見出し画像

『あの人に会いに』 穂村弘

本や音楽、写真や絵画など、誰かが作ったもの、表現したもの、そして生き様に、心を救われることがある。その人にこの気持ちを伝えたいけれど、物理的に会えないし、うまく表現できなかったりする。私が書いているこの本や映画の感想は、書評ではなく「あなたの作品に出会えてこんなに私は嬉しいんです。こんな気持ちになった人がこの世界にいるんです」というラブレターだ。SNSにアップしたら、もしかしたら本人に届くかもしれない。私の感想が役にたつかわからないけど、少しでも力になったらこんなに嬉しいことはない。

「この世にこんな傑作があることが信じられなかった。世界のどこかにこれを作った人がいるのだ。それだけを心の支えにして、私は長く続いた青春の暗黒時代をなんとか乗り切った」という穂村弘さんが大人になり、そんな人たちと創作について対談した本。お相手は本の帯を見てほしい。豪華。

繊細で研ぎ澄まされた穂村さんの感性と言葉、経験によるインタビューは、平易な言葉だが深い。そして優れた問いかけが神々の思想を引き出す。谷川俊太郎さんと佐野洋子さんの関係。横尾忠則さんの宗教者のような創作。

私は初めて高野文子さんを見た。こんな人があの漫画たちを描いているのか、穂村さんはそんなにも作品を読み取っているのかと驚いた。高野さんも穂村さんに質問をしながら二人で対話を深めていた。佐藤雅彦さんは日経新聞の穂村さんの短歌コーナーを毎週手書きで写しているらしい。そんなことするんだ!

甲本ヒロトのインタビューも素敵。「人生に『もったいない』という価値はいらないんです。それは人生をクソにする」ですって。わーーかっこいいーー!そして肩を寄せ合って体育座りする二人のかわいさよ。

文章を読んでいると、目をキラキラさせた若い穂村さんが見えてくるようだった。インタビューされる方もたまんないだろうな。「賜物」とか「玉」なんて言葉が思い浮かぶほど、貴重で光に満ちた一冊。

88 あの人に会いに 穂村弘対談集

画像1


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?