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Tame Impalaのドラムが明示したモード/Vol.1 なぜドラム?


はじめに 〜Tame Impalaとの出会い〜

初めてTame Impala、もといKevin Parkerの音楽を聴いたのは今から4年前、確か能動的に音楽をディグってみたいと思って最初に手にしたアーティストのうちの1人だ。Apple Musicのアルゴリズムに誘導されるがままに、軽率に再生していた。

なぜそうなったのは覚えていないが、その時に聞いた「Currents」という3rdアルバムが自分の趣味に合わないと感じ、なんとなく距離を置いた記憶がある。

当時の僕は、10年代中盤に隆盛を誇った「4つ打ち邦ロック」のムーブメントに辟易し、半ば強引にそこから脱しようと海外のロックを意欲的に掘っていた時期だった。そんな耳には「Currents」の、オルタナティブロックのカタルシスを直接的には提示しない姿勢(Tame Impalaがオルタナの文脈にないことがわかるのはずっと後だ)に、いまいちノリきれなかったんだと思う。全然オアシスばっかり聴いていた。


それから数ヶ月、Apple  Musicのカタログに不具合が生じた。Tame Impalaのアルバムが聴けなくなっていたのだ。当時フォローしていたTwitterの音楽オタクたちが一様に落胆していたのを覚えている。その時のTLにまったり流れていた悲壮感がTame Impalaの偉大さを何よりも物語っていた。


これをきっかけに僕は再びTame Impalaにトライした。皮肉なことに「聞いた感想」ではなく「聞けなかった感想」によって自分の中のエンジンが駆動した。幸い1stの「Innerspeaker」だけがカタログに残っていたので、そこから聞き始める。


その時に人生で初めてのトリップ体験を味わったのを鮮明に記憶している。音の洪水による多幸感とアップリフティングによりに打ちのめされ、気を失ってベットに沈んでいた(Let It HappenのMVで、主人公が空港の床からこぼれ落ちるシーンを想像して欲しい)。目覚めた後のどうしようもない飢餓感と、痙攣する手の光景は今でもリフレインできる。

そんなわけで僕は無事に(無事?)Tame Impalaを克服できた。克服どころか、自分の中で最も好きな海外のバンドになっていた。以降は初聴の時の衝撃を完全に再現することができなかった代わりに、各楽器の鳴りの変化や特異性へと徐々に興味が移行する。


しばらく間を置いて、今度は2ndの「lonerism」がカタログに復活する。前作のガレージ・サイケ路線をひとまずは踏襲しつつも、音像の明瞭さとミニマムなグルーヴの追求がもたらす剥き出しの狂気。今のところTame Impalaで一番好きなアルバム、つまりは最も好きなロックアルバムだ。


これと同時かそれともほんの少し後か、Apple  Musicのカタログには「Currents」が再び復活していた。なので次にこのアルバムを聴くことになる。図らずもApple Music上の問題(他のサービスでも同様の現象が起きていたそうなので、どちらかといえばレーベルの問題なのだろう)によって、Tame Impala(Kevin Parker)の足跡を数ヶ月で擬似的リアルタイム体験したことになる。感覚的にはYouTubeのプレミア公開に近い。

当時はドラスティックな転身に思えたが、今にしてみればこの変化は妥当だと胸を張って表明できる。サイケデリック・ロックの志向するトリップを突き詰めれば、ミニマムなグルーヴの執拗なループに終始することは全く正当な道程だ。10年前に、ゆらゆら帝国がもう通った道だけど。


そんなわけで僕は完全に彼に入り込み、以降動向を追い続けた。初めて正しくリアルタイムで聞いたアルバム「The Slow Rush」も大手を振って歓迎した。ミニマムさの追求とウワモノのレイヤーの多層化、何より退廃的なコンセプトが美しい。Tame Impalaのアルバムで、最もアルバム作品として完成度が高いと思う。


なぜドラム?

Tame Impalaに関するマガジンを作ろうと思い、Kevin Parkerのドラムサウンドの解釈が彼の特異性と革新性の説明として最も適していると、半ば直感的に思い浮かんだ。そして資料を集める中で、この仮説は自分の中でより一層クリティカルな見立てとして実感されていった。

端的に、Tame Impalaのドラムは
・ジャンル間でのビートの輸出入を一旦フラットに観察して
・その上でサイケデリックの宿る部分を抽出し
・ミニマムなグルーヴの強度とその普遍性を明らかにし
・ドラムが果たす役割の再定義を行った

という結論に至った。

このマガジンの目標はTame Impalaの特異性を、Kevin本人のインタビューやその他ミュージシャンの解釈を織り込みつつ、音源から読み取れる情報を手立てに解明することにある。彼の音楽に潜むレイヤーを最も解きほぐし、より一層Tame  Impalaを味わえるようになっていただけたら幸いです。

次号

ということで、次から本格的なサウンド解釈に移ります。まずはKevin本人への、ドラムに関するPitchfolkのインタビューをもとに、彼のドラムがいかにハイコンテクストで、いかにしてそれらにアプローチしたかに迫ります。



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