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中国 商標法改正草案(意見募集稿)の公示(1月13日)

国家知識産権局(CNIPA)は、1月13日付、かねてより改正予定としていた第5回目の商標法改正のための草案を意見募集稿として公示し、一般から意見を募集している。意見提出の期限は2月27日である。

今回の改正の基本方針は、民法典施行以降に残る一般法との不整合の調整、国家組織の変更に伴う名称変更、また過去の改正での条文配置の乱れの調整もあると思われるが、大きな題目としては、中国の商標ブランドの建設、問題となっている販売目的の「先取り登録」や実際に使用されていない「遊休商標」の調整、電子商取引時代に必要な条項の整備、行政主導での違法行為や侵害行為に対応のための追加や改正である。

本意見募集稿は、10章101条からなり、新たに23条が追加され、現行45条が修正されている。修正案のないのは27条のみである。一方、章立てが以下のように変更し、全体的に現行の各条項が再編成再配置されている。
第一章 総則
第二章 商標登録条件(新設)
第三章(現二章) 商標登録出願
第四章(現三章) 商標登録の審査及び認可
第五章 登録商標の無効宣告と取消
第六章(現四章) 登録商標の更新、変更、譲渡と使用許諾
第七章(現六章) 商標の使用と管理
第八章(現七章) 登録商標専用権の保護
第九章 商標の使用、役務と商標ブランド構築の促進(新設)
第十章 付則

改正案の説明による改正の主なポイントは以下の通り:
1.時代の発展に応じた経済社会の質の高い発展対応
 上記の第2章と第9章の追加
2.社会の公平と正義を守り、公平な市場競争秩序の構築
 悪意、欺瞞や不正手段による商標出願の規制、権利行使や商標代理業の規範化
3.権利確定手続の改善
 異議申立公告期間を3か月から2か月に短縮、被異議申立の再審制度廃止、重複登録の禁止、重複・再出願の対象と制限期間の明確化、出願、取下と抹消の規定追加
4.商標使用義務の強化
 5年ごとの使用状況報告義務の新設、団体と証明商標規定の改善
5.商標専用権の保護強化
 電子商取引での保護強化、刑事罰の活用強化、懲罰的賠償の対象を悪意から故意に調整、馳名商標の保護レベル拡大
6.商標の監督管理の強化
 違法行為に対する処罰強化、地理的標識の保護強化、商標標識記載義務、ライセンス管理義務の強化、団体と証明商標の管理義務の強化
7.その他
 権利主体の表現を「自然人、法人或いは非法人組織」に統一、政府機関の公式エンブレムの届出

