見出し画像

特別展「法然と極楽浄土」

 ただひたすらに声に出して念仏を唱えれば極楽浄土へと往生出来るー金持ちであってもたとえ貧しくてもただ南無阿弥陀仏と唱えるだけで救われると説いた浄土宗は2024年に開宗850年を迎える。
 その節目の年に特別展「法然と極楽浄土」が東京、京都で開かれる。翌年には九州に巡回する予定となっている。
 2023年10月24日(火)に東京国立博物館で開かれた報道発表会では、会場となる東京国立博物館、京都国立博物館、九州国立博物館のそれぞれ副館長ー浅見龍介(あさみ・りゅうすけ)、北風幸一(きたかぜ・こういち)、小泉惠英(こいずみ・よしひで)各氏が挨拶に立った。
 そして、来賓の浄土宗宗務総長の川中光敎(かわなか・こうきょう)氏が次のように話した。「浄土宗のお寺は全国におよそ7000あります。僧侶は1万500人います・・・特に来年は法然上人様がお念仏の教えを広めるようになって850年という年になります」。
 「いろいろな行事を進めてきていて、浄土宗、お念仏の教え、法然さんの教えを再確認して、浄土宗の信者だけでなく、法然さんの教えを伝え、法然さんの教えに触れていただく機会としたい」。


 東京国立博物館の学芸研究部列品課管理登録室長兼貸与特別観覧室長の瀬谷愛(せや・あい)氏は、法然を読み解くキーワードとして3つを挙げたー①極楽浄土と阿弥陀如来②浄土教と浄土宗③南無阿弥陀仏と専修念仏。
 瀬谷氏は「考え方自体はインド・中国ですが、日本では比叡山延暦寺を中心に貴族階級で発展しました。しかし、高貴で財力のある人々だけでなくすべての人が平等に救われるには、高価な塔などを建てなくても念仏をただ称えることが重要なのだと説かれるようになりました」と説明した。
 念仏は声に出して称えることが大切で、ひたすら念仏を称えれば極楽浄土に行けるというのは「専修念仏」という考え方です、と瀬谷氏。
 「法然の革命的発想の転換というのは、現代の社会でいうとスティーブ・ジョブスのようなものではないかと思います。難しいプログラミングなんかしなくてもクリックだけでコンピューターが使えるようになりました。法然の場合、強い気持ちで念仏を称えることで極楽往生出来るというのは革命的だったと思います」と瀬谷氏は話した。
 瀬谷氏によると、展覧会の目玉は奈良當麻寺の本尊である国宝・綴織當麻曼荼羅(つづれおりたいままんだら)。奈良県以外で初の公開となる。

 国宝 綴織當麻曼荼羅(部分)中国・唐または奈良時代・8世紀 奈良・當麻寺蔵 (画像提供:奈良国立博物館)(東京会場展示期間:4月16日(火)~5月6日(月・祝))


 あと、破格の五百羅漢図と香川県から来る立体的仏涅槃像の一部の再現を瀬谷氏は目玉展示品として挙げた。

 五百羅漢図 第24幅 六道 地獄 狩野一信筆 江戸時代・19世紀 東京・増上寺蔵 (東京会場前期:4月16日(火)~5月12日(日)・京都会場で展示)
仏涅槃像 江戸時代・17世紀 香川・法然寺像 注:本展では涅槃像と群像の一部を展示する 


 国宝・阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)は3年におよぶ修理を終えて日の目を見ることになる。「前回の修理(1934年)から85年が経過して不具合がかなり出ていました」と京都国立博物館学芸部教育室長の大原嘉豊(おおはら・よしとよ)氏は語った。
 「前回の修理で施された墨肌の除去とクリーニングや丁寧な補絹によって、以前よりやや明るめの肌裏紙に換装することができ、墨線や山水表現がより鮮明化し、制作当初のイメージに近いものになりました」。
 「また、下描がかなり正確だということも分かりました。改めて名画であることを合理的に証明出来るようになりました」。

 国宝 阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)鎌倉時代・14世紀 京都・知恩院蔵 (東京会場展示期間:前期)(東京会場展示期間:前期4月16日(火)~5月12日(日))



 展覧会は4章立てとなる。
〇第1章「法然とその時代」ー平安時代末期、人々は相次ぐ戦乱、頻発する天災や疫病、逃れられない貧困など苦悩に満ちた「末法」の世に生きていた。この時代に生まれた法然は比叡山で天台僧として修業を積むが、43歳の時、唐の善道の著作によって専修念仏の道を選んだ。「南無阿弥陀仏」と称えれば救われるという教えは幅広い階層の信者を得た。本章では、浄土宗の歴史のはじまりである、祖師・法然の事績や思想を辿る。

重要文化財 法然上人坐像 鎌倉時代・14世紀 奈良・當麻寺奥院像(画像提供:奈良国立博物館)(東京会場展示期間:前期4月16日(火)~5月12日(日))


〇第2章「阿弥陀仏の世界」ー法然は、本尊である阿弥陀如来の名をひたすらに称えることをなによりも重んじた。貴賤による格差が生まれる造寺造仏などをすることには否定的で、法然自身は阿弥陀の造像には積極的ではなかった。しかし、それを必要とする門弟や帰依者らには認めていた。多くの人々の願いが込められた阿弥陀の造形の数々は、困難の多い時代、庶民にまで広がった浄土宗の信仰の高まりを今に伝えている。

重要文化財 阿弥陀如来立像 鎌倉時代・建暦2年(1212) 浄土宗蔵 (東京会場展示期間:後期5月14日(火)~6月9日(日))


〇第3章「法然の弟子たちと法脈」ー法然のもとに彼を慕う門弟が集い、浄土宗が開かれた。法然没後、称名念仏という教えを広めようと、それぞれ積極的に活動する。九州(鎮西)を拠点に教えを広めていた聖光の一派である鎮西派は、その弟子良忠が鎌倉を拠点として宗勢を拡大した。また、証空を祖とする一派である西山派は、京都を拠点とし、當麻曼荼羅(たいままんだら)を見出しその流布に大きな業績を残した。

重要文化財 蒔絵厨子入阿弥陀三尊立像(阿弥陀三尊立像) 南北朝時代・14世紀 (蒔絵厨子)室町時代・16世紀 京都・報恩寺蔵 (東京会場展示期間:後期5月14日(火)~6月9日(日))


〇第4章「江戸時代の浄土宗」ー聖聡が江戸に増上寺を開くと、その弟子たちは体系化された浄土宗の教義を全国へと広めていった。その流れは三河において松平氏による浄土宗への帰依へとつながり、末裔の徳川家康が増上寺を江戸の菩提所、知恩院を京都の菩提所と定めたことにより、教団の地位は確固たるものになった。本章では、将軍家や諸大名の外護(けご)を得て飛躍的に隆盛した江戸時代の浄土宗の様子を辿り、篤い信仰を背景に浄土宗寺院にもたらされ現代に伝えられる多彩でスケールの大きな宝物を紹介する。

重要文化財 徳川家康坐像 江戸時代・17世紀 京都・知恩院蔵 (東京会場展示期間:4月30日(火)~6月9日(日))

 東京国立博物館平成館では2024年4月16日(火)から6月9日(日)まで開催される。続いて、同年10月8日(火)から12月1日(日)まで京都国立博物館平成知新館にて開かれる。
 年が改まって2025年10月7日(火)から11月30日(日)まで九州国立博物館へと巡回する。
 観覧料など詳細は決まり次第各博物館のホームページなどで公表される。



 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?