甲子園ネタから考える演劇のアマプロ②~「最弱代表校はどこだ??」から

 前回「甲子園ネタから考える演劇のアマプロ①~芸能とスポーツの共通項」を書いた後、<芸能とスポーツの相違点><アマとプロの違い>の順に、淡々と考えようと思っていた。
 ところが、更にその後に言及しようとしていた、ネット掲示板の高校野球有名スレ「最弱代表校はどこだ?」の“賞味期限”は、全代表校の初戦が終わるまで。今回、コロナに集団感染した高校の初戦を遅らせた変則対応で、本日8月13日(土)(大会第8日)までだ。従って、こちらを書く。
 芝居の話のはずが高校野球に寄ったら申し訳ない。どっちも素人だが。
 なお、先に、芸能とスポーツの差異点として「勝敗が明確」「男女別の戦い」を挙げておく。

別格扱いの甲子園高校野球、解説はアマ扱い、ネットは……

 高校野球はアマチュアスポーツ。野球は、近年、サッカーなどに比べ人気が落ちているが、それでも、プロアマとも他のスポーツと別格扱い。高校野球の先に、プロ野球、社会人野球、大学野球がある。
 甲子園は一回戦から決勝まで、全試合がNHKと民放(朝日放送系)でテレビ・ラジオ放送される(春、夏)。さらに、朝日放送系ネットの「バーチャル高校野球」で、地方大会も全部見られるようになった(夏の大会のみか?)。夏の大会は、47都道府県の地方大会優勝者が出場し、ちょうどお盆休みの前後にテレビで放映されるため、おらが田舎の応援、ふるさと大会として誰でも、簡単にわーわー楽しめる。

 そして、放送には全て解説がつく。解説者は甲子園経験者で強豪校の元監督や元選手(その後、プロや社会人などを経験)なことがほとんどで、後輩である高校球児たちに温かな視線と言葉を送る。「高校生ですからね」「まだ先があります」「よくやりました」「ファインプレー!」。失策も責めはしない。「惜しい」と言う。あるいは、言葉を濁す。圧倒的な上位者の立場からの専門家の解説、10代半ばの若者相手に、まっとうな対応と言えそう。

 さて、一方、ネット上の声は容赦ない。相手がアマだろうがちくちく来る。ただ、こちらは圧倒的な上位者の解説ではなく、たまに高校野球経験者が紛れていたとしてもおそらく甲子園に出場経験はなく、残りは見るだけ専門。つまりアマチュアの観客たちだ。そして、高校野球スレの中で、「芸術点」「美しい負け方」などの言葉が躍る「最弱代表校はどこだ?」スレは、「観る力」を養った“住民”たちが最も集うスレではないかと思う。

「最弱代表校はどこだ?」スレ

 「最弱代表校はどこだ?」スレは、春の選抜、夏の選手権で、それぞれ登場する全代表校の中から「最弱」はどの高校か、をあれこれ議論し、勝手に決めるスレだ。現在「5ちゃんねる」の、「高校野球板」の中にある。

 優勝校は唯一だ。トーナメントを勝ち上がり、決勝で相手校を倒す一校で間違いなく決定し、誰も異論を挟めない。高野連が正式に認定するし、観ている人間の方も、試合中の個々の審判の判断に疑問を感じることはあっても、決まった結果は結果として受け入れる。

夏は全49校中、初戦負けした24校又は25校が候補

 優勝校が山の天辺なら、「最弱」は山のすそ野で本来正式に決定はしない(リーグ戦ならビリはあるが、トーナメントにはない)が、初戦に負けた高校の中から、最弱スレの書き込みメンバーがあーだこーだ言い合い、「だいたいこの辺」で決まる、ことになっている(ようだ)。

 夏の甲子園の出場校は全49校(47都道府県、東京と北海道のみ各2校)。決勝までで48校が敗退する。このうち、一回戦又は二回戦の初戦で負けるチームは24校又は25校(1組のみ、一回戦勝ち上がり組と、初戦で二回戦を行う高校あり。後者が勝つと初戦負けは24校、負けると初戦負けは25校)。
 つまり、候補は出場校のほぼ半分だ。

「大敗」以外の基準が見事にバラバラ

 選出基準は、「大敗、大差で負けたこと」。一点差の好ゲームの真逆。
 と、そこまではみんなの考えが一致しているが、後はそれぞれに「自分の基準が正しい」と主張し、意見が割れることもある。いや、ほぼ割れる。
 その「基準」は、自分で適当にこんなものかな、と抜粋(無責任)。スレ関係者の方、間違っていたらすみません。。

<点差>勿論、点差は開く方がいい。さらに「高評価」は
・「10桁」とられる(10点以上とられる)
・「10桁」以上の点差(点差が10点以上)
・完封される
<試合運び>
・エラー(失策)多発(簡単なフライの捕球ミス、暴投等は「高評価」で「芸術点が高い」などと言われる)
早めに勝敗が決する⇔じわじわと大敗する(矛盾するが双方「高評価」?)
・安打数が少ない(打てない)、被安打数が多い(打たれる)
・残塁が多い、走塁ミス
・プロ注目の好投手が打たれる
・監督の采配(投手交代が遅れた等)
<その他>
・負けた相手が弱く、次戦で大敗。負けた相手に勝った相手が次戦でどんどん負けていく「逆トーナメント」達成は高ポイント
・マナーがイマイチ
・ユニフォームがイマイチ
・校歌がイマイチ
・チア、ブラバンがイマイチ
前評判で「弱い」高校の想像通りの大敗(「地方大会レベル、これが見たかった」の声)⇔強豪校のまさかの大敗(これも矛盾するが、双方「高評価」?)

