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中国 特許審査指南の改正(5)審判(復審及び無効)

国家知識産権局が改正し、2024年1月20日に施行した特許審査指南(ガイドライン)から実務に影響のある主な事項を紹介する。5回目は審判請求で、拒絶査定不服再審請求(復審という)と無効取消請求(無効宣言という)の改正で、総則、復審手続き、無効宣告手続き、口頭審理、証拠及び意匠特許無効宣言審査規定の最適化、整備を行い、審理の質と効果の向上を図っている。


(一)総則

①審判機構及び人員の名称表記の変更
「専利復審委員会」が「国家知識産権局専利局復審・無効審理部」と名称が変更、「主任委員」、「副主任委員」などを「部門責任者」などに適宜改正された。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.名称変更 第四部第各章

②忌避制度及び就業禁止規定の改正
 復審と無効審理部職員及びその近親者の就業禁止を明確にした。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.忌避などの禁止 第四部第1章第5節
 
③審決の記載形態の変更
 審決書の記載で、経緯や決定の理由の記載で、時系列の記載など一部を省略や要約をすることや、意匠など図面や写真を活用できることを明確にし、事件の争点や決定の説明を分かり易くし理解し易くする。却下の再審決定では関係者や当事者に有利不利が生じないように経緯の部分を簡潔に記載することができるとしている。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.審決の構成 第四部第1章第6.2節

(二)復審の審査

④前置審査手続きの改正
 特許法実施細則の改正で旧第62条の却下再審に係る規定が削除されたことを受けて、審査前置の開始時の手順を明確にした。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.審査前置 第四部第2章第3.1、3.2節

⑤合議審査での理由と証拠の規定の改正
 改正で導入された信義誠実の原則を入れたことを受けて、従来からある職権審査の手続きなどが改正された。「拒絶査定の根拠となった理由及び証拠以外に、合議体が以下に挙げる欠陥が出願に存在することを発見した場合、それに関係する理由及びその証拠に対して審査を行うことができる」と明確化し、合議体が職権審査できる状況として「(1)項:信義誠実の原則の規定(実施細則第 11 条)に合致しない」を追加、改正前の(2)項を「(3)項:拒絶査定で指摘されていない顕著な実質的欠陥」と「(4)項:拒絶査定で指摘された欠陥と性質が同じ欠陥」に分け、それぞれ代表的な例を追加した。また、拒絶査定で指摘された欠陥に関連する証拠について、合議体はその使用方式を適宜調整することができる。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.理由と証拠の審査 第四部第2章第4.1節

(三)無効宣告の審査

⑥当事者処置の原則の改正
 無効宣告手続において、特許権者が請求項或いは意匠の放棄を陳述した場合に当該請求項或いは意匠が最初から特許法などの関連規定に適合していなかったことを自認したと見做し、さらに、「特許権者が特許権を放棄することが他者の合法的権益と公共の利益を妨げない」を判断に加えて判断し、当該権利の処分行為を認めることを明確化するよう改正した。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.当事者措置の原則 第四部第3章第2.2節
 
⑦同一特許権に対する複数の無効宣告手続きの処理規則の改正
 今回の改正では、無効宣告請求の審決後に、同一特許権に後続する無効宣告請求の審理規則を明確化した。第 3.1 節2段を「特許権の全部或いは一部の無効を宣告する審決後、当該決定で無効とされた特許権に提出された無効宣告請求は受理しない。但し、当該審決が人民法院で発効した判決により取消された場合は除く」と改正。第3.7節を3.8節とし(4)項を「受理した無効宣告請求が先の無効宣告請求審査決定に関わるために一時的に審査できない場合、復審・無効審判部は通知書を発行して請求人及び特許権者に通知しなければならない。影響要素の消滅後、直ちに審査を再開しなければならない」と修正、改正前の第4.1節を削除した。
対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.第四部第3章第3.1、3.8、4.1節)
 
⑧委任範囲の細分化
 「特許代理管理弁法」の改正及び民事訴訟法の関連規定に基づき、公民も無効宣言手続きを代理できるところ、当事者の近親者及び従業員は当事者と特定の身分関係を有するため、身分の確認と、口頭審理における意見陳述及び法廷の書類の受領に限定する。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.委任手続き 第四部第三章第3.6節
 
⑨権利帰属紛争当事者の参加に関する規定
 特許出願権或いは特許権帰属の紛争処理に係る特許法実施細則第103条2項の改正を受けて、無効宣告手続を中止しなくともよい状況として、すでに行った審査業務に基づき審決ができる場合、当事者が根拠とする理由が紛争の存在を十分に証明する証拠でない場合、無効宣告手続きの中止が当事者の権益や公共の利益を損なう証拠がある場合、手続中止請求に信義誠実でなく正当でないことを示す証拠がある場合を追加し、証拠を提出した当事者の参加を可能とした。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.形式審査 第四部第3章第3.7、3.8
2.決定の送達 第四部第3章第6.1節
3.中止手続き 第五部第7章第7.3.1.2、7.5.1節
  
⑩無効宣告請求の審査範囲
 信義誠実の原則を導入したこともあり、職権審査の範囲をさらなる明確化及び規範化し、これまで実務上行われていない、必要であれば特許法及びその実施細則の関連規定に明らかに違反するその他の状況が存在する特許権に審査を行うことができると明確にした。しかし、信義誠実違反以外は、原則の当事者が請求した理由であることを超える対応を期待するのは難しいかもしれない。
対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.審査の範囲 第四部第3章第4.1節
  
