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解説!日本維新代表選#2 「候補者は政策通とナンバーツーと1期生」

7月の参院選で躍進やくしんし、衆議院と合わせて62人の国会議員を抱えることになった日本維新の会。過去に代表を務めた橋下徹はしもととおる氏と松井一郎まついいちろう氏は、ともに大阪府知事や大阪市長を経験した「地方自治体のトップ」でした。

8月に行われた代表選に立候補した3人は、いずれも橋下氏や松井氏とは立場が違う「国会議員」たち。代表選の解説2回目となる今回のnoteでは、候補者3人の横顔と主な主張、そして有権者ゆうけんしゃである党員の人たちが候補者に何を求めたのかをまとめます。(政治部/元大阪社会部・広山哲男)

「解説!日本維新代表選」前回の記事はコチラ↓

■ 候補者3人の経歴

まずは届け出た順番に3人の経歴を見てみます。

①問題発言目立つ「政策通」

足立康史衆院議員

1人目は、足立康史あだちやすし衆院議員(57)=大阪府出身=です。国会議員になる前は経済産業省の官僚をしていただけあって、党内でも「政策通せいさくつう」と言われています。7月の参院選でも党の公約づくりで中心的な役割を担いました。SNSを使った発信にも積極的で、YouTubeでは頻繁ひんぱんに動画をアップして自らの考えを訴えています。

足立氏といえば演説。聞く人をきつけるざっくばらんなトークが持ち味です。本人も「ディベートでの“闘論とうろん”力には自信がある」と語っていますが、国会の場で他党のことを「あほ」と言ったり、他党の議員を「犯罪者」と呼んだりすることも。こうした問題発言で国会の秩序ちつじょを乱したとして、他党から過去に6回、懲罰動議ちょうばつどうぎ(罰を与えるべきだという議案)を出されています。

②調理師出身の「ナンバー2」

馬場伸幸衆院議員

2人目は、党の共同代表(当時)を務めていた馬場伸幸ばばのぶゆき衆院議員(57)=大阪府出身=。大阪府堺市の市議会議員を約20年務めてから国会議員に転身した、いわゆる「たたき上げ」の政治家です。2010年に自民党を離党し、維新に加わりました。

2015年に橋下氏の後を継ぐ形で松井氏が代表になってからは、党の実務を取り仕切る幹事長かんじちょうという役職を約6年にわたって務め、松井氏を支えてきました。昨年11月に党のナンバー2である共同代表に就任しています。政治家を志すまでは大手飲食チェーンで勤務し、調理師免許も取得していたという、ちょっと変わった経歴の持ち主でもあります。

代表選では、松井氏や知名度と人気のある吉村洋文よしむらひろふみ大阪府知事(当時副代表)が馬場氏の支持に回ったため、早い段階から最有力候補となりました。

③庶民感覚訴える「1期生」

梅村みずほ参院議員

3人目は、梅村うめむらみずほ参院議員(44)=愛知県出身=です。2019年に初当選した「1期生」で、3人の候補者の中で最も早く代表選出馬を表明しました。

参院議員になる前はフリーアナウンサーや「話し方教室」の運営をしていた梅村氏。街頭演説でマイクを握るとスイッチが入るようで、太く大きい声を張り上げ、とにかく「庶民しょみん感覚」を訴えます。

政治家になって約3年。党の中ではまだまだ若手ですが、松井氏が「代表選は政策をきそい合うものではない。党の政策は既に参院選の公約で示している」と述べた際は、ツイッターで「政策論議も必要だ」と公然と異論を唱えたこともありました。

■ 盛り上がりに欠けた選挙戦

個性派ぞろいの3人ですが、代表選で訴えた内容には似た部分も多くありました。維新のウェブサイトに掲げられた、それぞれの主張を見てみましょう。

「党員民主主義」と「地方重視」を制度化するガバナンス改革(足立氏)

次の10年をつらぬく経営ビジョン(馬場氏)

