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花屋日記 そして回帰する僕ら

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ファッション女豹から、地元の花屋のお姉さんへ。その転職体験記を公開しています。
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2019年1月の記事一覧

「いいことも大変なことも、すべてに感動する」 フローリスト・高本恵子インタビュー

芦屋colléにて開催された「アヴィニョンのりゅう」の作品展およびフラワーデモンストレーションを拝見してきました。主宰の高本恵子(Keiko Komoto)さんはパリ・ホテル・リッツにて花装飾のスタージュ後、パリで活躍するトップフローリストに師事された方。現在は、芦屋・神戸を中心にフレッシュフラワー、プリザーブドフラワー、アーティフィシャルフラワーのレッスンを展開されています。 実は『花屋日記』に登場する「先生」は、この方がモデルになっています。今回は『花屋日記』の番外編と

「花屋日記」44. 閉店後に現れる、古新聞のモデルたち。

 閉店の21時をまわると私は音楽を止め、レジを締め、あらゆるデータ入力を済ます。そして水汲みをし、掃除し、花たちを新聞紙でまく。そのときに使う新聞紙は商業施設の事務所から譲り受けている古新聞で、一般紙から経済紙までいくつかの新聞がマーケティングリサーチのために読まれていることがそのバリエーションから見てとれた。私はその中から適当な一枚を引き抜いては花の長さに合わせて包み、セロハンテープで留める。  何十回とそれを繰り返す中で、私は自分がドキッとする瞬間があるのを知っていた。そ

「花屋日記」43. 当たり前でない美しさを、嘘でない花を。

  店で花を組むときは「マスフラワーは3本まで」「同系色か反対色のものしか合わせない」といった、いくつものルールを厳守しなければならなかった。当然だが、店のカラーを統一させるため、スタッフの誰が作っても大差ないようにしなくてはならない。だから、いつまでたっても新たな色合わせは試作できなかったし、他店が仕入れているような花材や資材も、うちでは扱えなかった。何か新しいものを提案しても、店長に却下されてしまい、私はどこか「諦め気味」に仕事をするようになってしまった。  お客様のニ

「花屋日記」42. 世界にまだ絶望しなくていい。

 七夕の時期になると、私たちは笹のラッピング作業に明け暮れる。すぐに乾燥してしまうので、セロファンで1本ずつ包装する必要があるのだ。そして大きな笹のディスプレイに短冊を書いてもらうのも、大切な仕事の一つ。店の前を通りかかる子どもたちに 「願い事を書いていきませんか?」 と声をかけると、「ほいくえんのせんせい」や「けーきやさん」や「ちありーだー」への夢が次から次へと語られ、それはとても微笑ましい光景だった。 「来月の福山雅治のライブを晴れにしてください」なんていう親御さんの願い