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気がついたときには、もう痛い。

私の母の話。

10年ほど前、血圧が高いと指摘されて通院していた時期がある。
そのときに「ウォーキングがよい」と言われたそうで、
以来、毎日1時間ほど歩いているとのことだった。

言われたことや決められたことは従順に守るので、
雨の日も風の日も毎日続けていた。
そのおかげで、血圧も安定してきた。

もともとインドア派で、運動らしいことをほとんどしたことがない母。
そんな母が午前の家事を終えてから、帽子をかぶり、ニューバランスのスポーツシューズを履いて出かける。血圧のことは私も心配だったし、いい習慣ができてよかったと思っていた。

だから、膝の外反が進んでいたことに気づいたとき、私はショックを受けた。頭を何かで殴られた感じってこれなんだと思った。同じような症状を持った患者さんを何人も見てきた。自分の親もそうなのか。

母は痛いとかしんどいとか、全く言わない人だ。
そして最近は、いつもゆったりしたパンツを履いていたので、脚のラインもわかりにくかった。(敢えてわかりにくいものを選んでいたのかもしれない)。

実は、以前に階段を降りる姿を見て、母は膝が痛いんじゃないか?と聞いたことがあった。膝に荷重がかかったときのわずかな違和感が気になったからだ。母はびっくりしたような顔をして、何事もなかったように視線をそらした。

まだ関節症の初期の段階だった頃。母自身はちょっと痛みがあったくらいにしか考えていなくて、大したことじゃないと思っていたのかもしれない。もし気になっていたのなら、誰にも気づかれないと思っていたことを指摘されたのが嫌だったのかもしれない。


膝のことに限らず、何を聞いても「大丈夫。」としか言わない母は、
自分のことをあまり言わない、我慢することに慣れてしまっている
典型的な昭和の女性だ。そして、自分の体調のこともよっぽどのことがなければ自分から言わない。70歳を過ぎた親に聞きたいことはいろいろある。でも、娘には言わない。心配かけたくないのか、女同士の微妙な空気感からなのか。ほどよい距離感で話すのが難しい。

はっきり言わなかったが、ウォーキングもいつのまにかやめてしまったようだった。ニューバランスの靴は2足あった。


こうなるとわかっていたら。


血圧には効果的だったが、膝を痛める原因になってしまったウォーキング。

誰だって膝を痛めることになるとわかっていて、ウォーキングに励む人はいない。母は医師のアドバイス通りに実行したまでだ。

こんなとき、私にはなんとなく後味の悪い思いが残る。

こうなるとわかっていたなら、もう少し加減したのに。
別の方法を考えたかもしれないのに。
こんなに頑張らなかったのに。

人工関節の手術を行った患者さんから聞いたことばを思い出す。



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