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蝶の恋 - 素直な想いと刹那の輝き

ある日の春、高校二年生のそうそうは、校内の屋上通路で初めてちあきと出会った。彼女は色白でハーフ顔のガーリーな美少女で、まるでモデルのようだった。そうそうの心に電撃が走り、「なんて美しい人だ!」と感じたのを覚えている。

そうそうは野球部員だったが、ちあきは帰宅部。二人はそれまで接点がなかった。そうそうは野球部の先輩であるなつきさんに、ちあきについて尋ねた。
なつき「え?ちいさんのこと?彼女のこと好きな男の子多いから多分無理だよ」
その言葉にそうそうは眩暈を覚えたがすぐに持ち直し、
諦めずに手紙を書き、ちあきに渡してもらった。
それがきっかけで、なつきさんを介してちあきとそうそうは文通が始まった。
時が経ち、季節が変わる頃には、そうそうの手紙保管用のクッキー缶には女子高生特有のルーズリーフを折って作った手紙があふれるほど溜まっていた。それを見ただけで、そうそうの決心は固まった。

「今しかない、男になれ、そうそう」
そう自分に言い聞かせ、そうそうはお気に入りの野球スパイクに足を入れた。

そして、忘れもしないあのゴールデンウィーク。
そうそうはちあきを海に誘い、告白した。
ちあきもそうそうの想いに応えてくれ、二人の交際が始まった。
最高の時間が二人を包み込む。

文武両道の進学校に通うそうそうは、野球部一軍入りを果たせず、野球を疎かにしてちあきにのめり込んでいった。
先輩たちは茶化すように言っていたが、そうそうにはそれすらも心地よかった。

だが9ヶ月が経ち、二人の恋は終わった。
そうそうが別れを告げたとき、ちあきからの返答は
A4用紙に大きく「いや!!!!」と書かれていた。
その紙は何度も折り重ねられ、石のように硬くなっていた。
それは彼女の意思のようだった。

今思えば、彼女は自転車のかごにチョコをいっぱい入れてきたり、
別れた後もそうそうが好きだと言っていたり、ちょっと怖かった。

そうそうにとってあの頃のちあきは追い求める蝶のように輝いて見えていた。だが、いざ捕まえた蝶の羽は輝きを失っていたのかもしれない。

だって蝶は大空を羽ばたいて初めて輝くのだから。

それから年月が経ち、二人はそれぞれの道を歩んでいく。
そうそうは野球部の先輩たちと笑い合いながら、ちあきは新しい恋を見つけていく。二人の間にはかつて交わした手紙の数々があるが、それぞれの心に刻まれた想い出は消えることはないだろう。

やがて春が訪れ、桜の花が舞い散る季節になった。
そうそうは思い出の屋上通路を通りながら、ちあきと出会ったあの日のことを思い出す。
彼らの恋は短く、刹那の輝きのようだったが、かけがえのない時間を過ごしたことに変わりはない。
そして、どこかでまた蝶が大空を羽ばたき、新たな恋が始まるのだろう。それがこの世界の恋のサイクル。
遠くから眺める限り、その輝きは永遠に続く。

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