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『ピエタ』大島真寿美

ふと、今とは違う人生を思うことがある。私はこれで良かったのかな。結婚していたら、していなかったら、仕事を、子供を、あのとき。誰でもそう考えることがあるだろう。この本もしみじみと実に良くて、これから読む人の邪魔をしたくないから私はここで抽象的なことしか書かない。ある程度時間を重ねてきた女性なら、心に残るだろう一冊。小泉今日子さんが舞台化するそうで彼女のインタビューで知った小説。

ヴェネツィアのピエタ慈善院に訃報が届く。司祭であり、作曲家のヴィヴァルディが亡くなったという。知らせを受け取ったのは、同じ時期に捨てられて共に成長し、慈善院で働くエミーリアと、アンナ・マリーナ。彼女たちは幼き頃からヴィヴァルディ先生に音楽の手ほどきを受け、彼の音楽に囲まれて生きてきた。ひょんなことから、エミーリアは先生はあるコルティジャーナ(高級娼婦)と関わっていたことを耳にする。司祭と高級娼婦にどのような繋がりが。ある楽譜を探すために、エミーリアは慈善院から抜け出し仮面を付けてカーニバルの街へ紛れ込んでゆく。

慈善院と共に生きる女、高級娼婦、金持ちの娘。境遇の異なる女たちが、人生のある時期を共に過ごす。

この女たちは、ヴィヴァルディのように後世に残るような偉業を成し遂げたわけではない。でも、私がこの小説を読んで残ったものは、彼女たちの人生の豊かさや偉大さ。自分の思いに沿ってその場その場を生きていく女たち。そして時にその人生が重なる、その尊さよ。


別の人生を思ったあと、こう思う。でも、やっぱりこの道を選ぶんじゃないかな。ほら、私ってこういう性格だし、あの時も一生懸命生きて選んだことだし。よくがんばってきたなぁ。あんな経験もできたし、あの人と会えたし、あんな時間を過ごせたし。実は私もエミーリアたちのように、豊かな人生を送っているのかもしれない、あの人も、彼女も。

『ピエタ』大島真寿美

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