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中国 特許審査指南の改正(1)出願手続きなど

国家知識産権局が改正し、2024年1月20日に施行した特許審査指南(ガイドライン)から実務に影響のある主な事項を紹介する。1回目は、特許出願手続きやその後の権利変更などの手続きでの注意点や緩和された内容です。出願手続きでは、従来、送達日に15日間の猶予期間が認められていたが、電子出願が一般的になったこともあり、その適用がなくなっていることから、OAの期限管理を短縮する見直しをされることをお勧めする。


(一)援用補充(援引加入)制度の新設

 援用補充は、特許法実施細則第45条に新設された制度であり、優先権主張した最初の発明特許と実用新案特許出願で出願書類の特許請求の範囲、明細書、或いはその内容の一部を欠落(実案は図面)或いは誤った記載で提出した出願人の救済を目的としており、出願日或いは専利局の通知受領日から2か月以内に先の出願書類を援用することで、正確な内容を出願書類に補充することを許可し、また、元の出願日も保留することができる。手続きとしては、自発補充と初級審査で特許法実施細則第44条1項(必要書類の欠落)による審査意見を受けた場合に、援用補充陳述書、原優先権主張、補充書、手数の納付など補完に必要な対応をすることができる。補充提出はそれぞれ受理条件に適合するか否か初級審査の対象となる。受理条件に適合した場合、専利局は受理通知書を発行し、出願日を確定する。不適合の場合、書類不受理通知書が発行される。なお、受理後の初級審査で不適合が発見された場合、未提出との見做しや出願日を補正提出日に繰下げの認定される場合がある。
 分割出願は最初の出願でないため適用を受けられない。また、重複救済になりうる特許法実施細則第6条2項(期限徒過)、第36条(優先権の回復)と第37条(優先権の追加訂正)の対象は適用外としている。

特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.欠落書類の受理手続き 第五部第3章第2.3.3節
2.発明特許の援用補充提出手続き 第一部第1章第4.7節
3.実用新案特許の援用補充提出手続き 第一部第2章第7.6節
4.実体審査での書類確認 第二部第8章第3.2.2節
5.実体審査での書類審査 第二部第8章第4.1節
6.国際段階での補充に関する規定 第三部第1章第5.3節、第5.2.2節(先願書類の写しの確認)
7.国内段階移行後の書類審査 第三部第2章第3節
8.実用新案特許で国内段階移行の書類審査 第一部第2章第15.1.2節(第三部第1章第5.3節の適用)

(二)優先権回復(优先权恢复)制度の新設

 優先権回復は、特許法実施細則第36条に新設された制度であり、発明と実用新案特許出願で期限徒過による優先権主張を救済する目的の規定で、優先日から14か月以内、つまり2か月の救済期間内に、出願人は優先権回復請求書及び関連書類、関連費用の支払うことにより、その回復を請求することができる。
 手続きを明確にするため、特許法実施細則第37条(追加訂正)と第6条第1項、第2項(不可抗力や正当な事由)の適用対象外である。

特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.優先権回復の手続き 第一部第1章第6.2.6.2節
  実用新案特許は第一部第2章第4.2節で上記適用
2.実体審査での適用除外 第二部第3章第4.1.1、4.2.1節
  12か月一般原則の適用の例外を明記 

(三)優先権追加・訂正制度の新設

 優先権追加・訂正は、特許法第30条1項の改正に伴い特許法実施細則第37条に新設された制度であり、発明と実用新案特許出願で記入漏れや誤記による優先権主張を救済する目的の規定で、優先日から16か月以内、或いは出願日から4か月以内の救済期間内に、出願人は優先権主張の追加、訂正の願書及び関連書類、関連費用の支払うことにより、その追加、訂正を請求することができる。
 手続きを明確にするため、特許法実施細則第36条(回復)と第6条第2項(正当な事由)の適用対象外である。

特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.優先権追加・訂正手続き 第一部第1章第6.2.3節

(四)新規性喪失の例外の改正

 新規性喪失の例外には、特許法第24条1項(1)号に追加された国家の緊急事態或いは非常事態が発生したときに公共の利益の目的で初めて公開された発明創造、及び特許法実施細則第33条2項の改正で追加された国務院の関係主管部門が承認した国際組織による学術会議或いは技術会議で出展発表された発明創造が新たに追加された。救済期間の発表から6か月に変更はない。
国家の緊急事態などの場合で出願人が出願日以降に当該情況を自ら知った場合、知り得た日から2か月以内に陳述書と省クラス以上の地方政府の関係部門作成した証明資料提出し手続きできる。国際組織による学術会議などの場合、国務院の承認した会議が不明確であるが、主催者団体の証明資料の受入れを追加された。
 なお、「他人が出願人の同意を得ずにその内容を漏洩した場合」の規定に、「出願人が専利局の通知書を受け取ってから状況を知った場合」が追加され、出願人の権益主張の機会を増やしている。