⑪審査方法と指定期間の最適化
 当事者の利益の保証及び審査効率のために、「合議体は案件の具体的状況に応じ口頭、書面或いは口頭と書面の組合せた方式で審査できる」を新たに追加し、改正前の第4.4.4節審査方式の選択を削除した。合理的な応答期限とするため、「応答期限を一般的に1 か月」と柔軟な指定期限に改正した。
対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.審査方式 第四部第3章第4.4節
2.審査通知書 第4.4.3節(4)項
 
⑫請求項の補正
 無効宣言手続きでの公平と効率の観点から、特許権者による請求項の補正の対象を、請求人の提出した無効理由或いは合議体が指摘した欠陥とに対して修正を行わなければならないと追加された。登録後の自発補正ができない中国の特許制度で、ここを制限されるといろいろ厳しい方向になる。
対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.請求項補正の原則 第四部第3章第4.6.1
請求項を書き直すのではなく応答式の修正を行う。
 
⑬医薬品特許紛争の早期解決メカニズムに関する無効宣告請求事件の審査に関する規定を追加
 特許法第76条にパテントリンケージが新設され、「医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)」が運用されているが、特許審査指南では、無効宣言請求がされた特許に関する規定で、請求書及び証明書類、審査順序、審査の基礎、審査状態及び結審の通知の節を設けて手続きを定めている。
対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.特別規定 第4部第3章第9節 

(四)口頭審理、証拠認定

⑭合議審査の口頭審理方式の最適化
 口頭審理をオンラインでできることを明確にする規定を追加し、一方がオフラインである場合を調整した。また、口頭審理が不要と合議体が判断した場合、当事者の請求を認めなくともよいことを明確にした。また、口頭審理の進行を最適化するため、合議体の主審判官が代表して行うことができることを規定した。独任ではない。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.口頭審理の確定 第4部第4章第2節
2.通知 第3節
3.進行 第5節
 
 ⑮口頭審理の通知と記録方式の調整
 民事訴訟法第90条、第162条及び関連の司法解釈を参考にして、口頭審理の通知を電子システムで発行できること、録音や録画でも記録できるよう明確にした。通知は記録を残すとし、応答期限は7日以内である。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.口頭審理の通知 第四部第4章第3節
2.記録 第11節
 
 ⑯域外証拠の証明手続きの簡略化
 証明手続を簡略化し、当事者の負担を軽減するため、所在国の公証機関の証明を受ける、或いは条約の手続を履行するだけでよいと改正し、当該国の中国の領事認証は要求されなくなった。2023年3月8日、中国が「外国公文書の認証を不要とする条約」に締約し、11 月7日に発効している。日本の官庁が発行する法人登記証明の「現在事項証明書」などの公文書は直接アポスティーユを取得できるが、私文書については、公証役場(公証人)による公証を受けてからアポスティーユを取得する。通常の証拠は、公証付き証拠を中国語に翻訳し提出する。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.証拠の照明手続き 第4部第8章第2.2.2節

(五)意匠特許無効宣告の審査

⑰部分意匠に関する審査規則の追加
 部分意匠の同一の判断方法を明確化し、同一種類の製品とは製品の用途及び当該部分の用途がいずれも同一の製品をいう」とし、実質的同一での類似する種類の製品の判断も製品の用途及び当該部分の用途を総合的に考慮しなければならないと規定した。また、意匠設計の先行意匠との実質的同一の判断に製品全体における位置及び/又は比例関を追加した。また、係争意匠のかくていでは、「部分意匠については、保護を求める部分の形状、模様、色彩を基準とし、かつ表示される製品における当該部分の位置及び比率関係を考慮しなければならない」を追加した。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.意匠の同一 第四部第5章第5.1.1節
2.意匠の実質的同一 第5.1.2節
3.係争意匠の確定 第5.2.4.2節
4.新規性判断 第8節
 
⑱意匠の審査規則の整備
 意匠の類否判断を現在の実務上の方式を明確化し、一般消費者を判断主体とし、係争意匠と引用意匠の全体観察による共通点、相違点を確定し、視覚的効果に及ぼす影響を判断し、総合判断するプロセスを明確化した。特許法第23条第2項の明確な区別(創作性)の判断について、複数の先行意匠を組合せて比較することができることも明確化し、組合せに使用できる先行意匠の特徴は物理的或いは視覚的に自然に区別できる意匠設計でなければならず、相対的に独立した視覚効果があり、任意に切り取られた点、線、面は組合せに使用できる設計の特徴に属さない。但し、部分意匠の場合、先行意匠での対応する部分は組合せのための先行意匠の設計の特徴と見做すことができる。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.全体監察、総合判断 第四部第5章第5.2.4節
2.匠の実質的同一 第5.1.2節、
3.創作性 第6節
 
⑲国内優先権に関する規則の追加
 特許法第29条に意匠特許の国内優先権が追加規定されたことを受けて、外国以外に国内優先権主張が規定された。詳細は、意匠特許の国内優先権主張の説明を参照ください。
 対応する特許審査指南の規定は以下の通り。
1.優先権の確認 第四部第五章第9.1節
2.同一主題の認定 第9.2節
3.優先権を共有する条件 第9.3節 

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