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魔法の餃子とポテチ

「日高屋で餃子買ってきたけど食う?」

彼が口火を切った。

ただ言ったのではない。口火を切ったのだ。この一言は、その時の私たちにとって大きな意味があった。

その2日前、久々に大喧嘩をした。たまにする喧嘩とは比べようもないほどのもので、翌日仲直りしようと思ったが、彼は憂さ晴らしで親友と飲みに行き、仲直りする時間がなかった。しかし、彼が偉いのはどんなに気まずくてもちゃんと「飲みに行ってくる」とLINEをくれること。これだけでも前日の気まずさがやや和らいだ。

飲むとはいえ、あんなに派手に喧嘩したのだからサクっと飲んで仲直りの話し合いをするかと思いきや、なかなか帰ってこない。話し合う気満々だった私も痺れが切れ、先に寝ることにした。単純に眠かったし、仲直りする前のあの気まずさに打ち勝って待つ覚悟はなかった。

とはいえ、この気まずさを抱えたまま朝を迎えたくないーそれなら文字にしようとメモ帳を破り手紙を書いた。彼に書く手紙はこれが初めて。手紙自体、数年ぶりに書いた。

横型のメモに3、4行ほど書いた。言いすぎたことへの謝罪、書いているときの気持ち、これからについて。決して長くはないが書いたら気が収まり、伝えたいこともちゃんと書けた。リビングのこたつの上にわかるように置いて先に寝た。

その後、1時間ほどで彼が帰ってきた。私はまだ起きていたけど直接顔を合わせて話す気力はなかった。あとは手紙に全部任せようと目を瞑った。

夜中にふと目が覚めると、彼は横で眠っていた。喧嘩直後は一緒に寝たくなかったらしくリビングのソファで寝ていたのに、今日は横にいる。あの手紙が効いたのかなと淡い期待を持ってまた目を瞑った。

私は昔からすこぶる朝に弱い。よく会社員としてやっていたなと思うくらいだ。だから、彼が会社に向かうときも大体はベッドで寝ている。全く見送らないわけではないけど、ここ数ヶ月は夜中まで働いていたから彼に合わせて起きれなかった。この日は起きれなかったわけではないが、手紙を読んだだろう彼の反応を朝から見る勇気がなく、いつも通り見送らずにベッドの中にいた。

そして夜。彼が日高屋の餃子を買ってきて、私に食べるかと聞いてきた。あまりお腹は空いてなかったが、こんな状況下で言われたら食べるしかない。

本当は最初に謝ろうかと思ったが、まずは一口。すると、あまりの美味しさに「え、こんなに日高屋って美味しいっけ?!」と言ってしまった。

ニンニクが程よくピリッと効き、絶妙に焼き上がっている。想像以上に美味だった。すぐさま彼も「日高屋うまいよね。これで500円だよ」と言いながらがっつく。朝までの不穏な空気はなかったかのように、そのまま会話を続けた。

キッチンに行くと見慣れないポテチがあった。


見るからに危険そうなパッケージ。ハバネロが練り込まれているとのこと。注意書きには、強い辛さなので辛いのが苦手な人や子どもは控えてほしいとあった。

なぜか黒かった。竹炭パウダーが練り込まれているらしい。確かベトナムかシンガポールのポテチ。お国柄辛いのはわかるけどなぜ黒い? 竹炭のイメージないぞ? と疑問に思いながら一口食べると本格的な辛さで、思わず「からっ!」と声が出た。意外にもしっかり辛く、辛味に誤魔化されない存在感のある美味しさに再び驚く。辛いもの好きな彼もすぐさま口に入れ、数秒後に「かれっ!」と声をあげた。しばしポテチについて話が盛り上がり、気づけばいつも通りの私たちに戻っていた。

謝りたくなかったわけではない。二つの予想外の美味しさに話が盛り上がり、謝る必要がなくなってしまったのだ。もちろん、私の手紙が彼の機嫌を直した部分もあると思うが、美味しいものは不仲を直す魔法があるんだと実感した。

すっかり仲直りし、数日後に再び彼が餃子を買ってきてくれた。日をあけずとも飽きることなく食べられる。この日は、先日買った海老ラー油をつけて楽しんだが何もつけなくてもうまい。日高屋の底力を感じた。


この餃子とポテチのおかげで、無事に仲直りできた。もう日高屋とドンキに足を向けて眠れない。

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