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アナログ蒐集 2023年4月9日~ロケット88の思い出

 ロックンロール誕生期の重要曲の一つであるジャッキーブレンストンのロケット88の78回転SPのチェスオリジナル盤はそこまで鬼レア・・・というほどではないものの、セルフでソートしたネット上のウォントリストを日に数回チェックする自分が年に数回見かけるか見かけないか・・・程度にはレアだったりする。

 今回は夜中にウォントリストのチェックをしてる時に出くわし、アナログブーム煽り・戦争・インフレ・円安で個人的に海外からの購入を自主自粛期間中だったが、諸々を加味しても個人的にここ数年内で最も好条件・・・との判断で購入と相成った。家に帰るまでが遠足、ではないが、割れやすいSPは到着して開封するまで輸送中の破損の心配がついて回るのがストレスだが、先日無事にこのロックンロールの貴重な世界遺産を受け継ぐことに成功した。この手のヴィンテージ品はもはや同好の士の共有財産・・をあと何年生きるかわからん自分が今生の巡りあわせで一時的に対価を払って預からせてもらっているようなものなので適切に管理し、適宜バトンタッチする責務も生じる・・・のだが、単純にロックンロールフリークのアナログ蒐集家としてはテンションが上がる逸品であることは間違いない。

 又この曲には個人的にも思い入れ、というか色々とエピソードのある曲でもある。高校生の頃、少し無理して購入した当時出たばかりのエルヴィス50年代の音源を完全網羅したコンプリートボックスに付属の英訳ライナーノーツでこの曲の存在を知ったのだが、今思えばこの経験がヴィンテージロックンロールフリークとしてより沼の深い場所に歩みを進めたきっかけの一つだったように思う。

 当時はインターネットが出現する前で当然youtubeもない時代、情報も限られており地方都市の高校生が少しばかり背伸びしたところで得られるロックンロールの歴史についての認識といえばロックの初ヒットはビルヘイリーのロックアラウンドザクロックで・・・みたいな通りいっぺんの浅いものしかなかった。それでも持ち前のオタク精神と自分の好きな事にだけは偏執的になる性分を発揮してどうやらそれ以前にも特に黒人のブルース方面でロックンロールといっても差し支えないような曲がちらほらあったらしい、みたいな所までは嗅ぎつけていた。ただそれが具体的に誰の何というタイトルの曲で・・・は分からずじまいで、そんなモヤモヤ解決の第一歩になったのがそのライナーノーツ中の「1951年のジャッキーブレンストンのロケット88」という記述だった。

 繰り返しになるがネットもなければ町に大手の輸入盤店もない90年代の地方都市の高校生がその手の音源を容易く聞けないであろうことは当時10代の子供の浅い経験則でも瞬時に判断できたが、それでも曲名やアーティスト名からしてなんとなく「ロックンロール」してるように感じるワード・語感と51年という年数・・・だけで興奮できるほどにはロックンロールリテラシー的なモノが身についていた。きっとこれはすげークールな曲に違いない、と妄想ばかり膨らんだものだ。

 結果からいえばこの「予測」はほぼ的中か、もしくは妄想以上に自分のロックンロール欲を満たしてくれる要素がてんこ盛りで、もし当時の自分にこの曲がオールズモビルの通称「ロケット88」といわれる若者に大人気だった当時のアメ車がテーマになっていてチャックベリーやマディウォーターズと同じチェスレーベルから出ていてレコーディングはエルヴィスも所属していたサンのスタジオで行われ、実際はアイクターナーのバンドがやってるのに勝手に名義変えられた、みたいな経緯があり元ネタはスペシャリティレーベルのジミーリギンスのキャディラックブギーともう一曲インストでピートジョンソンのロケットブギーてのがあって、更に後年のジェームスコットンバンドのカバーの演奏がチビるほどカッコよくてお前が今後歩むであろう演奏家人生の一つの指針、理想のバンド演奏の決定打の一つになるだろう・・・なんて事を伝えたら興奮と情報過多に脳の処理が追い付かずにどうかなってしまったかもしれない・・・てほどこの辺りが好きな人にとっては美味しすぎるトピックが広がり放題広がっていくような曲なのだ。

 結局実際にこの曲を聞けたのは多分そこから2~3年して上京し、都内の中古盤屋でジャンプブルースのコンピレーション盤を入手した時だったと思うが更にもう一つ、そこから15年ぐらい後に今度はこの曲のオリジナル盤、即ち今回入手したSP盤の存在を意識するようになったエピソードもある。

 大人になりあっという間に若者の期間が終わり、そろそろオッサンの域に入り始めた頃、メンフィスのサンスタジオを訪れる機会がありその際にサンスタジオが備品・メモラビアとしてイーベイのオークションでロケット88のSPを落札した事を知り、その時に「なるほど、ロケット88のSP盤か・・・それは自分も欲しいかも」・・・という気持ちが芽生えた。記憶が定かではないが確かその時点でも結構な価格、数百ドルでサンが落札した・・・みたいな話でさすが高えな、まあでもモノがモノだけにしゃあないよな・・・と思ったものだが、サンのスタッフたちはすごく得な買い物をした、みたいな口ぶりだったのが印象的だった。

 先にも触れたが元はといえばサンスタジオでレコーディングされた曲のレコードを50年以上経ってそのスタジオが大枚をはたいて備品として購入・・・・ってのは何とも皮肉な話だが、そういうエピソードを聞けたのも現地ならではの貴重な体験だったな、と今改めて思う。

 そのサンスタジオの経験からも既に15年が経過し、身の回りの環境もずいぶん変化し、この曲の存在を知った頃とは比べ物にならない情報が自分の頭の中には詰め込まれているが、曲の存在を知ることすらおぼつなかった不自由な、ちょぴり歪な青春時代なんかを思い出しつつリアルタイム時のメディアであるシェラック盤に刻まれたサウンドを堪能しながらロックンロール登場前夜のクールでヒップでスペースエイジな50年代アメリカのレースミュージックシーンに思いを馳せるとしよう。

sp盤にしては悪くないコンディション。レーベルの色褪せもなく「いい感じに聞き込まれたヴィンテージレコード」の趣。


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