戸田京子

公認心理師・臨床心理士です。スピリチュアルアビューズ、カルト、マインドコントロールとい…

戸田京子

公認心理師・臨床心理士です。スピリチュアルアビューズ、カルト、マインドコントロールといった、精神を束縛する現象に関わっています。 臨床心理学修士・社会学(社会心理学)修士 https://stopspritualabuse.wixsite.com/website/blank-3

マガジン

  • 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援

    いわゆる”宗教二世”等をどう理解し、支援するかに関する、専門家向けの記事です。

  • 公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード

    公認心理師は新しい心理支援の国家資格である 日本の心理職資格は、民間資格でありながらも歴史を経て養成課程を作り上げてきた。その先に公認心理師制度が出来た しかし、経験者の受験資格が曖昧なため、訓練を受けていない人々が資格を得てしまった。その事実は一般社会には見えず、社会の側が不利を被ることになる

最近の記事

回復の時差・個人差が生む衝突

トラウマが生む不都合な現実~トラウマ・インフォームド・ケアの視点で記したように、トラウマの観点は加害者に対しても適用されるという意味において、被害者だけを庇うものではありません。むしろ、トラウマと向き合うことは被害・加害の連鎖を止めるのに寄与すると見做すのが現実的です。 宗教二世問題についても同様のことが言えます。「宗教二世」で括られる対象が非常に多岐に渡ることは専門家向けの親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援で言及していますが、親世代が属した組織のカルト性が

    • (専門家向け)裸の王様~透明性と権威性 カルト問題と心理専門職

      「高名とされる臨床家が裸の王様でない保証はあるか」ー心理専門職に関心をもって以来、私の問題意識にあることです。それは、私がカルト問題をきっかけにヒューマンエラーの学びを経験したからでもあります。 カルトは登場人物を素晴らしく、能力をもつ人間であるかのように見せるのが大変得意です。特にカルトメンバーで構成された集団の雰囲気の中でそれを上手くやり遂げます。「この先生は大変お忙しいのに、あなたのためにわざわざ時間を割いて来てくださった」「成功するために自分がお世話になっている師匠

      • 当事者による搾取~二世問題、自称専門家問題、自助活動の有効性と限界

        「(宗教)二世が二世を利用しようとしている」 そんな懸念がささやかれるようになっています。2022年7月の首相襲撃事件以降、巷では「宗教二世」の存在が認識されるようになりました。そして、当事者が声を挙げ、報道や出版物が増え、当事者による支援の動きが活発化するようになりました。 カルト問題に関わって来た私は、こういった一時的な盛り上がりは過去に何度も経験しており、どこかで潮を引くように静まっていくものだと知っています。関心がもたれなくなることは避けたいですが、一時的な加熱に

        • 専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(8)子世代が物心ついてからの親世代の入信

          ここまでは子世代が物心つく前に親世代がカルト性の高い教えに染まっているモデルを示しました。 しかし、2022年7月に起きた元首相襲撃事件の犯人は、中学生のとき、母親が統一教会に入信したと言われています。二世と呼ばれる人々の中には、子世代がある程度成長してから親世代が入信する例もあります。発達理論を踏まえた専門家の皆さんは容易に想像がつくと思いますが、物心つく前から教えの下で育てられる子世代と、そうではない子世代とで影響に差が出ることのは当然のことです。 カルトの花嫁の著者

        回復の時差・個人差が生む衝突

        • (専門家向け)裸の王様~透明性と権威性 カルト問題と心理専門職

        • 当事者による搾取~二世問題、自称専門家問題、自助活動の有効性と限界

        • 専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(8)子世代が物心ついてからの親世代の入信

        マガジン

        • 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援
          8本
        • 公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード
          5本

