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フランク・ロイド・ライト展

 フランク・ロイド・ライト(1867-1959)といえばアメリカ近代建築の巨匠。代表作には「カウフマン邸(落水荘)」や「グッデンハイム美術館」などにくわえて、「帝国ホテル二代目本館」や「自由学園」もあり、ここ日本でもなじみが深い建築家である。
 今回、日米共同キュレーションを行い、帝国ホテルを基軸に、多様な文化と交流し常に先駆的な活動を展開したライトの姿を明らかにする。
 精緻で華麗なドローイングの数々が楽しめる「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」展が2024年3月10日(日)まで「パナソニック汐留美術館」(東京都港区東新橋1-5-1パナソニック東京汐留ビル4階)にて開催されている。


 2012年、フランク・ロイド・ライト財団はニューヨーク近代美術館とコロンビア大学エイヴリー建築美術図書館に、図面をはじめとする5万点を超える資料を移管した。そこでは、芸術、デザイン、著述、造園、教育、技術革新、都市計画に至るライトの広範な視野と知性が調査研究されてきた。
 こうした研究結果をふまえ、本展覧会はケン・タダシ・オオシマ氏(ワシントン大学教授)とジェニファー・グレイ氏(フランク・ロイド・ライト財団副代表、タリアセン・インスティテュート・ディレクター)を迎えてキュレーションがなされたうえで開かれるもの。
 フランク・ロイド・ライト財団の代表取締役・最高経営責任者スチュワート・グラフ氏は書いたー「(この展覧会は)日本やその他の国々、メソアメリカや北米の先住民族、ヨーロッパからの影響を彼自身の建築言語を用いることによって、交差する世界の時空の中でひとつのデザインとしてまとめようとした彼の努力を明らかにしている」。
 「文化の幅広い交流に基づくライトの建築は新しい建築技術や近代的な生活様式を実現したこともあいまって、近代建築の発展に重要な影響を与えたとしてユネスコの世界遺産に登録されています」。

開館20周年記念展/帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築

〇セクション1「モダン誕生 シカゴー東京、浮世絵的世界観」ーライトが建築家として歩み始める舞台となった、米中西部最大の商業都市シカゴ。アメリカとヨーロッパをつなぐ結節点でもあった都市だ。一方、東京も明治政府のもとで近代的な都市へと変貌を遂げつつあった。ライトは1893年のシカゴ万博の日本のパヴィリオン「鳳凰殿」で日本文化に触れ、1905年には日本を訪れた。浮世絵に着想を得て考案した新しい建築ドローイング、初の公共建築ユニティ・テンプルの100年前の模型、ライトが手がけた展覧会デザインなど、初期の取り組みを紹介する。

〇セクション2「「輝ける眉」からの眺望」ーライトが考える有機的建築とは、環境や気候に適った、人の生活を豊かにする建築である。初期のプレイリー・ハウスはアメリカ中西部を象徴する平原や原生植物から着想を得たもの。「輝ける眉」=タリアセンとはウェールズの吟遊詩人の名でもある。タリアセンという名称は眉のように丘の中腹に建てられた建築を示唆する。またタリアセンとはライトの自邸兼スタジオの名前でもある。また、日本の変化に富んだ地形、山や滝のある風景、日本の植物との出会いはライトの創造力を刺激し、やがて代表作「落水荘」へと結実した。あわせて、ㇷ゚レイリーハウスの代表作「クーンリー邸」や「ロビー邸」、また日本での作品「山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)」「小田原ホテル計画案」などを紹介する。

〇セクション3「進歩主義教育の環境をつくる」ーライトは、家庭生活や教育のあり方の変革に取り組んだ女性活動家たちとも交流。帝国ホテル設計のために滞在した日本では、羽仁もと子の依頼で「自由学園」を手がけた。シカゴ郊外のオークパークの初期の自邸とスタジオは、建築の実験と、家庭生活や職場環境の近代化に対応して増改築が重ねられ、設計室や幼児教育のためのプレイルームを備えていた。ここでは、自由学園の教育資料、「クーンリー・プレイハウス幼稚園」で使われたステンド・グラスなどを展示する。