個人的に考える本改正案で注意するべき商標業務への影響や効果は以下の通り、少し雑ですがご了承ください:
①中国の商標ブランドの構築と管理 1条、2条(新設)、3条、91~97条 
 国の商標ブランド戦略の実施により、中国当事者と地域ブランドの構築に関する施策のための立法である。
② 商標の定義 4条
新しいタイプの商標保護対象は現在のところ音声のみであるが、「或いはその他の要素」を追加しており、単一色、位置、においなどにまで保護対象を拡大することが予想される。
③ 権利濫用の禁止 9条
 現7条の信義誠実に第2項を追加し、権利行使に信義誠実と権利濫用禁止を求めた。
④ 馳名商標 10条、18、79条
 現13条1項、14条1項をまとめ、馳名商標の認定に方法と保護レベルを顕著性と知名度に合ったものとし、検討資料に国内に加え、外国での出願と登録状況や評価のも入れ、総合的に判断するとしている。より高い知名度が要求される可能性が高くなるといえよう。未登録の馳名商標保護については、非類似の商品を書き分け、商標の希釈化対策が高くなる一方、18条2項で第三者の使用禁止と登録不可が明記された。中国は包括的・先進的TPP協定(CPTP、TPP11)に加盟を申請しており、こうした対策も含まれているように思われる。
⑤ 登録条件 第14(新設)、21(新設)、58条
 新設14条は現9条に「同一出願人は同じ商品或いはサービスに同じ商標を1件のみ登録しなければならない。」と追加し、新設21条に、「登録出願する商標は、出願人が同一の商品に先に出願し既に登録された、或いは出願日の 1 年前までに 抹消 、取消、無効宣告された先の商標と同じであってはならない。」と重複登録を禁じる規定を追加した。これは、悪意出願が異議や無効で取り消された場合や不使用取消を受けた場合に再出願する行為や本来の権利者そうした手続きで防衛的出願をすることから同一や類似商標が多数重複して存在し続けているために、こうした行為を排除するために導入することを考えているように思うが、本来の権利者が悪意出願で防衛的にする場合や新製品や分類変更などの理由で再出願するような場合に対する救済を明確にする必要があろう。改正案では6つの例外規定があるが、出願時に陳述書を出す不便さや難しさもあろう。
新設58条は自発的抹消規定で特定な権利自体或いはその指定商品の一部を抹消する申請ができる規定である。ある意味では便利な規定であるが、以下の61条の問題もあり、1商標1登録の原則で自発的に使いづらい規定であり、コンセントなどの対応で相手先に抹消をするような使い方があるかもしれない。
⑥ 絶対的拒絶理由 第15条
 現10条2項を「国内外の地名を商標としてはならない」と明記したことで、異議申立理由に使えるだろう。なお審査審理指南では一定の知名度が要求されてはいる。
⑦ 悪意出願 第22(新設)、67、83(新設)条
 現4条の使用を目的としない悪意出願を削除し、22条に初めて悪意出願の対象を5項目列挙した、67条(現68条4項)に行政処罰で5万から25万元を初めて罰金と違法所得の没収を規定した。新設された83条に民事賠償、刑事訴追が新設され、権利者には新兵器が渡され、悪意出願人には一定の抑制効果が期待できるだろうが、権利者が無効化にかかる出費のどこまでを賠償対象とするのか、合理的支出では主に代理人費用で比較的高額であるので割引かれる不満が残る。一方、悪意出願者の賠償金支払い能力に疑問もある。さらに訴訟で救済というよりは行政で早期に却下や行政救済ができるような規定も欲しいものだ。
⑧ 先行権利 第23条
 「権益」と「企業名称(屋号やグループ名を含む)」も先行権利に含むとの規定が追加されることにより、実体的な権利でない商品化権や現地法人名に含まれる名称を異議理由に使うことができるようになろう。
⑨ 審査意見書、出願拒絶、公告取消、第27、34、35、37条
 新設された27条3項(出願費用未納付は未出願見做し),5項(悪影響のある出願の非受理絶)、35条(出願要件不適法は拒絶),37(公告決定後に不適法発見で公告取消)条は、悪意や不正出願に対処するために新設されたと思われるが、現状では指定商品が積極的表現などの場合、不適合として、出願番号通知すら出されないため、27条5項の受理通知と34条の意見書をあるべき姿で運用するよう改めてほしいところ。
⑩ 提出資料の要件 第32条
 現27条に1項追加し、商標局に提出した書類で重要な事実を捏造、隠蔽、或いは故意に虚偽がある医場合、10万元以下の罰金、当事者への損害賠償の規定が初めて導入された。不使用取消では虚偽の証拠資料が提出される事案が減らないので、こうした規定が追加されることは好ましいが、現在は司法でないと虚偽の認定ができないため、商標局での認定ができる規定が必要である。
⑪ 異議申立 第36、39、40条
 異議申立期間(公告期間)が3か月2か月に短く規定された。ウォッチングと日頃からの異議申立理由と証拠の整備活動が重要になる。また、異議申立が成立し拒絶査定が出された場合に再審申立(復審)ができないように原35条が改正され、従来の出願人優位の制度が異議申立人と同じになり、全体的に登録までの期間を短くしようとしている。不服の場合は行政訴訟となる。
⑫ 出願の取下 第41条
 現37条を一部改正し、出願と事務処理の申請を取下げる明確な規定が新設された。
⑬ 手続き中止 第42条
 現35条3項の後に1項追加し、訴訟での行政訴訟負不服審理時の対象は、決定や裁定時の状況を前提とし、その後に状況が変化した場合は公平の原則に反しない限り、それを含めないと明確にした。
⑭ 悪意先取り登録商標の無効と移転 第45、46(新設)、47条
 悪意先取り登録商標に対して、新制度として移転登記申立てを導入し、本来の権利者に直接移転認めるとの規定である。不要であれば無効宣告手続きを取ることになるが、悪意先取りを立証できるのであれば新たな手段が増えて、指定商品が満足できるのであれば先願日が確保できる、或いは重複する再出願をしないで済むメリットがある。同一商標でなく類似商標の場合、その他に指定商品、登録件数、移転に係る契約や費用などいろいろ条件を考えないとならないであろう。
⑮ 商標の使用 侵害行為 第59、72条
 インターネットなどの情報ネットワークなどでの使用も使用行為、電子商取引での誤認混同も侵害行為と追加した。
⑯ ライセンス管理 第60条
 昨年位からライセンシーに対する監督責任が強化されており、親会社や商標権者は、現地法人や代理店が登録商標を使用する商品にライセンシーの名称と商品の産地を明記しない場合や製品品質法の規定に違反する場合、是正命令や罰金1万元以上事業額20%以下の支払いを科せられる。
⑰ 商標使用の説明義務 第61(新設)条
 5年ごとに指定商品とサービスごとに使用状況を報告する義務の新設は、悪意登録や不正登録をさせないための措置と思いますが、商標権者には業務管理が大変になるし、防衛的に取得している商標権を放棄することに繋がるので頭の痛い制度設計になる。報告書はランダムで真実性チェックをするとの規定となっており、期限を6か月過ぎても報告がなければ放棄と見做し抹消される。
⑱ 商標の改変の法律責任 第64条
 自らの登録商標の改変、登録事項の改変に10万元以下の罰金の新設
⑲ 登録商標詐称、禁止行為違反 第65条
 便宜を供与したものも処罰対象に追加規定した。
⑳ 商標標識の表示 第71条
 (注)や(R)を表示に追加規定した。
㉑ 紛争処理 第74、75条
 当事者主導による紛争の仲裁の明記と行政機関による仲裁の明記、侵害の行政裁決を追加記載、行政機関による侵害調査権の具体的記載を追加した。
㉒ 公益訴訟制度 第78(新設)条
 国益や社会公共の利益を損なう場合に、行政や検察が処理処分を進めることができることを新設した。
㉓ 団体、証明商標関係 第6、49条、57(新設)、63(新設)条
 57条に譲渡の制限、63条に義務が新設された。
㉔ 商標代理 第12、19、2,68(新設)、69、70、86条
 代理人管理、不正出願の禁止などが比較的多く追加規定された。
㉕ 公式標識の届出 第99(新設)条
 中国政府やその関連団体の公式標識の届出、審査、保護について新設された。

いずれにしても、今後の改正の推移を見守ることにしよう。

改正案の改正履歴付き仮訳は以下の通り履歴付きですが、費用負担をお願いします。

現条項を示し、赤字は追加、青字は修正を意味します。

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