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合理と非合理

場所は都内の居酒屋
3Fに入るそのお店の
グリストラップが数日前につまり
業者が入ったが再発したとのことで
急遽呼ばれて現場を見に行ってきた。

慣れは正直ある
上空階だから油が凄くとも
大概は縦管までワイヤーを
通せば終わりだ。

この頃から機材も充実しており
解決速度は飛躍的に上がり始めた
そんな矢先

5mを過ぎたあたりでワイヤーが
物凄く暴れ出して10mも進んでくれない

「なんだろうこれ?」
手に伝わる感覚が油によるものかどうか
そういう皮膚感が解るようになるには
もっと何百と現場を経験した先のこと

だが、明らかに油な感じがしない
確証が持てないものは
当時は既にカメラももっていたので
高圧洗浄をしながら
行き場を失った水を吸い上げて
管内の状態を奇麗にすれば
ある程度わかるかもしれないと清掃した

詰まりが抜けたわけじゃない
やみくもにワイヤーを回せば解決する
そんなレベルは超えていたので
調査に入念にした。

颯爽と解決して時間に対して
割の良いお代を頂きたいけど
そういう現場だけならたいして
重宝されることもないだろう

カメラを入れるため
俺たちはワイヤーを抜いている
そこにワイヤーがある時何を意味するのか

ここに到達する前に1度排水管が
下に落ちていた

慌てて管理会社に電話する
数日前に対応した業者は
何かいっていなかったか?

大声は出せない
何が原因がお店のスタッフには
いきなり伝えられない

いわば重罪のようなものだろうか
つまりが抜けないから
ワイヤーを無理にかきまわしたりすると
連結式のワイヤーの場合
かみ合わせが少しでも悪ければ
直ぐに外れてしまう。

だから俺たちも少しでも
噛み合わせが悪くなればまだ使えても捨てる
抜けたからそのまま放置したのか
だが、目的を見誤ってはいけない

俺たちの仕事は
完全解決であって
犯人探しではない

管が一度落ちている以上
2Fの天井だろうな
幸い、2Fと3Fとお店は違うが
系列は同じお店だ
そんなビルは多い

図面をもらえばあてにならない
図面通りだとすると一度落ちているところは
3Fフロアの上だから床を開けたが
結局図面通りではなかったので戻す。

提案しては無駄な作業を繰り返す
逃げたいか逃げたくないかで言えば
もうこれは無理ですと逃げたい

そもそも図面通りではない
しかも一度落ちた先にワイヤー
3Fの床下ではなくて2Fの天井上

排水管とダクトとの間には隙間がない
しかも系列は同じとはいえ別店舗
汚すわけにもいかない。電気屋も必要に
なる場合もある

「明日は予約もあるから」
そんなお店の困った

出来る事出来ない事がある
排水管を切らないといけない
しかもそれも天井は高く排水管も高い位置

管内は満水状態
電気系統を傷つける可能性もある
図面では描かれていなくとも
どこかの階の排水が入っている
なんてことは平然とありうる現場

帰りたい
だけど、どうにかならないか?と
懇願されれば頭に試案は浮かんでいる

解決しないでもそれまでの
料金を平然と貰う現場もある
それは
緻密に調べ上げた結果だからじゃない

その先が出来るからだ
予算は必要だと案内して
ここまでで後は自社の技術スタッフが
やるときだけは
それまでの正当な料金を頂く

やる場合はアバウトではあるけど
おおよその概算を伝える

その料金を飲んだら稼げるからではない
足が出る場合だってある
依頼主がどれほど腹をくくれるかにある
最悪な場合の金額も伝える

「やって欲しい」

かかるものは仕方ない
そんな意思を感じた
そんなにするの?とか言われたら
後日別業者がやるように誘導する

ことここに及んで腹をくくれない人とは
仕事はできないが
たいしたもので、ビルオーナーとか
上役になる人は腹を括れる人は多い

ならば決戦じゃっ!!

ここからは演出のため音楽を
流しながらお読み頂ければ幸いです。

作戦を伝える

排水管に釣り船を釣るし
その上で排水管に一部穴をあけて
そこに水道ホースを刺す

そして、管内にたまった水を
受けに流し込み、さらに、その受けから
下の受けに流す

釣り船はかなり大きいものが倉庫に眠る
図面ではどこにもつながってない排水図
だけど、あてにならな以上何が
おきても不思議ではない

万が一にもこぼれない仕組みを
考えてもなお、養生は徹底させる
忙しい時ほど丁寧にやるべきだ

急いてはそこからほころびが生じる

案の定、水を流してないのに
後から後からお湯が流れてくる
ビルを見て回るとどうやら
7Fの漫画喫茶

そこで誰かがシャワーを浴びている真夜中
慌てる事はない
好きなだけシャワーを浴びればいい
想定外は想定済みだ

そうして排水管を切り

無事ワイヤーを引き抜く事に成功する

だが、本当の想定外が起こる
仮に排水管を閉じてもワイヤーを抜いても
まだ詰まっていたのだ

そうだよな。
グリストラップから入れたワイヤー
がねじ切れるほど
回してなんとか詰まりが抜けたと
誤魔化した業者だったことを忘れていた

目先の詰まりを抜いて少し流れただけで
本物の病魔がいた
ワイヤーは取れました!!だけでは
管理会社は立つ瀬はないだろう

「上げれそうか?」
それはワイヤーを回せる機材のことを言う
「なんとかやれそうだ」

足場が不安定ゆえに
大型のワイヤーは入れられない
だが、直に力が伝えられるなら
これで十分だ。

排水管の降下や曲がりを散々回避した
直線か、せいぜい1回くらいの曲がりだろう
そして力を込めて粉砕する

そして水は流れ出す

精神論は好きじゃない
解決するときその原因を知り
合理的に解決することを好む

だけど、精神論は嫌いじゃない

出来るか出来ないかじゃない
やるかやらないかだ

あれをしたら出来ていたかもしれない
あの時こうしていたらじゃない
今どうするかが問われている

合理的に突き詰めたのに
最後は精神論を要求される
そんな瞬間は結構ある

己の技量を超えた戦いはしたくない
信長は少数で奇襲したのはただの一度のみ
その勝利がいかに危ういか
信長自身が一番わかっていたのだろう
そんな話を読んで得心する

者ども、勝鬨じゃ!!

あとがき
この物語は高揚感のある読み物にするため
あえてきゃらををカッコよく描いています
つまり、話もだいぶ盛っています。
実際のきゃらをはこういう現場では
真っ先に帰りたがる人物で
話は全部フィクションです。

#勝鬨シリーズ


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