脳科学のモジャモジャ(Pさん)

 記憶力を上げようと思った。
 頭の中に、豊かで精巧な世界がなければ小説が書けない。
 しかし、僕は自分でも致命的と思うほど記憶力が悪い。
 興味のある分野だったら、なんでそんなこと覚えているのかと不思議になるほど覚えていることもあるが、反対に興味のないことに関しては、常識的会話が通じないくらいに知らないことが多い。
 芸能人、音楽関係は特に弱い。この間、職場にカラオケ機が置いてあって、パートのおばさんが
「パプリカ流そうか」
 と言ってるのを聞いて、
「何ですかそれ?」
 と言ったのを、かなり怪訝な目で見られたということがあった。それで聞いてみて、(ああ、これはもしかすると例の曲なのか?)となんとなく了解されたというくらいだった。
 もともと常識というのを軽視する傾向が強い。しかし一旦インプットされるとなかなか離れない。今朝、夜勤明けで、テレビでふとその「パプリカ」が掛かっているのが聞こえてきて、それから何時間か、頭の中でずっと繰り返されていた。挙げ句には、全く別のことを考えて動いているにもかかわらず、口が勝手に動くようになり、これは何かの病気かと思った。
 前はよく、この類の強迫的な観念に悩まされることが多かった。そんなときは、流れるままに任せるしかない、という対処法を見つけてからは、それほどでもなくなった。しかし、他のことが考えられなくなる、思考が乗っ取られるかのような不快感を伴う雑音であるのには変わりない。

 脳味噌とは、SDカードかなんぞのように、明快に使うわけにはいかないものだ。

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