主観的要素を盛り込み、喧々囂々を楽しむ人たち

 点差、完封の有無、(被)安打・失策数、相手校の次戦勝敗結果、くらいは一応客観的な基準に見える。
 しかし、それ以外に、主観的要素が多い。凡フライをぽろっと落とすと「芸術点が高い」とされたり。 
 特に「早めに勝敗が決する⇔じわじわと大敗する」「前評判で「弱い」高校の想像通りの大敗⇔強豪校のまさかの大敗」などは、完全に好みの世界だろう。

 例えば、恐縮だが、今大会では現時点で、星稜(石川)と日本文理大(新潟)の名前が出ている。
 星稜2-14愛工大名電(愛知)
  =1回5失点、2回5失点。4回まで0-13、早めに勝敗決する。12点差
 日本文理0ー11海星(長崎)
  =完封負け、じわじわ負けた、11点差
 (被)安打数、失策数なども含めて、主にこの両校のどちらが最弱か、「喧々囂々の議論」が行われてきた(そろそろ終わるが)。これが、面白い。
 「決まらない」と困った風にして、楽しんでいる。

 これは、別に高校生選手らを馬鹿にしているわけではない。もとい、甲子園に出場するだけで、全国の中では「最強」の部類、その時点でリスペクトされている。その上で……である。

 もともと、早々と勝敗が決した大差のゲームは申し訳ないが、見てもつまらない、特に地方の弱小校などは可哀そうになる。その大差ゲームを明るく楽しむための、新しいゲームとしての、データやウンチクのぶつかり合い。

 各校の初戦終了までが「議論」「決定」の期限のため、大会最終日決勝での優勝校を当てるより、相当早く分析し、意見をすり合わせていく必要がある。このため、このスレの「住民」は、地方大会も含めて各チームの試合をかなり詳細に読み込み、分析を行っている、とも言われる。

 また、近江(滋賀)や聖光学院(福島)のように、以前の「最弱」がその後一転強豪校となると、みんな喜んでいるようで、ほのぼの。強豪校とまで行かずともその後連勝したことのある能代松陽(旧能代商業)も人気。

勝敗の決しない芸能、「最弱スレ」のような議論が似合う

 で、ものすごく長い前置きだった。何を演劇と比較したいか。
 ……(単に、最弱スレの話を書きたかっただけで、こじつけのような気がしてきたが)

 芸能は勝敗が決しない(高校演劇大会や各演劇賞はあるが、ほんの一部)。「最弱」スレも、一応「この辺かな」と最弱校を決めているが、勿論公式決定はないし、見解が何年たっても一致しないことも多い。
 最弱という勝敗が決しない中で、いろんなデータ(客観)や見た目の印象(主観)で、あーだこーだ言い合う、その過程を楽しんでいる。馬鹿にしたような書き込みにも見えるが、その実、その高校や選手を冷静に分析し、相手を知る。つまり、親しみを持って議論している。
 そこに「最弱を決める」という緩やかな共通目標があることで、みんな生き生きしている。

 これが、勝敗の決しない(とされる)演劇に、向いた議論ではないか、ということを言いたいのだ(多分)。

 もちろん、無料で観られる高校野球と、観劇人口も目減りしていく有料(しかも高め)の演劇では、容易に比較できないが。
 何か、そこにヒントはないか。

アマチュアがあーだこーだ議論できる土壌

 アマチュアがあーだこーだ議論できる土壌。それがあることで世界が広がる。
 
前に、『フェイクスピア』で、白石加代子が開幕数日後の舞台で台詞を忘れ棒立ちになったというまた聞きの話を聞いた。ちょっと間違ったレベルではなく、芝居が止まったレベルだったらしい。
祝読売大賞・評⑯NODA・MAP『フェイクスピア』芸劇プレイS席12000円(2022年2月9日)
 その際、その話を演劇仲間にしたら、ある舞台関係者から「そんなこと、舞台ではよくあるし、それ自体を『珍しいことにあった』と楽しむものだ(だから、素人は……)」的な言われ方(自分の主観もあろうが)をして、それはちと違うのではないか、そこで「あはは」と笑うことも含めて、議論を深めることが必要ではないか、と思った。そして、白石のことはほとんど話題になっていない。それ自体、演劇が関心を持たれていない証拠ではないか。
 白石はプロとして失敗した。それを事実として、演劇がさらに盛り上がる議論は広がらなかった。と感じた。
 勝敗をかけるスポーツに比べて、やはり、甘いのではないか。アマ向けの甘い解説を受けるだけの立場でいいのか。
 失敗は失敗、あるいは下手は下手として、受け止め、その上での議論がない、のなら、スポーツには勝てない。ぐだぐだだ。

 この先の議論はまたにして、一応、ヒントまで、と書いておくまでにする。

 なお、私自身は野球経験者ではなく、ピッチャーの球筋以外、ルールは理解している程度だが、このスレに出会って楽しんでいる。
 
 さあ、最弱スレの夏が今年も終わる。寂しいな。また、次の春まで楽しみに待ろう。


 
 


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