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屈斜路湖再訪1〜ハクチョウに会う〜

(※1は屈斜路湖に辿り着く直前までです)

遡ること5ヶ月程前の9月末、北海道は弟子屈町にある屈斜路湖を訪ねた。

その日は知床半島から車を走らせて霧の摩周湖、硫黄山を観光し、屈斜路湖に着いた時、辺りはすでに薄暗くなっていた。

掘ると温泉が出る

空全体が雲に覆われた日で、日の入り頃だったはずだが、太陽の気配はなく、ぼんやりと灰色の膜に覆われた世界が広がっていた。

詳しいメカニズムは理解できていないが、屈斜路湖は噴火関係で出来た湖であり、周辺を掘ると温泉が湧き出る。そのため付近には寂れた温泉街も存在し、掘ると湯が出る「砂場」や、野湯「コタン温泉」も名物スポットとして存在している。

コタン温泉

そのコタン温泉に行った時である。私はそこに立てられた、「白鳥の湖」という看板に足を止めた。

白鳥の湖といえばバレエだが…なんとそこには、11月末に白鳥が越冬しに来ることが書かれていた。

白鳥というのは自分にとって未知の、美しい生物である(一応飼育されているジツブツを見たことはある)。純白の羽を広げ、すらりと長い首を伸ばした、優美なシルエット。
以前母親に引き連れられてバレエを見に行ったことがある。いくつかのテーマ?を少しずつ演じる形式(形式名は忘れました…)で、その1つとして白鳥を見た。暗いステージに青白い照明がぽつんと当てられ、白い衣装に身を包んだ1人のバレリーナがなめらかにゆったりと舞う。その静かでどこか物悲しい、孤高な姿。それが私の白鳥である。

あと2ヶ月もすれば、今自分がいる湖に白鳥が渡来するのだ。遥か彼方、手の届かないほど遠い存在だと思っていた美しい鳥が実在するのだと思うと、不思議な感動があった。

そして約5ヶ月後の2月、私は図らずも屈斜路湖を再訪することとなった。
図らずも…とは言うが、ちゃんと計画はしていた。ただ、私の目当てはJRが運行する湿原号であり、屈斜路湖まで足を伸ばすことは後々同行者sの希望で決まったのである。
除雪の程度がわからず、カーレンタルはしない方針だったため、屈斜路湖の方まで足を伸ばすのは厳しいだろうと思っていた。しかし同行者sの提案により、贅沢に貸切タクシーをすることとなった。確かにお金はかかるが、私にとっては嬉しい予定外である。

再びの屈斜路湖
旅は釧路駅から始まる

まずは、釧路駅から標茶駅まで運行する、湿原号に乗車した。

牽引車に群がる人々

湿原号は冬にだけ運行する蒸気機関車であり、JR釧路駅から湿原を横に眺めながら、標茶駅まで走行する。世代としては当然だが、私はこの日初めて蒸気機関車(が実際に動いている姿)を見た。鉄道好きの乗客から普通の観光客まで、この時代には珍しいSLを見て、先頭で興奮している。

ポツンとSLの停まった釧路駅は、映画のワンシーンのようである。時折ぷしゅー、と黒煙や白煙を吐き出す蒸気機関車によって周囲に煙の匂いが立ち込める。ホームとの間に開く大きな高低差も、画面上でしか見たことがない。巨大な無機物がまるで生き物のように動き、音を轟かせ、自己を主張していた。

鉄道に詳しく無いためカンで撮影

切符予約が遅く、同行者sとは席がバラバラになってしまった。乗り込んで座席を探すと、1組のカップルと相席である。テーブルが共有されていたためなんとなく気まずく、カップルが窓側2席を取っていて景色も見づらかったため、ほとんどの時間を最後尾にある大きな窓のそばで立って過ごした。進行方向右側の通路側席だったが、見どころや野生動物はほとんど左側だったため、出来れば左窓側席の予約が良いだろう。車内にはストーブがあり、スルメなど、いろいろ焼くことが出来ることで有名だ。

ストーブ

湿原を横に抜ける列車からは、野生動物も見えた。エゾシカは北海道ではもう珍しくもなんともない存在だが、他にもオオワシ、タンチョウを見ることが出来た。

車窓より
オオワシ。遠かったので画質はご勘弁を
カヌーをする人々とオオワシ
タンチョウは茅沼駅でよく見られるそうだ。つがいと子供だろう

沿線には撮り鉄や地元住民、観光客の姿もかなり見られた。一応何モノにも飼育されていないことになっているので、これもまた野生動物の一種だろう。

野生のヒトと野生のタンチョウ

標茶駅に着くと、かわいらしい着ぐるみが出迎えてくれた。牛と牛肉という残酷な組み合わせをキュートな動きで隠している。

その先は予約していた貸切タクシーで観光をした。

行程は摩周湖、硫黄山、そして屈斜路湖。9月末に行った時と全く同じ道順である。

霧の摩周湖――前回は山全体が霧に覆われ、幻想的な姿を見ることができたが、今回は展望台に出た途端、広がる雪山と青い湖のパノラマに目が洗われるようであった。鮮やかに湖の全体が出現している。

摩周湖(9月末)
摩周湖(2月半ば)

9月に来たときは行き道も霧で視界が悪く、展望台自体がぼんやりとしていた。今回は湖の向こうにも、展望台の後ろにも山がきれいに見渡せたので、こんなにも山があったのかと驚いた。

1つ高いのはおそらく雄阿寒岳だろう

強い風に手を冷たくしながら、夏にはなんとなくスルーした摩周ブルーなソフトクリームを買い、頭痛を催した(味はとてもおいしかったです)。

その次は硫黄山へ

硫黄山(2月半ば)
硫黄山(9月末)

私が初めて禿山というものを見たのは、高校修学旅行で行った昭和新山である。その時は植生の遷移なるものを習ってまだ記憶が新しく、未来数100年後の昭和新山と目の前に広がる禿山とを見比べて、自然の雄大さに戦慄したものだ。

この硫黄山も――普段何気なく踏みつけている大地の底に眠る何者かに気づかされる。もっとも実際に行った時は充満する匂いとと、所々黄色く染まる土と吹き上げる煙とに驚き、地学に明るくないことを後悔するばかりである。

前回は上ってからもしばらくじっと眺めていたが、今回は頭も痛いので早々に下ってしまった。次は1番楽しみにしていた目的地――屈斜路湖だ。

(次に続く)

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