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日本には”デザイン・ミュージアム”がない?

先日、「デザインミュージアムをつくろう!キックオフ公開会議」に参加してきました。

「まずは、こうした活動が社会的に盛り上がっていくことが大切。」とのことで、確かに世の中的に盛り上がらないと政治家のみなさんの関心も高まらないでしょうし、実現もなかなか難しかろうと思います。ので、デザイン業界の末席にいるものとして、話を聞きながら考えをめぐらせた雑感などを記録しておきたいと思います。


上記に議事録が上がっていますので、そちらもご覧いただければと思います。また、2020年1月5日 0:20〜1:10 Eテレにて「デザインミュージアムをデザインする」という関連番組も放送されるそうです。

出演:佐藤オオキ、中村勇吾、森永邦彦、横山いくこ


日本にはきちんとした”デザイン・ミュージアム”がない。実はアジア全体で見ても、まだ存在しない。

2020年開館予定で準備の進められている美術館、香港の「M+」がアジア初の国立デザイン・ミュージアムになるそうです。そこでキュレーターをされている横山いくこさんもパネラーとして参加されていました。

巨額が動く香港 西九龍文化区
近現代アート美術館「M+」がアジアのアートを変える!?


ここで言う「ミュージアム」とは何なのか?というと、以下の4大機能が求められるそうです。(ここに「交流」が加わることもあるとのこと)

①調査・研究 ②収集・保管 ③展示 ④普及啓発

ですので、収集・保管を行っていない「21_21 DESIGN SIGHT」などは、「ミュージアム」にはあたらない、という事のようです。特にコレクションを持つということが重要らしく、そのアーカイブの価値及び、貸し借りを行うことのできる基盤が、ミュージアムとしての世界的信用になるそうです。

そうなると「日本にデザイン・ミュージアムを作ろう!」といった際、まず決めないといけないことが、「何をコレクションするのか?」ということになります。そして、そのコレクションの対象となる「デザインって何なんだろう?」とテーマが広大に広がってしまうところが、この会のおもしろいところでもありました。

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デザインとは?

この会は、2016年12月「日本にデザイン・ミュージアムをつくろう!」会の発足から続く活動のようなので、これまで様々な議論がなされてきていると思いますが、この根源的な質問に対する定義は今も進行中といったところでした。

「デザイン」の定義自体がますます広がっており、有形のものから無形のもの、または仕組みや方法のようなものまで含まれる。また、椅子といった座るモノのデザインもあれば、そこに座るコトもデザインの対象である。さてさて。といったような内容が(かなり大雑把ですが)意見として出されていました。

逆に、議論しつくされたのか、カテゴリー論はほとんど出てきませんでした。「建築」「ファッション」「プロダクト」「グラフィック」「UI(デジタル)」あたりが、今回参加されていた方々のデザイン・フィールドだったかと思います。

おもしろい議論で、良いデザイン、悪いデザイン、良くも悪くもないデザイン、というものがありました。なるほど、デザインはアートと違って鑑賞するものではないので、造形美的な判断だけで良いデザインとは言い切れないところがあります。逆に人知れずなされている工夫、例えば、開けやすいお菓子のパッケージ箱など、それらは見た目は良くも悪くもないデザインですが、機能としては非常に優れたデザインになります。

アートか?デザインか?という二元論的な見方はナンセンスですが、「鑑賞するもの」と「使うのも」との間には、根本的な違いが潜んでいるように思います。

どなたが仰ったか、デザインとは「より良くするための行為、それを共有していく。」といった意見や、「社会のため、人のため、未来のため」にデザインはある、などの意見も聞かれました。


これからのミュージアムのあり方

「何をコレクションするのか?」という課題の一方で、その「器」の議論も活発でした。“既にあるようなデザインミュージアムを今から作っても意味ないよね。” とか、“そもそも建物要る?” など。オフィシャルサイトでは「世界に例のない、デザイン・ミュージアム」を作り上げたい。と、謳われています。

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実際、建築などの大きなものは収納できないので、図面などをコレクションすることになりますが、ミュージアムという器を建物ありきで考えると、“集められるものも自ずと決まってきますよね。”といった意見もありました。デザインは再現性を伴うものなので、必ずしも現物にこだわる必要もないのかな?とも思いました。

日本には、国立のデザインミュージアムがないだけで、メーカーや個人が様々な分野でデザインを収集、所蔵しています。また、民芸品や土器などの出土品までを含めると、日本全体が大きなデザイン・アーカイブとも言えます。

また、今回のパネラーでもあられましたが、日本にはGOOD DESIGN賞という体系的にデザインを評価する組織があり、またこの場で知ったのですが、各界のデザイン協会を横断する組織「D-8」も、これまでに「ジャパン デザイン ミュージアム構想」として、研究を続けて来られているそうです。


日本なりのデザイン・ミュージアムのあり方を、まずコンセプトに落とす必要があると思いますが、基調トークで田根さんが仰っていたように、「文化人類学、考古学の文脈でデザインを捉える必要がある。」という意見は、まったくその通りだと思います。

デザインは「今この時、どう機能しているのか。」ということが根源的な価値としてあると思いますので、そうしたリアリティと歴史的な文脈、そしてそれをグローバルに見た時の差異、特異点のようなもの。食で言う「旨味」のような、日本の歴史の中で培ってきたもの、または突然変異的に生まれたもの。たとえば「かわいい」の正体を、デザインの視点でとことん探るような企画展があってもおもしろいかもしれません。

デザイナーは、兎角ブレークスルーしないと気が済まないところがあるので、みなさんが「ミュージアム」をどうブレークスルーするのか、この活動を興味深く追いかけていきたいと思います。


「デザインとは?」のように、自分に身に降り掛かってくるような問いかけも多く、このテーマについてはまた、思考をアップデートしながら書いていきたいと思います。

[筆者プロフィール]
川内 祥克 Yoshikatsu Kawauchi
株式会社TCD https://tcd.jp クリエイティブ・ディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション企画、UX, UIデザイン業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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