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日本発祥だが海外でポピュラーになった「手当て」によるヒーリングパワー

Alternate Currents:
Reiki's Circulation in the Twentieth-Century North Pacific

「20世紀北太平洋地域におけるレイキ(霊気)の流布」
Justin B. Stein
September 2023 (University of Hawai'i Press)

おっ。Reikiって「霊気」か。
なんかヤバいやつ??

さいしょにこの本の紹介文を読んで、Reikiという言葉にふれたとき、それが「霊気」のこととはまったく思わなかった。

で、Reikiをググってみて、どうやらそれが「霊気」のことらしいとわかったときは、とっさに「胡散臭っ!」と思ってしまった。なにやらアヤしい新興宗教のたぐいかと思ったのだ。

アヤしい新興宗教ではなかった。
それに、私は全く知らなかったが、世界ではかなり有名らしいのだ。
「レイキ」でウィキペディアの項目まである。けっこうガッツリ説明されている。いちおう民間療法ってことになるらしい。

レイキヒーリングは民間療法であり、手当て療法・エネルギー療法の一種である。

Wikipedia

「霊気」は、臼井甕男(うすいみかお)さんという方が「臼井靈氣療法」としてはじめた。この人もウィキペディアにわりと詳しく載っている。

なんでもこの臼井さん、「人生とは何ぞや」という大問題に取りくんだ挙句、57歳の春、死を覚悟して京都の鞍馬山に断食修行に入ったところ、三週間目にして落雷を受けたような衝撃をえて、悟りを開いた、らしい。

山を下りるとちゅうに石につまずいて足の指の爪がはがれ、手でおさえたところたちまち治ってしまった。食堂の娘がひどい虫歯だったので、手を当てるとすぐに痛みが引いたという。

この療法を世に広めようと、臼井霊気療法学会を設立する。臼井が養成した弟子のうちのひとり、林忠次郎が、ハワイ在住の日系人高田ハワヨ(ハワヨ・タカタ)に伝授したものが広まったもの、それが「レイキ」のはじまり。

このハワヨ・タカタさんがすごかった。何十年にもわたり、ハワイだけでなく、日系アメリカ人社会をつうじて北米のいたるところに「レイキ」を広めた。ウィキペディアによると、2007年時点で世界で500万人が「レイキ」を実践しているとのことだ。

Reikiは日本発祥の言葉として、欧米で広く知られている。

えー!そんなの全然知らなかったー

だって日本でまったく知られてないじゃん。日本発祥なのに、日本ではそれほど広まらず、海外で広く知られている民間療法。なんかフシギ。

ネットでいろいろ調べていたら、厚生労働省のeJIMというサイトにも載っていることが分かった。

厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト)は、民間療法をはじめとする相補(補完)・代替療法*と、どのように向き合い、利用したらよいのかどうかを考えるために、エビデンス(根拠)に基づいた情報を紹介しています。決して個人の責任で実施するさまざまな療法を制限するものではなく、また特定の療法を勧めるものでもありません。

eJIMのサイトによると、「有効性は明確には示されていない」、研究には「質の高いものがほとんどなく、結果に一貫性がない」、「そのようなエネルギーの存在を示す科学的根拠(エビデンス)はありません」とかなり手厳しいが、安全性にかんしては、「一般的に安全であるように思われます」と消極的ながら評価しているようだ。

効果があるかどうかは疑わしいけど、害はなさそう、といったところか。

そしてこんなふうに「レイキ」について考えていると、なぜかそういう本に出くわすんだよね。

それは泉鏡花の『高野聖』を読んでいたとき。
人里離れた山奥の一軒家に住む美しい女の素性があきらかになるところで、その女は医者の娘で、若いころ、患者の痛むところをさすってあげたらたちまちよくなってしまった。ほかの患者も娘が手を当てるとよくなったり、治らないまでも痛みが引くという。

これって「レイキ」じゃないのー?!

あとは、ハルノ宵子さんの『猫だましい』。

ハルノさんが中学生のころ家庭教師をしてくれたS氏。S氏はもともとはハルノさんのご尊父、吉本隆明氏の弟子だったんだか、後輩だったんだか、友人だったんだか、そんな存在。で、問題はそのS氏ではなく、彼の奥さんなのだが、「ある日突然、手から“出る”ようになっちゃった」らしい。

と言うので、数年前から月イチペースで、”手当て”のようなことをしてもらっている。本人は「自分じゃまったく自覚ないのよね」と、ケラケラ笑うが、実際カイロを当てられたように熱くなる。不思議だが”気のせい”レベルを超えている。

おおっ!ここにも「レイキ」らしきものの使い手が。

まあでもわからないではない。そんなパワーはなくても、だれかに手を当ててもらう、触れてもらうというのは、たぶんすごく安心するのだ。

じつは私も、寄る年波には勝てず、1年ほど前に股関節を痛め、整形外科に行った。MRIまでとってもらって調べた結果は、加齢による軟骨の減少、とのことで、これ以上よくなることはないので、せめて悪くならないようにリハビリをしましょう、と言われ、それからずっとリハビリに通っている。

本当は痛みがなくなったらトンズラしちゃえ、と思っていたのだが、理学療法士のお姉さんに股関節をマッサージされるのが思いのほか気持ちよくって、たいした痛みもないのに今でも律儀に通いつづけている。

理学療法士さんは、あくまで「お仕事」として私の股関節周辺の筋肉のコリを、科学的知見に基づいてほぐしているだけだろう。でも、人から優しく触れられつづける、ということは、肉体的効能というより、むしろ精神的効能のほうが大きいのではないかと思うのだ。

施術室には、多くの高齢の男性、女性が理学療法士さんにマッサージされているが、あれは効き目うんぬんよりも、体に触れてもらえて、やさしくされることを求めて来ているのではないか、と私はにらんでいる。なにより私がそうだもんね。

ハルノさんのその本にはこうも書いてある。

信じない人は信じないでいいが、昔から連綿と続けられてきたのだ。必ず意味があるはずだ。プラシーボと言われればそれまでだが、何でだか効くんだからいいじゃん! というのが、東洋医学の考え方だ。

「レイキ」と名前がついたのは20世紀に入ってからだが、「手当て」は昔からずっとあった療法だろう。
だったら、やっぱりなにかある、と私も思いたい。

この本は、ハワヨ・タカタさんの生涯をたどりながら、「レイキ」がどのようにして広まっていったかを詳細に描いている。

いまはまだ日本では知る人ぞ知る、というかんじだが、ハワイからきたオシャレなヒーリング、として、いつかブレイクする日がくる、かもしれない。

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