特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.国家の緊急事態などの場合 第一部第1章第6.3.1節
2.国際展覧会などの場合 第一部第1章第6.3.2節
3.国際会議などの場合 第一部第1章第6.3.3節
4.他人による漏洩などの場合 第一部第1章第6.3.4節
5.実用新案特許の場合 第一部第3章第4.3節
上記の第一部第1章第6.3節を適用

(五)秘密保持審査手続きの明確化

 特許法第19条の秘密保持審査の規定に関し、「国の安全或いは重大な利益」の解釈に国防上の利益に加え「国防上の利益以外の国家の安全又は重大な利益」を新設し、それぞれ秘密保持が必要とし、その提出書類、手続きを確定した。また、特許法実施細則第9条が規定する手続きで処理期限を審査通知2か月、判定4か月(それぞれ2か月の延長可)と明確化したことを受け、外国での直接特許出願のための秘密保持審査手続きを明確にした。

特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.秘密保持の確定 第五部第5章第3節
2.秘密保持審査 第五部第5章第6節

(六)審査延期規定の改正

 審査延期については、従来特許審査指南に関連規定があるだけであったが、特許法実施細則第56条第2項に審査延期請求ができると初めて明記された。新たに改正された内容は、実用新案特許出願に1年間を新たに認めたこと、意匠特許出願での審査延期請求が月単位と柔軟にしたこと、そして、実際のニーズに対応するように取下できることである。なお、発明特許出願では実体審査請求と同時、実用新案と意匠特許出願では出願時に審査延期請求を提出し、延期は請求が認可された発効日から起算し、1年、2年、3年の単位となる。実用新案特許出願は1年のみ、意匠特許出願は月数単位で36か月となる。中国では日本での秘密意匠や公告繰延の制度がないため、その代替として利用することができる。

特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.審査の延期 第五部第7章第8.2節

(七)国際出願の国内段階移行に関する改正

①費用
 専利局が受理し国際予備審査をした場合のみの実体審査費用の減免、ヌクレオチド/アミノ酸配列表の加算料金を明確した。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.専利局が受理した国際出願の国内移行時費用の減免第三部第1章第7.2.1、7.2.2節、
2.塩基配列表を明細書の一部とし400頁を超える場合400頁として計算 第三部分第1章第7.3節(3)
 
②書誌的事項の変更の改正
 特許法実施細則第121条1項第(6)号の「国際段階で出願人が変更した場合の証明資料の提供」の改正で追加された「必要に応じ」に対応した改正がされた。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.国内移行時の出願人証明資料の提出 第三部第1章第5.10.1.2節
2.異なる国で異なる名称・氏名を使用の場合を削除 第三部第1章第5.10.2節

③国際出願の仮保護の規定
 特許法第13条の仮保護(補償金請求権)の国際出願に対する適用が特許法実施細則第132条第2項に規定されているが、早期審査請求などの理由から国際公開よりも国内公開が早い場合があるなど起算日が不明確であることを受け、特許法実施細則と審査指南を改正し、中国語で先に公開された日を基準日とする。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.国内公開 第三部第1章第6節

(八)出願手続きの簡略化に関する改正

①発明の名称の文字数の制限
 新興技術など長い名称など実情から従来の40文字を60文字まで拡張した。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.発明の名称 第一部第1章第4.1.1節
 
②塩基配列表の提出要件
 塩基配列は明細書から独立した書類とし、コンピュータ可読の形式(WIPO ST.26基準)にすることを明確にし、紙出願の場合、書面に加えてコンピュータ可読形式の配列表を提出する。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.明細書の塩基配列提出要件 第一部第1章第4.2節
2.実体審査での書類確認 第二部第10章第9.2.3節
3.国際出願の国内移行時の要件 第三部第一章第3.2.1節
参考:ヌクレオチド或いはアミノ酸配列表の電子文書基準の調整に関する公示」(国家知的財産権局公告第485号)

③要約の図面
 特許法実施細則第26条第2項と第120条第1項第(5)号の改正を受け、提出から選択図に変更された。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.要約の図面 第一部第1章第4.5.2節
2.国際出願の国内移行時の要件 第三部分第一章第3.2.3節
上記以外にもあり。

④基礎出願書類のコピー提出
 新設された強制代理の例外となる特許法第18条第1項第(1)号の規定を受けて、代理人を経由した出願でも出願人が直接専利局にコピーを提出できる。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.先の出願のコピー提出 第一部第1章第6.2.1.3節 

(九)その他の出願手続きの整備

①紙出願書類の電子化保存の適正化
 特許法実施細則第2条に電子形式の文書を書面形式と追加規定されたことを受け、紙出願で受理した文書を専利局内でスキャンしデータベースに保存したものを書面形式と同等の効力があると規定した。業務効率の必要性からと理解するが、中国での特許電子出願率は99.7%を超えており、対象は少なくなっていると思われる。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.書面形式 第五部第1章第2.2節

②電子出願での代表者の規定を明確化
 出願人が2人以上で代理人に委託していない場合で、電子出願をする場合、代表者を提出義務者とした。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.特許事務処理システムの登録 第五部第1章第9節
2.代表者(筆頭出願人或いは指定代表者) 第一部分第一章第4.1.5節

