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自分似の人へのアドバイス

カフェでお茶をしていたら女の子二人が入ってきた。ちゃんと見たわけではないけれど20代で個性的なファッションをしていた。私の斜め後ろに座った二人はどうやら先輩・後輩みたいで二人はかしこまった話し方で会話をしていた。個性的なファッションなのに礼儀正しいな、とひどい偏見で思う。


後輩は悩み相談があって先輩を呼び出したらしい。お茶が届いてから後輩が悩みを話し出す。「今仕事を辞めようかと思っているんです。」小さなソフトウェア会社で、メルマガを書いたり、セミナーをする時の受付をしたり広報のような仕事をしているんです。上長は社長です。でも仕事が毎日1時間くらいで終わってしまってとても暇なんです。頼んでも社長は簡単な仕事しか振ってくれないんです。自分で仕事を作ろうにも社会人3年めで作ることもできません。この間職場で泣けてきて、これはまずいと思いました。ここには人の紹介で入社したんですが、先日その人から「この間わかったんだけど、あの社長はマネジメント能力がないね。紹介した後でそれがわかってしまって○○さんのことを心配してたんだ」と言われました。人によっては仕事が楽なんていいじゃん、っていうかもしれません。でも私は激務の方がまだましなんです。仕事がないのが辛いんです。このまま自分がダメになってそうですし、と彼女は言った。


「私かよ」と思った。私は仕事が暇になって辛すぎて転職したことがある。別の職場でも暇すぎて、手が震えだし、メンタルクリニックで「抑うつです」と言われたことがある。その時私は健康オタクで薬なんていう体を冷やす悪いものは絶対飲むまい、と思っていたので飲まなかった。その時全くの異業種だったこともあり自分で仕事を作れなかったので、上司に「仕事を作ってください」と頼んだ。そうしたら「この業界は自分で仕事を作れないとやっていけないのよ」と言われた。結局その時は繁忙期になるまで週4で働くということにして、1年の契約社員期間をなんとか満了し、その後バランスを取るためか、インドへヨガ修行に行った。


彼女は続ける。私は前職、ロリータファッションで外国人観光客を案内する仕事をしていました。会社都合でその仕事を辞めることになってしまったんですけれど。自分が好きなことをしていましたし、楽しかったです。今は、好きではないことをしていて、さらに暇なのが何重にも辛いです。幸いなことに社長も私の仕事を評価してくれていますし、広報も嫌いじゃないです。職場に長時間居るのが辛いだけなので、バイトになって勤務時間を減らしてもらおうかとも思います。それか今実家暮らしということもあってこうなったらニートになって好きなことをやりまくろうかとも思っています。それで、100個やりたいことを書き出してみたんです。リスト、見ていただけますか?


うわー私っぽい。徹底的に分析して選択肢を出して対策まで考えるんだよね。「それなり」に頭が回って状況分析と対策ができるから、仕事場では「それなり」に評価されるんだよね。わかるわぁ。ちなみに私は、年を重ねて図太くなってきたから暇はわりに大丈夫になったんだよね。でも今うち、半年で3人が退職してて、一人ゴールデンウィーク明けに来なくなっちゃったから4人目が出ちゃうかもっていう難易度がちょっと高い状態なんだよね。ねぇ先輩、私もあなたのアドバイスが聞きたい!


先輩は言う。「私にも正解はわからないけれど。○○ちゃんて真面目だよね。それで?」私はしばらく本を読むふりをしながら話を聞いていたが、先輩からアドバイスが出ないので店を出た。歩きながら、私は彼女になんて言うだろう、なんて言ってほしかったんだろう、と考えた。


駅についてホームのベンチで電車を3本見送って思ったのは「焦らなくていい」だった。彼女も私もどっしり構えていられないタイプだ。MTGとかで沈黙に耐えられずに何か発言してしまったり、イベントスタッフとしてちょっと気を利かせてしまう人。でも後で一人だけ動いてしまった、私ばっかり、と疲れて嫌になる人。なまじ役に立って喜ばれたりするから、役立つことが自分の価値だと認識してしまう。だからぼんやりしている自分には価値がないと思ってしまう。うん、わかるわあ。(多分)


もし私が先輩に「焦るな」と言われたらどう感じるだろう。「そんなこと言われても焦りますよ。どうしたらいいんですか」と思う。「落ち着け」と言われてもそんな言葉だけで落ち着ける人は、そもそも「落ち着く」ができる人だ。できないから困っているのだ。そう言う時は「鼻から3カウントで息を吸って、口から6カウントで息を吐くんだよ」ぐらい具体的に言われないと、できない。私は彼女になんて言うだろう。電車の中で考えた。「あがけ」・・・全然速効性がない。しんどいじゃないか。私の場合、それしかなかった。自分であらゆる手段を考え、手を尽くしたあと、人のアドバイスに頼り、挙げ句の果てに「そんな可能性や選択肢、とっくに考えたし、行動も起こしたわ、でもダメだったっつうの!わかってないくせに!」と表面には出さないがブチギレ、わかってもらえない悲しみに浸った。たちが悪い。それを繰り返して、じぶんで可能性と選択肢を出し切る前、超初期でもとりあえず人に話す、そして色々な人に相談するという、「初動早め・多方面分散」スタイルを編み出した。


地元駅について家まで歩く。そして思う。「あなたは、その仕事に向いてない」・・・会社で生きていくには才能が必要だと思う。ExcelやWord、ロジカルシンキングとかそういうスキルとは別に特殊才能がいるのだ。人によって疑問をもつ分野が違うように、先天的・後天的に形成される適性があって、その一つに「会社で生きる」適性があると思う。多分、彼女と私にはそれがない。かつて、知人と話していてびっくりしたことがある。「なんで12時に決まって昼ごはんを食べるのかわからない」と話したら「えっ?」と驚かれた。彼女は12時にお昼ご飯を食べることに疑問がないのだ。そんな人に勝てるわけがない。ネイティブには敵わない。努力をする時点で、その分野に才能はない。息を吸うように自然にできることを才能と呼ぶ。あまりに自然すぎて自分では自覚できないことが才能なのだ。


ああああ、私だって何十社の面接に行って「あなたの居場所はここじゃありません」と断られて、転職たくさんなんかしたくなかったよ。「みんな我慢してるんだよ、我慢が足りない」という人もいるだろう。でも忍耐なら人一倍している。人並みに職場に馴染むため、取り繕うことにまでエネルギーを使っているんだから。


途中から自分を救うために必死でアドバイスを考えた。会社構成員の才能がないなんて、何度も出てきた結論だけど、またここでも出てきたか。いやだ、認めたくない。こんなに頑張ってきたのに。そして私は会社員以外にご飯を食べていく方法もわからない。私は両親が公務員で「何かできる才能なんてあると思うな、我慢すればお金がもらえる、だから耐えろ」って言われて育ってきちゃったし。結局あの二人は落とし所を見つけられたのだろうか。超他人事として言えば、私はその後輩ちゃんがロリータファッションに身を包み、個性全開で、その知力と行動力を持って好きなように生きていってほしい。素敵なご縁に恵まれながら。

#日記 #エッセイ #随筆

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