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An act of giving

2020年8月26日

7月に新宿駅西口で出会ったホームレスのKさん達に会いに行こうと思いながら、再び訪れたのは1ヶ月すぎた後になった。その間、私は大学院の課題を提出し、まとまった時間ができた。彼らに会いに行くことを忘れていたわけではなく、連日の暑さで行くのを躊躇していたから。

西口を出るとすぐ、Sさんの詩が路上に並べてあった。大きなテディベアが置いてあるけれどSさんの姿はなかった。もう少し歩き、前回Kさんとあったところとちょうど同じところにKさんは座っていた。私をみて笑顔になってくれてホッとして折りたたみ椅子を出してもらいお互いの近況報告をした。

「どうしているかなって心配してたんだよ。大丈夫かなって思ってたんだよ。」とSさんは私を見ながら言った。私はかなり暗く不安そうに見えたらしい。実際のところ私は、不安で心元なかった。

私は、大学院の課題がようやく終わったことやこれからどうしたいかなどを話した。Kさんは私が迷っている状態から少し前向きになったことをよかったじゃないと笑顔を向けてくれた。私は嬉しくて、会うのが2度目のこの女性に友情に似たような思いが芽生えているのを感じた。話している中でKさんはとてもデリケートな経験や思いを話してくれた。本当にプライベートなことなのでここには書けないけれど、おそらく女性相手でないと話しにくいような思いも口にしていた。

Aさん

もう一人、ホームレスのAさんがやってきて少し話をしたけれど、私は彼の言葉の半分くらいしか理解することができなかった。歯の問題なのか、年齢の違いによるものなのか、それとも、少し地方のアクセントもあるような気もしたし、間の取り方も少し独特に思えた。日本にいれば日本人同士なら言語上のコミュニケーションは楽だろうと当たり前のように思っていたけれど、Aさんと私の間ではそういうわけでなかった。

Aさんは、何度も団扇で私に一生懸命な様子であおいでくれた。もてなしの振る舞いではあるけれど、そこには女性である私に対する何らかの期待が透けて見えた。彼の態度はホームレスの男性に関わっている中で必ず遭遇するのだろう。時々、彼は子供のようにうちわで私のサンダルをつついてきた。不快とまではいかないけれど、困ったな、というのが正直なところだった。

通り過ぎる人たちと視線 (見ること・見られること)

Kさんと私はひとしきりお互いの近況を話した後、ぼーっと座って通行人を見ていた。

通行人を見て気づいたこと。何人かは目線をこちらにやるけれど目をそらす。一人も足を止めなかった。体感で10人に一人位の人はちらりと見せ金をいれたお茶碗に目をやりまた目をそらす。何人かの若い男性は無遠慮な視線を私に向けていた。彼らの目には好奇心が見えた。彼らはもしかしたら、路上で『女』を見ることに慣れているから、ホームレスと座っている比較的若い女(私は30代半ばだけれどAさんとKさんと比べるとかなり若いだろう)に視線を躊躇なく送ることもできるのかもしれない。私も男性の「そういう」目線には慣れているから特に取り立ててそこで感情が波立つこともなかった。

日常の多くの振る舞いはもしかしたら、「慣れ」から出来上がっている。だとしたら、この社会にもっと素敵な、人間らしい優しさのある、あるいは楽しい「慣れ」がもっともっと増えればいいな、と思った。

最近は小銭をくれる人はほとんどいないらしい。特に今は観光客も通らなくなり、日に二人くらいだと聞いた。

帰り際のこと

帰るときに、Kさんは改札まで見送ってくれた。彼女と一緒に立ち上がると、Kさんはかなり歩くのが難しい状態になっていることをようやく理解した。「体がもう無理って言ってる。もうこんなとこいたくない。」、彼女が言っていた言葉の意味がようやくストンと理解できて、切なくなった。私は、以前自分が持っていたアウトドア用の寝袋の下に敷くシートを思い出し、使っていないマットレスがあるから持ってきましょうか。と言ったらKさんは本当に欲しそうにしていた。小銭を渡すときも、飲み物を渡すときもかなり遠慮がちなKさんがすぐに欲しいと強く言っていたのを聞いて、路上に毎日寝ることの意味を改めて考えさせられた。

家に帰り、以前持っていたマットレスを探したが結局見つからず、ドンキホーテで見つけた一番厚い10mmのヨガマットを買った。もっと安いマットレスやヨガマットもあったが、彼女の送ってくれたときの様子を思い出すと一番厚いやつにした。2500円位。それがたまたま出会った人に渡すプレゼントとして高いか安いか、わからない。でも、今まで私はたまたま出会った人に奢ったり、プレゼントする額としては恥ずかしながら一番高いものだった。なぜ恥ずかしいと思ったかというと、私は初めてあった人にもっとたくさんご馳走されたことがあるから。(ただ、おそらく大抵の場合、彼らは私を性的な対象として見ていたんだろうと思う。)

2020年8月29日

Kさんにヨガマットを渡しに行った。少しでも楽になるといいんだけど。





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