見出し画像

フィリピン音楽と僕 4 - フィリピンの商習慣

最初に断っておかなければならないけれど、お察しの通り僕は商売は素人だ。だから、商習慣などと大上段に構えたような記事タイトルをつけているけれど僕が経験したことを参考(反面教師?)になればと書いているだけで、フィリピンの商習慣とはこういうもの、このように対処すべき、的な記事ではありませんので悪しからず。

いつも流通が不安定

前記事で、大ヒットした2005年のNina Live!について触れた。
だいたいこのくらい(の売れ行き)じゃないか、と予想して仕入れした枚数が即座に売り切れたのは初めての経験だった。現地でも人気だったし、Youtubeでもユーザーが勝手にアップロードした映像が見られるようになった。
意気揚々と再仕入れのためマニラに向かうと、どこのCDショップでもNina Live! DVDは売り切れだ。
数件のバックオーダーを抱えていた僕はマニラ首都圏にあるCDショップチェーンを当たってみたが、どこも在庫状況は同じ。
当時のトップアイドルのCDは普通に売っているので、よほど予想外の人気だったのか。
とりあえず仲の良いCDショップの店長に予約をお願いしてこの時は他の仕入れをしただけで帰国した。
2,3ヶ月後くらいに再入荷の連絡が入ったので引き取りに渡航した。
その時は結構店頭に並んでいたので、再プレスされたんだな、とちょっとホッとした。
その後、流石に売れ行きスピードは鈍ったものの、また売り切れになったので次の渡航時にCDショップに行ってみるとまたどこも在庫切れになっている。
日本ではあまり経験することのない流通の不安定さを経験して、これが経済発展途上国というものなのかな?と自分で納得させていた。
けれども、流通が不安定なのは人気のNina Liveだけではなかった。
2007年初春から正規輸入契約をしたStar recordsの新作も、2回目以降の仕入れの際に在庫切れと言われるこがもちらほらあった。
資金が潤沢になく、商品についてもまだ模索段階だった僕は不良在庫を抱えるのが怖かったので、メーカー在庫切れの可能性を見越して多めに仕入れすることはできない。
困ったなと思い、ある時、レコード会社にイニシャル(初回)はどのくらいプレスしているの?と聞いてみた。具体的な数字はここでは言えないけれど、いくら日本より市場規模が小さいとはいえ、それは少なすぎるだろう?という数だった。
フィリピンでは大きな企業の経営もそれほど安定しているわけじゃないんだろうな。
ただ、再プレスのシステムもきっちり作られていて、数百のバックオーダーがかかれば再プレスするとのこと。
数百じゃ、すぐにバックオーダー集まるんじゃね?それなら前もって多めにプレスしておけば安定して流通するし、商機を逃すこともないのに。。。
まあ、これを僕が言ってもそういう流れなんだから仕方ないか。。。

フィリピンの方が世界基準 - フランスからのアドバイス

とこんなことを考えている時、長年フランスに住んでいる友人とスカイプで話す機会があった。
彼は文筆家で、その時はフランスの大学で勉強するために長期間住んでいたのだけれど、海外の出版業界にも詳しい彼によれば、
フィリピンがイニシャル(初回プレス)数を抑えて、バックオーダーの数により在庫を追加していく、というのはヨーロッパやアメリカでも同じで、一度に大量のロットを用意し、安定供給に主眼を置いている日本の方がどちらかというと少数派。
というアドバイスを受けた。

なるほど。結果的にどちらがベターかはわからないけれど、高ロットというハードルが企画の発案に大きな影響を及ぼさない、という点では初回プレスを少なくするのは理にかなっているんじゃないか。。。
それで商機を逃すという心配より、本当に欲しい人は待ってでも買ってくれるから。ということか?

もちろん僕の友人は、欧米における本などの出版業界の事例を念頭に挙げていると思うが、音楽出版についても同じような流れであるということは容易に想像がついた。

話の流れで、具体的な数値を話すと、
そんな少ない数でやっているの(イニシャル数や再プレスするときのバックオーダー基準など)!と驚いてはいたけれど。

思い当たることがある。
フィリピンのレコード会社から聞いた話では、かなり古い作品でも、いわゆる「廃盤」にしてしまわず、マスターディスクはいつまでも保存し、バックオーダーが基準を満たせば再プレスされるのだそう。だから廃盤なので100%ムリ、という返答は聞いたことがない。もちろん、旬を過ぎた作品のバックオーダーが十分集まるとは現実的には想像しづらいが、ユーザーの希望が完全に絶たれてしまわないやり方は、僕には好印象に映った。
だから、何年も前に諦めていた作品がひょっこり店頭に並ぶ、などと言うことが起こりうるのだろう。

フィリピンスタイルに従ってみる

しかし、問題は、そういうフィリピンの事情をどうやって日本のお客様に理解していただくか、だ。
日比をまたぐビジネスや企画をしている組織や個人からネット上で、
なかなか日本のやり方を理解してもらえない。どうすればいいか、そこが日比の企画の難しいところ。。。
とう意見をよく見聞きするが、僕の場合は逆で、いかにフィリピンのやり方を日本のお客様に理解してもらうか、という悩みなのだ。

こういう方向性でいったのには、僕なりの理由もある。
もちろん、日本のやり方に沿えばそうほど、利益は大きくなるのはなんとなくわかっているのだけれど、作品(音楽)を生み出すのはフィリピンだ。
クリエイティブな部分に商売としての商品製作がどのくらい影響するかはわからないが、何事も他の要素から完全に独立して進行することはないと思う。わずかでも相互に作用しあっている部分はあるだろう。だから、なるべくフィリピンの商習慣に従った方が、結果的に良いのでは?と思ったのだ。
もう一つ、我々は、最近は下降気味とは言え、まだ日本はフィリピンに対し経済的に優位な立場。譲歩したりする余地はこちらにある。零細な我がオンラインショップも、フィリピンの現場に比べればまだ余白は持っているだろう。しかし、彼らの、それこそCDジャケットやケースを一枚一枚パッケージしているような末端の人たちには、それこそ何時間も働いてやっとこさその日の食い扶持にギリギリありついている人も多いことは想像がつく。彼らに慣れない様式・進行を強いるより、我慢できる範囲でまず我々が譲歩した方がいいのでは?というのも僕の考えだ。
最後に、彼らはフィリピンローカルの会社で主にフィリピン国内で消費される音楽を製作しているのだが、海外部門を設け、世界中の、それも大手ではなく小売業者を相手に積極的に事業を展開しているところに、僕の将来にとって有意義なのでは?と感じる部分もあり、彼らの商売のやり方を学ばせてもらおうと思ったこともある。ひょっとしたらこの部分が一番大きかったかも。。。

もちろん、
そんなことを考えているから儲からないんじゃないか?
なぜちゃんと日本のユーザビリティを第一に据えて要望しないんだ?
という指摘や不満をいただくこともある。
でも、これが僕の考え方なのだ、と、頑固者を笑って眺めていてくれれば。。。と思う。

2007年、あの頃に流行っていたOPM

次記事では、2005年から2007年頃に流行していたビッグヒットなどを織り交ぜた内容にする予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?