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初めて買ったアルバムはスピッツの「とげまる」だった

誰にとっても、初めて買ったアルバムというのは
思い出深いものだろう。

言うに及ばず、自分もそうだった。

いつまで経っても忘れないし
今でもそのアルバムに収録されている曲たちは
ふと疲れた時、何の気なしに聴いてしまうことがある。

自分で初めて選んで、手に取ったアルバム。
それが、スピッツ「とげまる」という作品だった。

当時、中学2年生の時に発売されたそのアルバムは、彼らの3年ぶりとなるオリジナルアルバムであり、様々なタイアップ作品が収録された一作。

中学生の頃に、親の影響で知ったスピッツというバンドは、それまで聴き流すだけだった「音楽」に、言葉の美しさや歌詞の色合いがあることを教えてくれた大切な存在だった。

そんなスピッツが新しくアルバムを出すならば「買うしかないだろう」と言うことで、中学生のなけなしのお小遣いをはたいて手に入れたのが、この「とげまる」という作品。

草原を覆い尽くす無数のキャンドルが、遠くを見つめる女性の姿をほのかに照らす幻想的なアルバムジャケットがとても印象的だったのを覚えている。

実は、今までも、いろんなアーティストさんの歌詞について書いてきたのだけれど、スピッツに関しては、好きな歌詞や紹介したい曲が多過ぎて、記事にして書くのを躊躇してしまっていた。

だから、今回は初めて買った思い出深い「とげまる」の中でも、特に好きな曲の歌詞に着目しながら、スピッツの魅力を伝えられればと思う。

本当は全曲、紹介したいのだけれど、あまりにも長くなりそうだったので、泣く泣く厳選させてもらった。ぜひ、全曲聴いて。

1.ビギナー/スピッツ

アルバムのトップバッターを飾るのは「ゆうちょ銀行」のCMタイアップソングとしても知られている「ビギナー」と言う楽曲。

誰もが知る国民的ロックバンドながらも、アルバムの一曲目となるナンバーが初心者ビギナーであることは、どことなくスピッツらしい。

応援ソングと言うと、直接的なメッセージが歌詞で描かれることが多いけれど、スピッツの応援ソングには「頑張れ」のような直接的な言葉は、ほとんど出てこない。

懲りずに憧れ 練り上げた嘘が
いつかは形を持つと信じている

ビギナー/とげまる

それなのに、作詞作曲を務める草野マサムネさんが描く歌詞からは、内から湧いて込み上げて来るような、有無を言わさない勇気を貰えるから不思議だ。

特別な言葉なんかじゃなくて、日常に転がっているような言葉が繋ぎ合わさって、じんわりと暖かい、ぬくもりのある歌詞が生まれていく。

個人的に、1番のサビと2番のサビの最初の言葉が、それぞれ順接の「だから」と逆説の「だけど」で始まっているのに、どちらも「追いかける」に連なっているところが好き。

対岸から言葉を投げかけられているのではなくて、側で肩を叩かれながら、背中をそっと支えられながら「まだ諦めてないだろう?」と尋ねられているような、そんな気にさせられるお気に入りの一曲。

