キウ子

地域の古老・友人などから聞いた、日常に潜む怪異譚をベースにした怪談を投稿しています。 …

キウ子

地域の古老・友人などから聞いた、日常に潜む怪異譚をベースにした怪談を投稿しています。 すべてツイッターに投稿したものを加筆修正しています。

最近の記事

「木片」

ヤマさんから聞いた話。 ヤマさんは中部地方某県で測量の仕事をしていた。 ある河川の、荒れた河川敷でのことである。 その日は先輩社員と2人での訪問であった。仕事の下見に来ていたという。 季節は秋にかけてのことで、刈られたばかりのススキが川沿いの段丘の斜面に立てかけられていて、蒸されたような独特の甘苦い匂いを発していたそうである。 ヤマさんは当時まだ若手で、先輩社員の後を追って歩いていた。 ふと、足元に何かが当たったという。カランと軽い音を立てた割に、長靴には重い感覚が

    • 「漁村にて」

      ある人から聞いた話。十年ほど昔の事である。 彼女にはある悩みがあった。時折、彼女にはぼんやりと形のないものが見える。周囲より少し色の薄い、 定まりのない影のような人型が見えているのだという。それらは花壇や田畑、緑地公園など、なぜか自然の中によく姿を表すそうである。 だから、田舎に住む祖父母の家へ行くのは昔から苦手だった。三重県の小さな海沿いの集落にあったというその家を年の瀬や夏の休みに家族で訪問すると、必ずと言っていいほど、件の影を家の周りで見ることになった。 祖母が亡

      • 「井戸」

        ある人から聞いた話。 その人の生家は中国地方某県の、坂の多い町であった。 彼の家の裏手には使われない井戸があった。セメントで固められた石積みの縁に、鋳造の手押し式のポンプが付いていた。綺麗に祖母が整備した庭の隅、梅の木に隠れるように放置されたその佇まいには、幼い頃から違和感があったという。 その辺りは酒処で有名なので、井戸水もさぞかし美味いんでしょうねと言った僕に、その井戸はね、ちょっとおかしかったんですよ。と、以下の話を聞かせてくれた。 彼がその家に住んでいた、40

        • 「トマトの隙間」

           友人から聞いた話。 彼の母方の実家では、家庭菜園として様々な野菜を作っていて、夏休みの一定期間の滞在中、彼は野菜の収穫を手伝って楽しく過ごしていた。  海が近い土地柄故か、特にトマトは大きく甘く実った。彼の顔と同じくらいのそれを畑から採ってすぐ、少し塩を付けてかじる。それが彼の何よりの楽しみだったそうである。  ある夜、纏まった雨が降った。収穫直前に水を吸いすぎたトマトは弾け、深い傷を作ってしまう。中に小さなムカデが入ることがあるので、雨が上がった翌朝、祖父とともに畑

        「木片」

          「天狗倒」

           九州中部に住む、松本さんに聞いた話。大工であった祖父が度々語って聞かせた話だという。    松本さんの祖父を、真悟さんとする。彼が三十代の頃、少し遠い山中の集落の家の新築を請け負うことになった。  自宅から距離があったため、平日の間は集落の離れを借りて生活し、土日にバイクで自宅へ帰る生活だったそうである。    ある梅雨時の午後、仕事を終え山道を自宅へ向かっていた時のこと。  仕事先の集落から自宅までは、山を駆け下りるような細い川沿いの、当時は舗装も不十分だったという道路を

          「天狗倒」

          「和櫛」

           北陸某県に住む友人に聞いた話。  普段は自家用車で通勤している彼だが、職場で納会があり、酒が入っていたため自宅の最寄りまで電車で向かうことにした。  遅い時間の2両編成の電車の乗客は疎らで、どことなく居心地の悪さを感じていた。彼は飲んでいるうちは楽しいが、一人になると途端に気分が悪くなる性質だった。項垂れて電車の床を眺めていると、視界の端で何かが動いたという。  そちらに目を向けると、何か小さいものが床の上で動いていた。最初は蝶か大柄な蛾だと思ったという。薄いひらひら

          「和櫛」

          「懐く」

           友人の麻衣子さんから聞いた話。  麻衣子さんの実家は昔ながらの平屋だったが、ある年に起きた地震で一部が壊れてしまったのを機に建て直したという。  完成したのは近代的な木造の2階建てで、明るく開放的なった自宅には心が湧く思いがしていた。  彼女の家には、数年前父が連れてきた猫が一匹いた。黒地に赤や茶の模様の入った錆虎の雄猫で、尾が曲がっていたことからカギと名前を付けていた。カギは旧宅では畳の上がお気に入りで、よく窓際で陽を浴びながら眠っていた。しかし新しい家となってからは、

          「懐く」

          「いい人」

           大阪でSEをしている、前島から聞いた話。  前島が深夜まで残業をしていると、内線電話が鳴った。既に十時を回った時計を見ながら首をかしげつつ電話を取ると、少し遠くから、男の声が聞こえたという。  前島が受信機の音量を上げ名乗ると、相手は「開発4課のシラタさんをお願いします」と告げた。  入社後まだ日が浅かった彼は、手元に職制表を取り寄せた。 しかし、開発4課という名前の部署はなく、似たようなものもない。シラタさんという名前にも覚えがなかった。  再び耳元に受話器を当て、折り

