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期限があること

朝、目が覚めると抱きしめられている。
起きたことに気づくと、彼はもっとわたしを強く抱きしめる。

「おはよう」
「おはよ」
「昨日はどんな夢を見た?」
「眠りすぎてみる余裕なかった」
「私は家具を買う夢を見たよ」

昨日の最後の記憶は、彼の腕の中でウトウトしていたこと。
いつか言った私のわがままを彼は忠実に守る。
「私より早く寝ないで」

宅配便が届きチャイムが鳴る、まだ布団から出られない私の代わりに荷物を受け取る。

布団に戻ってまた夢の続き。歌詞のない流行っぽい歌を流したら、2人再び誰にも邪魔されない世界へ行く。

果てるとここは現実世界。私の行き過ぎたわがままは今日も脅迫じみている。

会ってる時よりメッセージが素っ気ないのは何故か。最近嘘臭いのは何故か。全てオープンクエスチョンで彼を問いただす。彼は弁解しながら外方を向く私を後ろから抱きしめる。
「怒る奈々が可愛くてつい怒らせたくなっちゃうんだ」
そんなhowto本に書いてあるような台詞は懲り懲りだった。

私は情緒が他人よりアレだ。
よくもこんなわがまま娘に付き合っていられるなと思う。でもいまの私にはこれが最大限の幸せだった。 

わたしがインスタグラムを目だけで見ている間に炊事や食器洗いは終えられ、雨が降りそうな空に干される洗濯物の行方すらも決まっていた。

何かしてもらうことに幸せを感じるとき、何かしてあげる幸せを学ぼうと思った。

「なにをしてるの?」
「今日は帰ってくる?」
「帰ってくると思ってたのに」
「行っちゃうの?」

そんな偽りの甘い言葉がわたしの傷口の治療をする。でもここが素でわがままで居られる居場所なんだと思う。

一緒に食べるご飯が美味しい
一緒に観るテレビが面白い
一緒に浴びる朝日が心地いい
この夜が終わって欲しくない

わたしのこの気持ちに偽りはない
だからもう少しだけここに居させてほしいと願う。リミットは着々と後ろから迫る。

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