瞳に残る幻想

定時通りに定量の薬を飲んだ葵は、ぼんやり外を眺めては、先程の散歩の事を思い出していた。

一秒事に光を失っていく世界に身を任せては、イタズラに瞬く飛行機を目で追いながら。

「今日はやけに見たなぁ……」

葵の視界の端で光る自転車のライト。安全を確認し軽く振り向くと、砂のように消えてた光。対向車線に横たわる猫は幻。回転灯を回す救急車の音は18時を指す針のようだった。

「そういえば、この前はやたらと走る人ばかりみたなぁ……」

何をそんなに急いでいるのか、葵は理由を考えながら、その人の存在する意識の中へ溶けていくように、ふらついて歩いていた。

単純に、運動の為に走る人、遅刻した人、誰かの為に走る人。
どの答えに達しても、葵には縁のない人達ばかりだ。そう思った瞬間、葵の脳裏は憶測を止めた。

「本当に、くだらない事に興味わくなぁ……これも遺伝やろか」

遺伝という事にしたいのは、単なる言い訳に過ぎない。満月の光も届かない部屋は暗闇に音も立てないで染まっていき、葵は影を失った。

「影のない自分……か」

つまらない事ばかり考えている自分の顔を鏡が奪っていく様を横目で流しながら、葵は呟いた。

「気持ち悪」

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