          「いい人」

          「祖父の山」

           飲み屋で知り合った、伊藤さんという男性から聞いた話。  彼の生家は某県の山間の集落で、実家も代々林業を営んでいたそうである。  杣人であった祖父がよく彼に言い聞かせていた昔話があったという。それは以下のような話である。  自分達が住む集落から東へ入った山には、昔は「ヤマモリ」という、猿のような黒い体に、赤い顔の妖怪が居たという。体が小さく俊敏で、ひどい臭いがするので隣の尾根にいるのも分かった。  ヤマモリは悪さはしないが、荒神の使いであると言われていて、山で無作法があれば

          「祖父の山」

          「梅見」

           九州に住む、友人の三木さんに聞いた話。 「梅を見に行かない?」  高校からの帰り、母が唐突に言い出した。当時彼女は隣町の学校へ通っており、職場の近い母が車で拾って帰っていた。  母子家庭で、保険会社に勤め平日は忙しく、休みの日は倒れるように眠る母である。明るくて強い人だったが、滅多にどこかへ連れて行ってもらうことはなかった。「お弁当もあるしさ」後部座席を見ると、どこで都合したのか風呂敷に包まれた重箱が置かれていた。  彼女の家から10キロほど離れたところに小山があった。

          「梅見」

          「高野山」

           仕事で知り合った土居さんという方から聞いた話。 土居さんの生家は中国地方の某市である。  彼女が中学生の頃、ある台風の夜。家中の雨戸を閉め切り、祖父母をはじめ家族皆が早々に床に着いたが、彼女は布団の中で携帯を触って過ごしていた。次第に風が唸るようになり、裏手の雑木林から軋むような音がする。  突然、ダンダンダン、と重い音と振動が家に響いた。身を縮めるほどに驚いた。明らかに玄関のアルミの引き戸を叩く音だった。  携帯電話は11時の表示を見せていた。こんな時に誰かが訪ねて来た

          「高野山」

          「銀海」

             田島さんという友人から聞いた話。  田島さんは高校卒業までお爺さんと同居していた。お爺さんは当時80代に掛かっており、長く続けいた漁師を辞め、船や漁具などを処分してからはめっきり出歩くことも減っていたが、まだ心身の調子も良く頭もしゃんとしていたそうである。  ある日のことである。家族で夕食をとっていた。田島さんがチャンネルを回すとスタジオジブリの『崖の上のポニョ』が放映されていた。見るとは無しにそのまま食卓で流していると、あるシーンで祖父がはっと息を呑んだ。  ポ

          「銀海」

          「牛」

          坂本さんから聞いた話。 坂本さんのお爺さんがまだ若かった、戦後すぐのこと。  彼の住む街の中心には大きな川が流れていた。普段は緩やかな碧色の流れを湛えていたが、まとまった雨が降ると氾濫を起こしやすい川だったという。  その年の梅雨は激しい降雨があり、すこし高台にある坂本さんの家も床下が浸かるほどの被害が出た。  自宅から離れた川岸の田んぼから水が引き、泥掻きに出てみると、一匹の大きな赤牛の骸が、辻に横たわっていた。上流の町には幾つか牛舎があったので、こうした水害の度に川を流

          「牛」

          「笹舟」

          ヤマさんという、岐阜県に住むお爺さんに聞いた話。彼は主に山林の測量を仕事としていた。  90年代後半のある日、ある深山でのことである。彼の他にふたり、計3人のチームで測量地に向かっていた。  季節は春から夏に移ろうとしている頃で、濃い緑のにおいのする広葉樹の急峻な山林を這うように、小さな沢が流れていた。  そのエリアは三方が急に高度を上げる、いわゆる袋小路となっていて、登山客はおろか杣人さえ普段立ち入る場所では無かったという。ヤマビルに気をつけろ、と後輩に声をかけつつ、沢沿

          「笹舟」

          「足」

          友人から聞いた話。彼を篠原くんとする。  篠原くんは全国転勤の頻繁な職業についている。仙台で働いていた頃に住んでいたのは郊外のワンルームマンションで、前任地にいるうちに下見をせず決めたという。  とはいえ築浅で明るい雰囲気のマンションには満足しており、元来細かいことを気にしない彼なので、そのマンションに住んでいる間に起きた細かい違和に、初めのうちは気づかなかった。  ある日、仕事から疲れ切って帰宅した深夜、テーブルの上に箸が転がっていた。コンビニや店屋物で済ませる彼にとっ

          「足」

          「介抱」

           知り合いの寺院の息子さんから聞いた話。  彼を仮に、俊さんとする。  俊さんは少し変わった経歴の持ち主である。次男坊だった彼は当初寺を継ぐ予定はなく、大学卒業後は一般企業で働いた。貿易関係の仕事についた彼は数年間台湾に勤務した。激務かつ不規則で、早朝に出勤し午前中に終わる日もあれば、夜間の港に張り付いて翌日の早朝に帰宅することもあった。  台湾南部の高雄という街で勤務していた頃のことである。台湾には、住宅地やオフィス街に関わらず至る所に大小の寺院が開かれている。道教、仏

          「介抱」