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超絶技巧の技

行きつけのMスーパーに行ったときのこと。この日は土曜日の午前中で、スーパー内はお客でごった返し、レジは長蛇の列だった。あ~あ、なんかついてないなあ・・・と心の中で呟きながら、あるレジの最後尾の列に並んだ。カバンから携帯電話を取り出し、メールをチェックした1,2分後。あんなに先頭まで遠いと思っていたのに、ふと顔を上げると後2人で私の番ではないか。たまたま並んだレジは、電光石火のごとくお会計が速かったのだ。一体レジ担当者はどんな人なんだろう?強い関心が湧き起こった。

その方は40代くらいの優しそうな感じの女性だった。(仮にAさんとしておこう)しかし、そのAさんのレジ打ちの速さには驚きを禁じえなかった。なぜって?Aさんは、バーコードの値段を読み取るやいなや、すぐ隣のかごに商品を入れる。その入れるのが、恐ろしく速いのだ。その上、どうやらAさんの頭の中には長方形のかごの立体地図があるようなのだ。小さい商品はここ、大根のような長いものは、この位置。おまけに生ものとそうでないものはこちらに入れるという独特のルールに沿って、任務を遂行しているように思える。(他のレジ担当者もいないわけではないが、Aさんがピカ一だ)動きに寸分の無駄がない。流れるような美しい動作に、思わず見とれてしまった。

笑顔と明るい声で「ありがとうございます!~円です」と言われて我に返った私は、支払いを済ませ大量の商品を買い物バックに詰めるべく、平台に向かった。私はこの、自分の買い物バックに買った商品を入れるのがとても苦手だ。何をどう入れたら、きれいに入るのか。冷凍物と揚げたてコロッケは一緒に入れられないな。じゃ、ここに白菜を入れると今度は卵1パックをどこに入れる?と考えれば考えるほど頭の中がこんがらがり、商品を出したり入れたりで大変なタイムロス。挙句の果てうまく入らず、大根だけやむを得ず片手で持ち、後は肩から買い物バックを下げるというなんとも悲惨な姿をさらすなんてことは、幾たびもある。

しかし。今回、このAさんがすでに分類してきれいに買い物かごに入れてくれているので、私は何も考えることなくそのまま自分の買い物バックに入れた。最短時間の記録達成と共に、夢のようにスムーズに作業は終了し、私も大満足だった。

私は今まで、レジ担当の仕事は流れ作業ではあるが、誰にでも出来る上に、あまり頭を使うことなく単純な仕事だと失礼ながら一方的に思っていた。だが今回、Aさんの「超絶技巧の技」と、お客が後で自分のバックに詰めやすいように清算済みかごに入れていくという「隠れ技」のダブルで、私の心は何とも言えぬ温かさで包まれた。

Mスーパーのレジ担当のAさんは、私に多くのことを仕事を通して静かに教えてくれた。計算するときの「超絶技巧の技」であるハード面と、本当にお客の立場から見た「隠れ技」であるソフト面を。

私がこのMスーパーに行ったとき、いつもレジ担当のAさんを探していることは言うまでもない。



#エッセイ #日々の生活 #仕事 #スーパーのレジ




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