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君から返ってくるまで #7



 ーー寝坊してしまい、少しの時間しかさくらに会えなかった今日。大学の講義に出ていると、スマートフォンの通知音が鳴った。・・・渡辺さんからだ。

「もう授業中かな?メールごめんね。今日話そうと思ってたのだけれど、優太くん、慌てて出ていっちゃったから。今日の午後時間ある?さくらちゃんのことで話があって。」

 ・・・なんだろう?悪い知らせだったら嫌だな。僕だって、もう大切な人を失いたくないんだ。不安な気持ちを抱きながら、大学が終わった後、さくらの住む施設へと向かった。


「優太くんいらっしゃい!ごめんなさいね、突然呼び出しちゃって。」

 そう言いながらお茶を出してくれる渡辺さん。

『いえいえ。早速ですけど、さくらに何かあったんですか?』

 僕がそう尋ねると、真剣な眼差しで僕を見る。

「優太くん、さくらちゃんを受け入れる覚悟はある?」

『え・・あっはい!勿論です!』

「そう。それ聞いて安心したわ!実はね、さくらちゃん、最近話すようになったのよ。」

『え!?』

「優太くんの頑張りのおかげね。4年間もずっと一日もかかさず毎日通ってくれて。さくらちゃんも少しずつ少しずつ、でも着実に、閉ざしていた心を開いていったの。」

 なんという事だ。全く気がついていなかった。気が遠くなるような4年間だった。何を話しても、どんなアプローチをしても、無表情で無反応だった。少し笑ったような気がしていても、勘違いだと思っていた。


「さくらちゃんね、長い間言葉を発してなかったから、発声が上手く出来なくてね。もうすぐ十年経っちゃうからって、発生の練習しているのよ。」

『十年・・!』

「うふふ。もう少しよ、優太くん。」


 ・・・ちゃんと届いてた。無意味かもしれないと諦めかけた時もあったけど、ちゃんと意味があった。また、さくらが笑ってくれる未来が、もうすぐそこまで来てる。

 それから僕は、さくらの微かな反応も見逃さないよう、今まで以上に長く濃く、さくらに話しかけるようになった。大学、就職活動の傍らで通うのは大変ではあったが、さくらがかえってくるなら、そんなもの屁でもなかった。


 そして、約束の日から十年経つ日・・・。

『さくら、おはよう。今日も来たよ。』

「・・・。」

『今日は、さくらに嬉しいお知らせがあります!実は・・・就職先が決まりました!』

「・・!」

 あれ、反応した・・?と一瞬思ったが、あまり騒ぐのはさくらの為にもならない。わざと知らぬ顔をして、僕は話を続けた。

『ここの近くの会社だよ。だから、これからもさくらの顔は見に来るからね。そして、約束と少し違う結果にはなるけれど、ねぇさくら。さくらが大丈夫になったら、僕はいつでも約束を叶えられるよ。その準備も覚悟もとっくに出来てる。またさくらを見つけられた時からずっと。』

「あ・・・。」

『・・!』

「ゆ、うた・・・。」

『さくら・・!うん、優太だよ。なに?』

「・・・。」

『ゆっくりでいいよ。』

「優太・・就、職・・おめ、でとう・・・。」

『うん・・!ありがとう・・!』

「優太・・私・・こんなことに、なっちゃって・・・。」

『うん・・・。』

「でも、私・・優太が、来てくれて、見つけてくれて・・嬉しかった・・・。」

『うん・・!』

「約束・・覚えてて、くれたの・・?」

『当たり前だろ・・!』

「こんな私でも・・お嫁さんに、してくれるの・・?」

『・・そうだよ・・当たり前だろっ・・!』

「もっと頑張るから・・待っててくれる・・?」

『・・だからっ、当たり前だろうが・・!』

「嬉しい・・ありがとう・・!」


 5年半振りにした会話に、僕は涙が止まらなかった。そんな様子を見て、渡辺さんも泣いていた。さくらは、物凄く堅く、だけどとても綺麗に、笑っていた。




 ーーー1年後。

 さくらは人前で話せる程にまで回復した。まだ普通の仕事をすることは出来ず、相変わらず施設で暮らしているけれど、施設内で介護や心理学の勉強をしている。

 明るくて優しい母親に似たさくら。長いこと心を閉ざしてしまっていたさくら。それでも必死に生きてきたさくら。

「優太が私にしてくれたように、私も誰かを支えれる人間になりたい。そして、お母さんが私にしてくれたように、私も誰かを励ましたり、笑顔に出来る人間になりたい。」というさくらの思いは、きっと天国の母にも届いているだろう。


 社会人二年目の僕と、復帰を目指して勉強に打ち込んでいるさくら。そんな二人の朝は、あの頃の輝きをやっと取り戻している。



『渡辺さん!おはようございます!』

「優太くん、おはよう!」

『さくら、おはよう。』

「優太、おはよう。」

『じゃあ、仕事行ってくるね。勉強頑張って。』

「ありがとう。優太もお仕事頑張ってね。」

『おう!じゃあ行ってきます!』

「「行ってらっしゃい!」」



 まださくらの家族は居ない。けれど、何年越しかの約束を果たすために、止まっていた時計の針は再び動き出したのだ。


 君から返ってくるまで、必死に頑張っていた僕の次の夢は・・・君と、家族になること。



end.

✄--------キリトリ--------✄


冬休み特別企画最終日です❄️
これにて"きみかえ"完結しました〜!


一生懸命さくらに想いを伝え続けた優太と、一生懸命優太の想いに応えたさくら。どちらも尊い🤦🏻‍♀️♡自分の作品の中でも、とても大好きで大切な作品です!

ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました🙏🏻良ければコメントで感想など聞かせてもらえたら嬉しいです(⊃ ॑꒳ ॑⊂)


次回の投稿では、久しぶりに新作エッセイを書きたいなあと思っています。いつ投稿しても見逃さないように、noteのフォローもしくはXのフォローをお忘れなく!



それでは、また。

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