        記事

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(7)親世代の健康度と「次世代はこう育てるべき」の教え

          さて、(6)にてカルト的信念特性をもつ親世代が子世代の養育にどのように影響するか、初期段階の話をしました。先のモデルは子供が物心つく前に親世代がコミットした場合のものです。 このモデルの場合、多くの子供は一定の年齢になるまで親の信念に違和感を抱きません。子供の世界観の多くは家庭のなかで築かれ、小学校中学年ぐらいになってようやく周囲の児童と比べることに目が向くようです。また、その頃になると子供自身の好み、志向性が出て来ます。高学年になるとさらにそれが明確になっていきますし、自

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(7)親世代の健康度と「次世代はこう育てるべき」の教え

          トラウマが生む不都合な現実~トラウマ・インフォームド・ケアの視点

          「トラウマ・インフォームド・ケア」が広まりつつあります。リンク先に記されているように「トラウマインフォームドケア(TIC)とは、支援する多くの人たちがトラウマに関する知識や対応を身につけ、普段支援している人たちに「トラウマがあるかもしれない」という観点をもって対応する支援の枠組み」です。 この言葉が業界内外で共有されるようになって時間が経ちますが、この概念を日本に紹介した方々の下で臨床を学んだ私にとって、これは臨床の前提であり、あえて強調されることに違和感がないわけではあり

          トラウマが生む不都合な現実~トラウマ・インフォームド・ケアの視点

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(6)組織のダイナミズムと親世代のコミットメントの影響

          これまで宗教二世(等)は親世代を通して組織の影響を受けていると説明してきました。今回は、組織の特異的な集団ダイナミズムに親世代がどうコミットメントするかが子世代に影響するというお話です。 第一世代、親世代から始まる人権侵害 ドグマ(教義・教え)を中心に据える組織では参加者に強い規範を求めることがあります。長く続く組織はその歴史のなかで安定・穏健化するのですが、歴史が短い新宗教や自己啓発セミナー、マルチ商法、スピリチュアル商法、反医療運動などでは急進的で先鋭化することがしば

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(6)組織のダイナミズムと親世代のコミットメントの影響

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(5)親世代の信仰・信心はどう築かれたか

          さて、ここまで述べてきたように“宗教二世”(等)といってもかなりの多様性があるのですが、具体的にアセスメントする際に見逃せないポイントがあります。それは親世代の信仰・信心はどう築かれたかという点です。 かつて日本の新宗教の入信理由は「貧・病・争」にあると言われていました。土着信仰や先祖代々の宗教がありながら新宗教に鞍替えするには理由があり、貧しさや病、争いといった苦労があるからこそ、新しい教えに救いを求めたと説明したわけです。この考え方を採用すると、先に苦難があるので場合に

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(5)親世代の信仰・信心はどう築かれたか

          二世問題臨床研究会へのお誘い

          上記の二世問題とは、いわゆる”宗教二世”をはじめとして親世代の信仰、信心、特定思想の影響を背景とした問題を指します。本会では心理継続面接ほかスクールカウンセリング、学生相談など所属機関の相談業務にて当該事例に関わる方々で知見を共有し、心理専門職としてこれら二世問題への対応力の発展につなげることを目的とします。場合により、いわゆるカルト現象を経験した第一世代のサバイバー事例も扱います。参加資格は質と倫理の担保のため、修士課程/博士前期課程で構造化面接の訓練を受けた公認心理師(区

          二世問題臨床研究会へのお誘い

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(4) 育った集団の影響とラポール形成

          (3)において具体的な二世(等)の多様性を説明しました。二世問題に関わるのは想像以上に難しいと感じた方もいるかもしれません。 新たな捉え方をキャッチアップする ところで専門家の皆さんは経験を重ねるなかで新たなイシュー、支援対象が出現することもご存じかと思います。例えば、かつて発達障害などという考え方は人口に膾炙していませんでした。しかし、それが専門的知見として業界内で共有されるようになり、専門的知識をバージョンアップしていったのではないかと思います。昨今では性的マイノリテ