③信義誠実に違反する出願の審査
 新設された特許法第20条第1項と対応する特許法実施細則第11条の規定に基づき、悪意などの非正常出願については、初級審査段階で審査を受ける。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.発明特許 第一部第1章第7.9節
2.実用新案特許 第一部第2章第5節、
3.意匠特許 第一部第3章第6.3節、

④特許出願手続に係る証明書類提出の簡素化
 特許出願での証明書類は、出願人資格証明や名称、住所変更などの証明書(現在事項証明書など)、優先権譲渡証明書、生物材料サンプル寄託証明書などの原本の提出が求められていたが、電子出願の利用により、実務上は、原本をスキャンした電子データの提出が認められており、専利局は必要に応じて、原本の提出を求める対応に変わっていることから実務に合わせて特許審査指南の記載も改正された。また、そうした証明書類を専利局の保存登録することが可能となり、登録番号を願書などに明記することで利用できるようになる。なお、特許法に新設された第20条で出願人は信義誠実の対応が求められることを明確にし、不正があった場合は関連手続きを認めないとしている。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.証明書類 第五部第1章第6節
2.信義誠実 第一部第1章第6.7.5節
参照:「特許電子出願に関する規定」(国家知的財産権局令、2010年第57号)

⑤特許代理事務所への委託義務の明確化
 特許法第18条の規定を厳格に適用するため、中国に常駐居所のない、或いは香港・マカオ・台湾の出願人が単独で或いは代表者として特許を出願やその他の特許事務を行う場合、特許代理人事務所に委託しなければならない。委託していない場合は、特許出願が受理されない場合に該当する。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.委任 第一部第1章第6.1.1節
2.不受理となる場合 第五部第3章第2.2節

⑥提出日と送達日、期限日に関する規定の改正
 電子出願の利用が拡大し、特許法実施細則第4条2項、6項に電子出願システムを利用した場合の提出日と送達日に関する規定が追加された。つまり、専利局の指定する特定電子システムに入った日を提出日とし、専利局が送達した各種文書が当事者の承認した電子システムに入った日を送達日とする。送達については、従来の15日の見做し推定受領日の規定はあるものの、期限の起算日から推定受取日の説明が削除されており、法定期限の起算日が15日早くなることに注意が必要である。なお、当事者が証拠を提供し実際の文書の受取日を証明できる場合は、実際の受取日となる。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.出願日の確定 第五部第3章第2.3.1(3)節
2.送達日 第五部第6章第2.3.1節
3.期限の起算日 第五部第7章第2.1節
参照:「特許電子出願に関する規定」(国家知的財産権局令、2010年第57号)

⑦特許公報と分冊の出版、公示内容の追加を明確化
 公報発行を週ごとから不定期発行ができるように改正し、特許法実施細則第107条の改正を受けて、「特許権期間の補償」、「特許実施開放許諾」の項目が追加された。特許権期間補償の項目は、主分類、特許番号、出願日、登録日、原特許権満了日、新特許権満了日である。医薬品特許権期間補償の項目は、特許権期間補償関連項目に「医薬品名及び承認適応症」が含まれる。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.特許公報の種類と内容 第五部第8章第1.1、1.2.1.4、1.2.2.3、1.2.3.2節
2.特許公報の編集 第五部第8章第1.3.2.6節

(十)一般手続き規定の最適化

①書誌事項一括変更手続き及び関連費用の改正
 複数の特許の同一の書誌事項を同一内容で一括変更する手続きを可能とした。一括の場合、現行200元/件が見直される可能性がある。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.書誌的事項変更申請 第一部第1章第6.7.1.1節
2.書誌的事項変更費用 第一部第1章第6.7.1.2節

②書誌的事項の連続変更不許可の明確化
 「連続変更」とは、当事者が同日に同一の特許出願権(或いは、特許権)に対する権利移転変更請求を連続して行うことをいう。特許法第10条は登録日(変更手続き合格通知書の発行日)に発効するとしており、発効前にこうした連続変更手続きを許可しないことを明確にした。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.書誌的事項変更申請 第一部第1章第6.7.1.1節

③発明者の変更規定の改正
 真の発明者の署名権、知る権利を効果的に保護するために、発明者の資格を持たない者を発明者に変更する行為や虚偽による変更手続きを防止することを目的とし、発明者の追加や誤記については、出願受理通知の受領日から1か月以内、発明者全員の陳述書への署名が必要であることを明確にした。なお、発明者の表記の誤記の場合は、本人の署名した陳述書と身分証明書の提出と簡素化した。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.発明者の変更 第一部第1章第6.7.2.3節

④書誌的事項変更の処理期限の明確化
 特許出願権(或いは、特許権)の移転に関する書誌的事項の変更手続きの処理期限を通常は1か月を超えないことを明らかにした。
特許審査指南での関連規定は以下の通り:
1.効力の発生 第一部第1章第6.7.4節第(1)項)

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