折々の絵はがき(52)
◆絵はがき〈重文砧蒔絵硯箱〉(部分)◆
思わず息を飲む、繊細巧緻な蒔絵の技法。そっと触れてみたいと叶わないことを考えました。これは秋の夜、夫婦が「砧打ち」をしているところです。砧打ちは冬支度のひとつで、反物を「砧」と呼ばれる台に乗せ、槌でたたいて繊維をほぐす行為のこと。この作業は秋の風物詩として能の題材にされたり、和歌に詠まれたりしました。月明りの届く軒先近くに腰を下ろした二人は静かに言葉を交わしているのでしょう。息を合わせて手を動かす様子は仲睦まじそうで、こんな秋の夜の