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(4) 育った集団の影響とラポール形成

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(3) 時間軸と信念の状態から見た“宗教二世”等

          “宗教二世”等の広がり、多様性を定義したところで、今度は今日“宗教二世”等と呼ばれるような立場の方々がどのように存在してきたか概観しましょう。というのも既に述べたように、この呼称が注目を浴びるようになったのは2020年の全国ネットでのメディア発信にさかのぼりますが、この呼称以前にも同一対象は存在していたからです。 強制捜査による児童保護 代表的なのは1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件後、彼らが集住していたサティアンに強制捜査が入り、児童相談所が子供らを保護した

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(3) 時間軸と信念の状態から見た“宗教二世”等

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(2)“宗教二世”と“カルト二世”

          当事者における“宗教二世”と“カルト二世”(1)において、当事者は“カルト二世”よりも“宗教二世”の呼称を好む傾向があると記しました。自分が関わった組織をカルト視するのは忍びないと考えたり、カルトだけではなく宗教全般が二世を苦しめるとの考えによったりするようです。 客観的にはカルト性の高い組織は存在しますし、二世当事者がそれを自覚していないわけでもありません。しかし、仮に彼らがどんなに自分を苦しめた組織を憎もうが、第三者からカルト視されるのには抵抗があったり、カルトを自認す

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(2)“宗教二世”と“カルト二世”

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(1)

          本論では親の思想信条に悩む子世代、いわゆる“宗教二世”などへの支援について、専門家が理解するのに役立つ情報を提供します。 ”宗教二世”という呼称彼らはよく“宗教二世”などと呼ばれますが、これは当事者が好む表現です。2020年頃から全国ネットの番組でも細々と取り上げられるようになりましたが、その名が一気に広まったのは2022年7月に起こった元首相殺害事件からでした。当初はこの犯人の背景にあった旧統一教会に注目が集まりましたが、以後、エホバの証人など他の団体の当事者も声を挙げる

          専門家向け 親の思想信条に悩む子世代(“宗教二世”等)への支援(1)

          公認心理師制度におけるモラルハザード(5)なぜ、モラルなのか?ーカルト化現象とカウンセラーに通じるもの

          これまで、公認心理師制度が様々なモラルハザードを起こしている現実を述べて来ました。これらの現象は、原則、制度不備によって引き起こされています。(1)(2)で述べた有資格者も法律違反をしているわけではありません。公認心理師制度が規定するのは、試験に合格、登録していない者が公認心理師を名乗ってはいけない、ただそれだけです。 それでも、心理職、カウンセラーなどが性的搾取をしたことが発覚すれば、流石に世間から批判されますし、場合によっては刑法に問われます。しかし、逆に言えば、そこま

          公認心理師制度におけるモラルハザード(5)なぜ、モラルなのか?ーカルト化現象とカウンセラーに通じるもの

          公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード(4)カウンセラーになりたい欲の怪しさと副業ブーム

          人を癒したい、救いたいという気持ちは怪しい、と言ったら、あなたはどう思いますか?そんなの酷いじゃないか、優しい人しか、そんなことは思わないはずだ、と思うかもしれませんね。第三者の立場として、そう思うのは自由ですし、一理はあると思います。ただ、それは自分が癒す側、救う側になりたいと望むときには、きちんと向き合わなければならないものです。 (3)でも触れましたが、人を救いたいというメシア願望をどうコントロールするかは、支援者が訓練を受けるなかで適切に身につけなければならないもの

          公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード(4)カウンセラーになりたい欲の怪しさと副業ブーム

          公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード(3)モラルやコモンセンスを共有し、適性を培う機会の欠落

          (1)(2)において、不適切な資格取得について指摘しました。今回は、これらの背景や根底にあるものを探ります。 私たち心理職の使う方法や手法には、一定レベルの訓練を経て初めて目にしたり、使うことを許されるものがあります。また、適正に用いる必要があるからこそ、一般に公開してはならないものもあります。ところが、ネットではしばしば、それらが公に晒されるなど不適切な行為が散見されます。それは以前からあったのでしょうが、公認心理師の試験対策が必要になって増えた印象もあります。そうだとす

          公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード(3)モラルやコモンセンスを共有し、適性を培う機会の欠落