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StravaとMAFとワラーチと富士山マラソン

五月の連休の最終日に V-C から「富士山マラソンに出よう」というお誘いがあった。彼もぼくも10Kを走った経験がないから、「これは!」と思ったし、その時点までフルマラソンというのはまったく縁のないものだったから。

巡りあわせというのは面白いもので、V-C は絶妙なタイミングでいろんなものを持ち込んでくる。ランニングコミュニティへの入会もそうだった。2020年の2月、三浦半島の漁港まで朝日を眺めに行ったときのことだ。朝食に遅れないようにホテルまで走ったことを facebook に書いたのだけど、記事を読んだ V-C がぼくが日常的に走っているものと勘違いした。そして、Strava というランニングコミュニティに誘ってくれた。

コロナ禍が始まった時期にランニングは最良の選択に思えた。自宅付近のジョギングに始まり、距離を伸ばしならが、一年もたつと地元開催の小さなレースに出場した。ランニングコミュニティから常に刺激を受けていたからだろう。

低心拍数トレーニングを教えてくれたのも V-C だった。Strava の日々の記録を見ていて、彼が妙に異常に遅く走っていることには気づいていた。でも、彼が漏らす心拍数についての呟きは響かなかった。ぼくは10kmの記録を短縮することに熱中していたからだ。

でも、あるとき彼が送ってきた映像には衝撃を受けた。Floris Gierman というオランダ人のトレーナーがサブ3(フルマラソンを3時間以内で走ること)の走りをビデオ中継していたのだ。ぼくは宗旨替えをし、それ以後、Floris が信奉する Phil Maffetone が提唱する MAF 法専科で練習をしているMAF 法は低心拍数トレーニングの一種なのだけど、エッセンスは非常に単純だ。基本的には「180 - 自分の年齢」を基準心拍数として走るのだ。だから、55歳の人の基準心拍数は 125 となり、心拍数115以上、125以下の範囲で走るだけだ。この負荷だと一緒に走る人と長い会話を楽しむことができるし、歌を口遊める。ただ、速度は恥しいほど遅くなる。僕が MAF 法を始めたとき、ほとんどすべてのジョガーがぼくのことを抜いていった。半年ほど続けている今でも、ぼくは遅いランナーだ。

この MAF 法だけれども、いくつか強みがある。翌日に疲れが残らないし、怪我もしない。さらなる強みに熱中症対策がある。明日の富士山マラソンに備えて、2ヶ月前の10月1日に30kmのレースに出場したときのことだ。残暑で朝から28度を越えた。妻は「気分が悪くなったら、すぐに棄権するのよ。熱中症で救急車に送られたら、家に入れてあげないからね。」と心配だか、脅迫だかよくわからないことを言って、スタートラインで応援してくれた。

多くのランナーは自分で設定したレースペースに沿って走る。ぼくはペースは気にせず、普段より高めの 145-150 の心拍数を目安にしている。心拍数には、その日の体調も気象条件も反映されるようだ。心拍数を制御すれば、身体に過度な無理を求めることがなくなるのだろう。

この日、最高気温は32度となり、ランニングウォッチの温度計は35度を指した。半分以上のランナーはぼくの遥か先を行ったが、ぼくは心拍数を守った。往復 5km のコースを6往復するコースを周回するあいだに不思議なことに気づいた。上位の集団がどんどん小さくなるのだ。ぼくが牛蒡抜きしたわけでもないののに。ゴールしてみれば、なんとぼくは5位だった。上位を走っていた多くは棄権したらしい。心拍数がぼくのことを守ってくれたようだ。

MAF 法への寄り道を V-C からのお誘いに話を戻そう。Strava と MAF 法に続いて、マラソンの誘いにものれば、また新たな世界が開けることだろう。そんなこともあって、思いきって富士山マラソンに申し込んだ。その時点では休み休み20kmの距離を走ったことは一度しかなかったから、ぼくとしてはかなりの冒険だった。だれかに背中を押してもらったからこそ思いきりがついたのだと思う。

それから半年、いよいよ明日、富士山マラソンを迎える。目標はワラーチでの完走だ。すでに MAF 法の練習を積んだことは書いたけれども、この半年、ぼくのもうひとつの挑戦はワラーチでのランニングだ。ワラーチというものを知っている人はすくないと思う。これは薄っぺらいゴムの板に紐を通した、草履のような粗末な履物で、一部の熱狂的な人々がランニングに用いている。「そんな変な奴いるか?」と思うかもしれないが、週末にジョギングしてみれば、数人のワラーチランナーに出会えると思う。

このワラーチという履物が曲者で、フォームが悪いと足裏にマメができる。マメの出来具合から自分の悪い癖もわかってくる。マメができないように自分自身を矯正していくうちに、長時間疲れず、怪我をしない走りが自然と身につくのがよい点だ。

8月末はまだマメに悩まされていた。その時点では富士山マラソンにワラーチで出場することを諦めかけていた。幸いなことに周囲の人々のサポートがあり、10月にランニングフォームが大きく改善でき、足への負担がきれいに消えた。この嬉しい変化からまだ一ヶ月。さらに突然の寒波。裸足が基本のワラーチなので、どうするかかなり悩んだ。というか、今も悩んでいる。夕方、河口湖の周囲を走った様子からは、ワラーチに五本指靴下でいけそうな気がする。明朝の冷え込みのなか確認して、最終的な装備を決めることになると思う。

StravaとMAFとワラーチ、そして半年前は思ってもみなかったフルマラソンへの出場。この挑戦を富士山と湖と紅葉がどのように受け止めてくれるんだろう。明日が楽しみだ。

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