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絵のない絵本 アンデルセン著/新潮文庫など

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。

33夜 世界の人々の営み

 仕事からの帰り道、ふと夜空を見あげると、「ああ今日も月が昇っている」と思う。そんなとき、この物語が心によぎる。

 貧しく若い絵描きがある晩、悲しい気持ちで窓辺に立っていると、月の光が部屋にさしこんできた。その日から月は夜ごとに若者の部屋を訪ねて、世界で目にした出来事を語っていく。

#月を見上げて

 ガンジス川で愛する人の安否を占うインドの娘のこと。古代ローマ都市のポンペイ遺跡を訪ねた歌姫が、かつてにぎわった円形劇場で歌ったこと。グリーンランドに住むまもなくこの世を去る男とその妻のこと。物思いに沈む中国の若い僧侶のこと。

 33夜に渡る小さな物語の連なりは、世界のそこここに人々の営みがあると教えてくれる。家の書棚にあって幼いころから親しんできた1冊。大人になって読んでもしみじみとした気持ちになる。


行司千絵