山陽の書物に由来が記載されているという件が登場。丁寧な口調は師匠譲り。

金原亭馬太郎「道具屋」
この日の二ツ目枠は馬太郎さん。売り子の与太郎より、ヘンテコな客ばかり。名古屋弁風キャラの客が強烈。

古今亭志ん陽「代書屋」
志ん陽師匠ではこの噺は二度目らしい。7年前なので、記憶になく、初見同様に楽しめた。客の粗忽ぶりが志ん陽テイストにあふれていて可笑しい。客の名前が太田道灌というのもふざけている。

玉屋柳勢「七段目」
最近、文楽を観に行ったときの感想。義太夫語りの物真似を披露。本編も音曲入りの本格派。若旦那と定吉の芝居オタクぶりが楽しい。

ホンキートンク 漫才
国立演芸場中席で拝見したばかり。ネタは同じだけど、お二人の勢いにつられて笑ってしまう。

柳家小せん「馬大家」
小せん師匠も久し振りに拝見。相変わらずの美声が心地良い。演目は初めて聴いた、珍しい噺。
長屋の貸家を借りたい午歳生まれの男が、馬好きな大家に気に入られようと奮闘する噺。曲馬団の出身という、言葉自体がノスタルジック。小さん師匠の雰囲気に合っている噺だなあと感じる。こんな珍しい噺との出会いも寄席の楽しさ。

柳家三三「橋場の雪」
三三師匠も久し振り。三木助師匠の前方として、一門以外には人気者が顔を揃えている。
演目も珍しい噺が続く。この噺は、以前にさん喬師匠で聴いている。ネットで調べると「雪の瀬川」から派生し改作された噺らしい。「夢の酒」はこの噺の改作。なので、「夢の酒」と似たところが多いが、大旦那は夢に登場しないし、淡島様も出番はない。
風情を楽しむ噺だろう、これも三三師匠の情感あふれる語り口にピッタリ。格調高い高座で盛り上げてくれた三三師匠だった。

仲入り

金原亭馬玉「粗忽長屋」
この日の仲入り後は、馬生独演会に出演した師弟コンビ。まずは馬玉師匠。この日も突き抜けた粗忽者が楽しい滑稽噺。馬治師匠では聞いたことのない演目。馬生師匠似のちょっとハイトーンの語り口が持ち味、粗忽者コンビが似合っている。

金原亭馬生「辰巳の辻占」
膝前は師匠が登場して、弟子の主任興行の盛り上げ役を務める。軽妙な廓噺で、馬生師匠では何度も聴いている十八番の一席。人の好い若旦那の吞気な遊び人の風情が楽しい。軽い一席で弟子の主任へ上手く繋いだ馬生師匠。

柳家小菊 粋曲
寄席の風情を強く感じさせる艶っぽい色物代表。

桂三木助「へっつい幽霊」
さてさて、お目当てはいつものようにうつむき加減で登場。江戸時代の引っ越しや古道具屋の話のマクラから本編へ突入。さて、演目は伝家の宝刀、三代目三木助師の十八番。三木助師匠は、「へっつい」の解説を入れなかったのがいさぎよい。
Wikipedia情報によると、三代目はいっとき「隼の七」と呼ばれた博奕打ちだったらしい。きっぱりと足を洗って落語家に専念したそうだ。私は三代目のこの演目は聴いたことがない。しかし、博奕打ちだった経験を活かした一席だろうと想像できる。それは当代のこの日の一席からも形跡をたどることができる。
この三代目の形跡は、五代目が演じる主人公の博奕打ちの熊の描写に表れている。やくざ稼業ながら、悪党ではない。男気があって、性格もいさぎよさを感じさせる。やさぐれている訳ではなく、カッコイイ男なのだ。おそらく、三代目の演じる熊もそんな博奕打ちだったのでは、そう思わせてくれた五代目の一席。
名跡を引き継ぐ当代の覚悟を感じさせた五代目の高座は、たくましさも感じられるその成長ぶりが嬉しい一席だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?