よりクリーン・オープン・フェアな維新に改革(梅村氏)

といった言葉が目を引きます。1つ1つの表現は異なれど、いずれも党の運営に関する内容です。さらに細かく読み進めると「身を切る改革」の徹底など共通点も見られます。違いをあげるとすれば、馬場氏がこれまでのやり方を引き継ぐ「継承けいしょう」路線をにじませたのに対し、足立氏や梅村氏は「改革」を前面に押し出したところでしょうか。具体的な政策に関する記述はあまり見当たりません。

これは前述した通り、松井氏が代表選について「政策を競い合うものではない」と明言し、党を引っ張るリーダーは政策よりも組織をまとめる統率とうそつ力で選ぶべきだと主張したことに一因があります。

政策ではなく、リーダーシップの優劣ゆうれつで選ばれるということになれば、演説や討論で伝えられることには限りがあります。結果的に、候補者同士が議論を交わす場面は少なく、盛り上がりに欠けた面は否めません。

■ 党員の声は…

前回の解説でご紹介したように、今回の代表選のカギを握ったのは、有権者ゆうけんしゃの9割を占める一般党員の人たちでした。彼らは候補者3人の主張をどう受けとめたのでしょうか。代表選の終了後に配信した記事から党員の声を拾ってみます。

一般党員の会社経営の男性(29)=大阪市=は取材に「都構想とこうそうを進めていた時のような面白さを今は感じない。代表選で『看板』を打ち出すことは最低限必要だったはずだ」と指摘し「もっと政策論争してもらってから投票先を判断したかった」と悔やんだ。

愛知県に住む一般党員の50代主婦は、(中略)政党支持率では自民党に大差をつけられているとして「党の知名度をどう上げていくかのビジョンが見えない」と懸念も示した。

維新の一般党員は全国に1万9000 人以上います。取材でお話を伺ったのはそのごく一部ですが、複数の方が「具体的な政策を聞きたかった」と語り、特に「大阪都構想おおさかとこうそうのような看板が必要だ」という意見は何度も耳にしました。

■ 「都構想」と全国化のジレンマ

大阪都構想。

大阪市を解体して、その巨大な権限や財源を大阪府に集めるという大改革は、大阪では長らく「維新といえば都構想」というくらい看板政策として定着していました。

しかし、都構想は2015年と2020年の2度にわたって、大阪市民対象の住民投票で否決されています。2回ともわずかな差でしたが、負けは負け。都構想に政治生命をかけていた橋下氏と松井氏は、いずれも否決が決まった直後に「政界引退」を明言しました(橋下氏は2015年、松井氏は2020年の住民投票当日に表明しています)。

2015年の住民投票当日に開かれた記者会見で、政界引退を表明する橋下徹氏
2020年の住民投票否決を受けて、政界引退を表明する松井一郎氏

維新のメンバーにとって、都構想は2人のリーダーを失った苦い記憶と切っても切り離せない関係にあります。また、都構想はあくまで大阪市と大阪府に関する地域限定の政策でしたが、「全国政党」を目指す現在の維新に求められるのは、地域を問わず、どこでも受け入れられるような政策のはず。党内には「3度目の挑戦を目指すべきだ」という声もありますが、今のところは少数派の意見にとどまっています。

発祥の地・大阪で都構想を追い求める旅に区切りをつけ、全国で支持を得られる政党を目指したい。かといって、新たな旗印はたじるしを打ち出せぬまま、国会議員主導で組織の拡大だけを訴えても、大阪では求心力を失いかねない。

3人の候補者や党員への取材を通して、維新が抱えるそんなジレンマも感じました。

候補者3人の主張や、党員の声をまとめた記事はコチラ↓

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広山 哲男(ひろやま・てつお) 1990年生まれ、千葉県出身。2015年に入社し、福島支局、松山支局を経て大阪社会部で検察庁、大阪市役所担当。22年9月から政治部。結果にコミットするジム通いで25キロの減量に成功も、リバウンド気味なのが悩みの種です。

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