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折々の絵はがき(49)

◆絵はがき〈新形三十六怪撰 源頼光土蜘蛛ヲ切ル図〉月岡芳年◆

〈新形三十六怪撰 源頼光土蜘蛛ヲ切ル図〉
月岡芳年 明治二十五年(1892) 国立歴史民俗博物館蔵

 夜中、なにやらいつもと違う気配に「…ん?」と目を覚まし、背後にこんな風体の生き物?がいた日には…! 怖い、怖すぎる。もはや叫ぶことすらできず腰を抜かしてその場から動けなくなりそうです。しかもかなりの接近戦。こんなトラウマは一生消えそうにありません。というか誰?そしてなぜ?いったいどこから?聞きたいことは山のようにありますが果たして言葉は伝わるのでしょうか?

 しかし、絵の中で今まさに刀を抜こうとしている源頼光は、腰を抜かすどころか四の五の言わず、反射的に刀をつかんで今にも切りかからんばかり、右足にぐぐっと力を入れているのがわかります。生き物の恐ろしさ以上に、彼のあまりの冷静さにあっけにとられてしまいました。武士ってみんなこうなのでしょうか。人間に襲われるならまだしも、妖怪に寝込みを襲われてもこんな風に立ち回れるなんて、いやはや武士道おそるべし…。

 月岡芳年は歌川国芳の門人で、浮世絵が終焉を迎える明治時代に活躍したことから最後の浮世絵師と言われています。芳年最晩年の代表作《新形三十六怪撰》には、伝説や逸話をもとに様々な幽霊や妖怪が描かれました。この作品は『平家物語』「剣の巻」に伝わる、2メートルを超える土蜘蛛の妖怪が半透明の巣網を使い、病床の源頼光を襲う場面です。頼光は名刀「膝丸」で土蜘蛛を撃退し、のちに膝丸の名前を「蜘蛛切」と改めたのだとか。緊張感あふれる場面ですが、よく見ると芳年の描いた土蜘蛛の黄色い眼は思いのほか愛らしく、「切られてしまったのか…」と、ほんの少し胸が痛みました。

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