見出し画像

大いちょう

我が家の庭には、大銀杏があった。
曾祖父が植えたという銀杏は、大きく成長し家の屋根の遥か上にまでそそり立っていた。
銀杏は大きくても、日頃は目に馴染んだ景色の中にいたが、十一月の下旬ともなると目の覚めるような黄に染まり、光の中では浮き立つように輝いた。
ほどなく銀杏は、葉を散らす。
黄葉は庭一面を覆いつくし、塀沿いに吹き溜まりをつくり、隣家の庭にも飛散した。
「こんな街中に、銀杏なんか植えるもんじゃないよ」
隣近所では、銀杏の評判は甚だ芳しくなかったが、父の工場がいけなくなるまでは、銀杏は、いつでも庭の片隅に黙って立っていた。

今年も、銀杏が色づき始めた。
街で黄に染まった銀杏を見るにつけ、私は、あの住宅街ではいささか大きすぎた我が家の銀杏のことを懐かしく思い出す。

この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?