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【食エッセイ】これぞ、本当のちゃんぽん

もし移住するなら長崎と決めているくらい長崎が好きだ。高校の修学旅行で行ったときは「京都が良かったぁ」と思っていたのに、まさかこんなに好きになるとは。当時の私に今の私を見せてやりたい。

長崎を好きになった理由は3つ。

1つ目は、敬愛する美輪明宏様の生誕地だからだ。美輪様を好きになったきっかけは、江原雅之と共演した番組「オーラの泉」。ゲストに愛溢れるスピリチュアルメッセージを伝える美輪様に感銘を受け、たちまち崇拝するようになった。人の心に寄り添いながら発せられる美しく優しい言葉に励まされた視聴者は少なくないだろう。まさに私がその一人で、美輪様の言葉、考え方を常に感じるために、美輪様の本を探しては買い、聖書のように読み込んでいた。

20代の頃の私は、傍から見ると元気印に見えただろうが、いつも心にモヤがかかっていて、なんとなくメンタルが不安定だった。そんな状態でも自分を鼓舞し頑張れたのは、間違いなく美輪様のおかげだ。

2つ目は、長崎の離島・壱岐だ。一昨年の12月にひょんなことから行くことになり、2日間滞在した。

壱岐島は、サステナブルやSDGsが叫ばれるとっくの昔から自給自足が当たり前の島。魚、肉、米、野菜が揃っている。米にいたっては自給自足率は100%超え。もちろん、どの食材も旨い。

そして、壱岐といえば焼酎だ。東京ではあまり見かけない「壱岐スーパーゴールド」は、すっきり飲みやすく、いつまでも飲める。壱岐には酒蔵が多いので地酒を堪能できる。肴になる食材も豊富だから飲兵衛にはたまらないだろう。

また、壱岐はパワースポットと言える。島内にはなんと神社が100社あり、日本最古といわれる住吉神社もある。

小島神社。これが
こうなる!


干潮時に参道が現れる小島神社は神秘的で物語の中にいるような気分になった。スピリチュアル好きな私にとって聖地のような島だ。

3つ目の理由は、魚だ。意外だったが、長崎は漁業産出額、漁獲量ともに全国2位。日本さかな検定2級の取得を目指し勉強に励んでいたときに知った。魚好きの私にとって長崎はお魚パラダイス。ますます長崎が好きになった。

美輪様、壱岐、魚ですっかり心を掴まれた私。今年の8月末から9月頭にかけて行った長崎旅行は最高の非日常だった。2泊は市内からバスで行ける伊王島で、最後の1泊は長崎市内で過ごした。

市内では、グラバー園、大浦天主堂と王道スポットを巡ったが、長崎市内に行くなら絶対に中華街は外せない。長崎中華街といえば長崎ちゃんぽん! 口コミサイトで美味しいと評判だった「会楽園」へ向かった。

ちゃんぽんはあっさりした味と思っていたが、こちらのちゃんぽんは程よくクリーミーで品の良さを感じる。具沢山なのにぐちゃっとせず、食欲をそそる盛り付け方はあっぱれ。本場だからということもあるが、身に沁みる美味しさで感動した。

帰り際、レジ前にお土産用のちゃんぽんを目にして即購入。空港のお土産コーナーでは今回行けなかった「四海樓」のお土産ちゃんぽんも購入した。

よくよく考えると、ちゃんぽんとは不思議な食べ物だ。ラーメンではないし、うどんでもない。豚骨ベースなのに脂っこくない。野菜もたっぷり摂れて、食べているのに罪悪感が少ない。美味しいし栄養満点の体喜ぶこのスーパー麺は一体何なのか。

調べると、ちゃんぽんのはじまりは明治時代。前述した「四海樓」の創業者が、貧しい中国人留学生に安くて栄養満点の食べものを食べてほしいという思いから作った。野菜や肉の切れ端を入れたことで具沢山となった。たちまち話題になり、中華街に広まって今に至る。ついでに麺が太い理由は、煮込んで柔らかくなりつつもコシを保つためらしい。一般的なラーメンは1.5mmに対して、ちゃんぽん麺は2.0mm(筆者調べ)。

ちゃんぽんは、今では当たり前の「安い、うまい」の走り的存在なのだ。ちゃんぽんの根底には商売ではなく、優しさがある。また、ちゃんぽんの語源には諸説あり、そのうちの一つにポルトガル語で混ぜる•混合するという意味の「チャンポン」がなまったといわれている。さすが鎖国時代に唯一ヨーロッパに開かれた長崎ならではの話だ。

さて、長崎から戻って早速お土産ちゃんぽんを作った。作ってわかったのは、ちゃんぽんは意外にも手間がかかるということ。

麺を茹でている間にスープを用意し、野菜、肉、魚を炒める。麺が茹で上がったらスープと共に具の中に入れ、しばらく煮込んで出来上がり。お土産用とはいえ、具を切ったり炒めたり、煮込む時間が必要だから、余裕があるときに作るのをおすすめする。お土産ちゃんぽんでこうだから、スープから作るお店のちゃんぽんはもっと手間がかかるのだろう。

最近珍しく彼が風邪を引き、数日ダウンした。熱も下がり、やっと食欲も戻ったところでちゃんぽんを振る舞った。

具材は「彼が早く元気になるように」と願掛けもかねて、彼が好きなものをこれでもかとばかりに入れた。豚肉、エビ、あさり、もやし、キャベツ、うずらの卵、キクラゲ。ちなみに野菜はカット野菜、魚介は冷凍、豚肉は細切れ。時短のために切らなくても済むものを選んだ。

こんな感じでぐつぐつ煮込む。
味しみしみになるように煮込むのがポイント!

「できたよ〜」と彼の目の前へ。

「うぉ、旨そう」と唸る彼。

ふーふーしてズルっとすする。具をほおばってしっかり味わう。食らいつく彼の姿がうれしい。

ザ・おうちちゃんぽん

改めて作ってわかったが、お店のようにきれいに盛り付けるのは難しい。最後に麺と具を一緒に煮込むから、盛り付けるときに分けるのが難しい。

いや、嘘。早く食べたいから分けるのが面倒くさいだけだ。でも麺と具材を分けたとて、不器用な私にはきれいな盛り付けは難しいと思う。

しかし、このごちゃっと感が良いのだ。ましてや、この姿がちゃんぽんの原型ではないのだろうか。具と麺が混在する様は、まさに語源のチャンポンそのもの。彼が好きなものをたくさん入れる優しさは、「四海樓」の世話好き創業者並みの思いやりに満ちている。ちゃんぽんの原型を備えたこのちゃんぽんが、真のちゃんぽんではないかと思う。

「うん、うまい!」と平らげた翌日、彼はようやく出社できた。ちゃんぽんに込めたあたくしの優しさが、彼を元気にしたのだろう。


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