3.シロクマ/スピッツ

3曲目に収録されているのは、こちらもCMソングとして話題となった一曲である「シロクマ」

ポップなイラストとシュールな映像も相まって
観ているとゆるっとした気持ちになってしまうMVもおすすめ。

しかし、歌詞を眺めてみると、慌ただしい毎日の中で疲れ切った心をなんとか繋ぎとめる「君」との関係が随所に描かれている。

惑わされてきたたくさんの噂と
憎悪で汚れた小さなスキマを

シロクマ/とげまる

草野さんが書く歌詞には、抽象的なのに妙に馴染みのある言葉が心や感情の例えとして使われていて、自然と共感してしまう。

特に「ビンの底の方に残った力で」と言う歌詞は、なけなしの力を振り絞ってもう一踏ん張りする姿を、身近な言葉で秀逸に表現している。

ポップなメロディに騙されてしまいそうになるけれど、現実と並行して綴られる鬱屈した想いまでも、滑らかに心に流し込まれてくるのが、スピッツらしい。

4.恋する凡人/スピッツ

個人的に、4曲目に収録されている「恋する凡人」
このアルバムの中で1番好きな楽曲。

これぞ、草野さんの歌詞の魅力が
ぎゅっと詰まった一作だと思っている。

なかば恋に暴走気味の主人公の男が必死に雨の中を駆け抜けていく、吹っ切れたサビの爽快感はもちろんのこと、ところどころ出現するフレーズが強烈に印象に残った。

進化する前に戻って 何もかもに感動しよう
そのまなざしに刺さりたい

恋する凡人/とげまる

まなざしを「向けられる」でも「射抜かれる」でもなく
「刺さる」という表現で「君」に惹かれる主人公の心情を綴っている。

恋に目が眩んで、ネジのハズレかけた男のギリギリのせめぎ合いも、草野さんの手にかかれば、絶妙な塩梅でポップに表現されている。「君のためになんでもやる 意味なんてどうにでもなる」なんてなかなか言えない。

それにしても、歌詞の最後を「これ以上は歌詞にできない」で締めることができるのは、草野さんくらいかもなのしれない。草野さんでもお手上げなら、もうしょうがないと思える。

7.花の写真/スピッツ

アルバムの7曲目には、弾むような音とメロディが雨上がりの空を彩るように歌われる「花の写真」が収録されている。

この曲の魅力は何と言っても
歌詞にちりばめられた一貫したキーワードたち。

「小さなカメラ」「古ぼけた街」「黄色い封筒」など、背景に流れる風景を連想させるような言葉が、自然と歌詞の中に置かれている。

街路樹がさわぐ音の中 靴擦れの痛みも気にしない
水たまりを飛び越え 早足で歩く

花の写真/とげまる

ここまで頭で想像した風景に馴染む言葉を、つらつらと綴ることができるのだろうかと驚いてしまうほど、草野さんが選んだ言葉はストーリーを妨げることなく流れていく。

雨上がりの道を散歩する僕の姿
草野さんの歌声にのって、ありありと浮かんでくる。

また、爽やかな曲調からポジティブな物語を連想するかもしれないが、歌詞を通してみると、主人公の切実な想いが垣間見れるような、少し物悲しいストーリーが紡がれていて、そのギャップがこの上なく良い。

12.若葉

12曲目に収録されているのが、映画『櫻の園-さくらのその-』の主題歌であり、スピッツの楽曲の中でも屈指のバラード「若葉」

初夏の日差しが差し込んでくるような暖かなメロディと、そんな暖かな日々を懐かしむように歌われる歌詞が、どことなく儚いストーリーを予感させる。

まるで、木漏れ日に照らされているような心地になる一曲ではあるけれど、そんな幸せがいつまでも続くとは限らないことを仄めかせるかのように、歌詞のフレーズには節々から郷愁の念が漂っている。

暖めるための火を絶やさないように
大事なものまで燃やすところだった

若葉/とげまる

何気なく過ごしていた日々が、とても危ういバランスで成り立っていたと気づくのは、いつだって何かが終わった後だった。

歌詞に流れる情景描写が綺麗であればあるほど、差し迫った現実が輪郭を持って目の前に現れる。

実際、全体に目を移すと「無邪気」「可愛い話」といった言葉に対して、「一人よがり」「バカげた」という言葉は、相反する現実を実感してしまうようなキーワードとなっていた。

今君の知らない道を歩き始める

若葉/とげまる

それでも、縋りたくなる想い出にひとまず鍵をかけて、新しい一歩を踏み出す決意が、この歌詞の一文からは伝わってくる。

最後にこのフレーズを歌い上げる草野さんの歌声を
一度で良いから生で聴きたいと、ずっと思っている。

最後に

まだまだ紹介したい曲はたくさんあるけれど、とりあえずこの辺で。
ちなみに、最近は「僕はきっと旅に出る」がお気に入りでよく聴いている。

今年は映画「名探偵コナン」の主題歌となった「美しい鰭」が大ヒットし、30周年を超えてもなお、精力的に活動している姿をファンのみんなに見せてくれているスピッツ。

新曲を聴いて、改めてスピッツに興味を持ったという方がいるならば、今一度、この「とげまる」という作品を作品を聴いてみてほしい。

もっともっとスピッツの曲を
聴いてみたくなるはずだから。


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