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江國香織の描く女には敵わない

江國香織さんの描く女性には敵わないな、と思う。

読んでいる最中から常にそう感じているのだけれど、読み終えて本を閉じて尚思う。敵わない。

かなう必要はないし、かなったところで何もない。のだが、敵わないという言葉が出てきてしまう以上、私は彼女達にかないたいのだろう。

江國香織さんの『金米糖の降るところ』を読み終えた。
アルゼンチンで生まれた日本人姉妹。日本で青年実業家と夫婦生活を送る姉と、未婚で出産しブエノスアイレスで娘と二人暮らしの妹。美しい彼女達は、かつては全ての男を「共有」していた。男なんて、男が語る愛なんて、信じていなかった。姉が初めて「共有」を拒んだのが、今の夫だったーー。

なんて、ドロドロか?愛憎劇か?と思うような世界なのに、そしてそこには確かに愛も憎しみも描かれているのに、なんだかとろりと重みをもって透き通る樹液のように美しいのが江國さんの世界なのだ。

江國さんの描く女性はいつも美しい。容姿の美しさだけに留まらず(容姿は必ず美しい)、生き方が美しい。潔い、と言った方が適切かもしれない。
彼女たちは自分の選択を疑わない。他人の顔色を窺わない。世間と同じ物差しを使わない。

だからこそ、彼女たちは狂気に満ちている。人が選ばない道を平気で選ぶ。その道が正しいのだ。だって自分にはその道しかないのだから。そんな切々とした、鬼気迫る確信を持っている。

やっぱり、敵わない。

大事なものが明確な人ほど強いのだと思う。迷わないから。

私が一番好きな江國香織さんの作品『神様のボート』では、母の葉子が娘の草子にこう告げる。
「私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子。」

人生の宝物を、あなたは確信を持って挙げられるだろうか。

私にとって、最初の一つは簡単だ。それは娘だから。私の人生で、私が私より大切にするのは娘しかいない。それは絶対に揺るがない。

もちろん夫は間違いなく大事だし、親も、友達も、みんな大事だ。
仕事だって、趣味だって、なくてはならないものだ。

でも、全部大事、じゃだめなのだ。それでは敵わない。彼女たちには。

敵わなくていいのだけれど。
かなう必要なんて全くないのだけれど。

無数に広がる分かれ道の間に立ち、両手に荷物を抱えて目を白黒させてばかりいる私は思ってしまうのだ。

宝物はこれだ、と言い切りそれしか目に入らずに生きていく美しさ、潔さがあったらどんな世界が見えるのだろうかと。



江國香織さんが好きすぎて、オンナふたりで語り倒した Podcastのエピソードがあります。よかったら。


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