わたしは今日

わたしは今日
自らが太陽の子であるかのように錯覚した
二月の貴重な陽光に照らされて
今ひととき あれら陰を忘れて
錯覚と忘失を繰り返し生きている
錯覚と忘失を繰り返し生きて来た

入学や出産 披露宴のように
生涯を通して記憶される風景とは異なり
今日歩いた路地をわたしは忘れるだろう
ずっと日陰かと思っていたのに
期待しないところから陽がさして
春を感じられた喜びだって忘れるだろう
あの子が飲んだスムージーのカラーも忘れる
商品もなくなる
ああ この体験と体感と喜びを
記録しなければと
焦りながらシャワーで泡を流したことも忘れるだろう
忘れないように
ここに来るまでに何度も何度も何度も
頭の中でなぞったことも忘れるだろう
脱衣所の床で見つけた一本の頭髪にも
吹き飛ばされそうだったこの詩を抱きしめて
慌てて着替えてこれを書いた
そんな愛おしいことも忘れるだろう
そしてこの詩だけが残るだろう
この詩だけは残っていて欲しい

わたしは今日
自らが太陽の子であるかのように錯覚した
二月の貴重な陽光に照らされて
今ひととき あれら陰を忘れて
錯覚と忘失を繰り返し生きている
錯覚と忘失を繰り返し生きて来た
錯覚と忘失を繰り返し生きていく
最期には骨と詩だけが鳴るのだから

わたしは今日
この詩を書くことが出来てよかった
これ以上ない喜びだ
思わなかった
いつ死んでもいいやとさえ思う瞬間が
詩を通してこんなにも体感されるなんて
思わなかった

わたしは今日

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