〇セクション4「交差する世界に建つ帝国ホテル」ー支配人の林愛作からの依頼で、日本にのべ3年以上滞在しながら帝国ホテル(建設期間1913-23年)をライトは設計した。「Panasonic 建築設計REPORT」2023年11月号によると、「帝国ホテルは増加する訪日客向けの迎賓館の役割を担って1890年に創業。その2代日本館がライト作である。ライトは幾何学模様を彫刻した大谷石や櫛引き文様、すだれ煉瓦、透かしテラコッタなどを用いて建物の内外をくまなく装飾し、華麗な建物を建築した」。ここでは、図面、写真、家具、かつて帝国ホテルの一部を構成していたテラコッタや大谷石のブロックなど、さまざまな資料を展示する。さらに同時期の1913年から14年にかけてシカゴで設計した娯楽施設「ミッドウェイ・ガーデンズ」のドローイングも比較展示する。

セクション4:交差する世界に建つ帝国ホテル
100年前の帝国ホテル模型を3Dスキャン計測データを用いた3Dプリントレプリカで公開


〇セクション5「ミクロ/マクロのダイナミックな振幅」ーライトが生涯にわたって抱いたコンクリートへの関心と、ユニバーサルな建築システムの探求、またそのシステムを用いた住宅を紹介する。ライトは小さなものから大きなものまで展開可能なユニット・システムによる建築を考案した。全体と部とがダイナミックに呼応するライト建築の発想の根幹には、彼が幼少時に体験したフレーベルの教育ブロックがあったという。ライトはまた素材についても強い関心をもち、地域に根ざした材料を用いる一方、コンクリートの持つ一体性に着目することで、グッゲンハイム美術館のような巨大建築も実現させた。ここではユニット・システムの実践例であるユーソニアン住宅の原寸モデルを展示する。

セクション5:ミクロ/マクロのダイナミックな振幅
ライト建築を体験、ユーソニアン住宅の原寸モデル


〇セクション6「上昇する建築と環境の向上」-水平方向への広がりが印象的なライト建築だが、垂直に伸びる高層建築にもライトは早くから関心を示した。生涯を通じて高層ビルの設計に取り組み続け、また、新しい工学・構造技術を開拓。ジョンソン・ワックス・ビルでは直径23センチの細い柱が上昇するにつれ大きく広がり天井を支える「樹状柱」を考案した。その研究タワーでは、樹木の基本構造にならうタップルート(主根)構造を採用し、構造壁としての内部間仕切りをなくし、カーテンウォールを採用することによって自然光をふんだんに取り込んだ空間を作り出した。ライトは都市機能をビルの中に集約することで都市の無秩序な拡大を阻止し、豊かな自然環境と生活が実現できると考えた。

セクション6:上昇する建築と環境の向上


〇セクション7「多様な文化との邂逅」ー多様な文化との出会いと交流がライトを形作った。ここではライトとアメリカ国外の作家たちとの交流を取り上げるとともに、多文化的な要素を取り入れた作品を紹介する。ゴルフ文化と先住民の建築の実践を融合させたナコマ・カントリー・クラブ計画案。また、ヴェネツィアの運河沿いに計画したマシエリ記念学生会館も紹介する。さらに、イスラム文化との出会いから生まれた美しい都市像である大バグダッド計画に、ライトは北欧モダニズムを代表するアルヴァ・アアルトとともに参画。アアルトは美術館と逓信局の設計を依頼されたが、イラク王政の失脚によって二人の共作は実現しなかった。このセクションは、田園地帯に広がる生活と労働のラディカルな再構築であるブロードエーカー・シティ構想をCGアニメーションで表現したスペインのロメロ氏の作品で幕を閉じる。

 会期中、一部展示替えがある。前期1月11日ー2月13日、後期2月15日ー3月10日。2月15日以降に再入場の場合は、半券提示で100円割引となる。
 開館時間は午前10時から午後6時(入館は午後5時半まで)。2月2日(金)、3月1日(金)、8日(金)、9日(土)は夜間開館ー午後8時まで開館(入館は午後7時半まで)。
 休館日は水曜日、ただし3月6日は開館。
 入館料は一般1200円、65歳以上1100円、大学生・高校生700円、中学生以下無料。
 問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。


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