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指宿枕崎線末端区間を残すには

指宿枕崎線の指宿~枕崎間の存廃議論が始まろうとしている。赤字ローカル線には変わりないが、九州内にも、全国各地にも指宿枕崎線末端区間よりも赤字が大きい区間は数多い。
むしろ九州は、東北や中国地方と比べると、国鉄末期に多くの赤字ローカル線を廃止したこともあり、まだ赤字が少ない。コロナ禍でJR東海すら赤字になったのに、JR九州は鉄道単体でも黒字計上できたのは、九州新幹線という東海道新幹線に次ぐ高収益路線を持つことも大きいが、他社と比べると赤字ローカル線の収益がそこまで悪くないので足を引っ張られないのも大きいと考えられる。

指宿枕崎線末端区間の利用状況


 存続が危ない区間は指宿~枕崎間。指宿以北、特に鹿児島市内は南九州の在来線で最も混雑する区間で、鹿児島市を離れても指宿市まではそれなりに利用されている。コロナ禍で一番利用が少ない2020年でも鹿児島中央〜喜入間の輸送密度は6631、喜入~指宿間の輸送密度は1661、指宿~枕崎間の輸送密度は255。コロナ禍前の比較的利用が多い2018年と比較すると、鹿児島市内は22%減、指宿までは35%減、枕崎までは12%減である。思ったほど減っていないが、鹿児島県内ではバスの運転手不足が深刻で、県内各地と空港、鹿児島市を結ぶ便すら減便しているので、並行するバスに逸走することもないのだろう。
しかしこの区間、家屋や事業所などが連なり、意外と人は住んでいる。並行する国道226号も、意外と交通量が多い。後述する学校の生徒数でも述べるが、この地域は意外と人口が多く、産業基盤も整っている。とても廃止が議論される赤字ローカル線沿線には見えない。利用されないのは、多くの赤字ローカル線に共通する人口が少なすぎるが原因ではない。

指宿枕崎線末端区間の中学高校事情


ローカル線の利用者、将来性を見る上で、私は沿線にある中学校の生徒数を見ている。観光統計などは自治体により算出方法がバラバラで、数値が正確とは言えない。中学校の生徒数は、どこの自治体でも出していて算出方法は同じで比較しやすい。中学校の生徒数は、3年後は高校の生徒数になるから、そのままローカル線の利用者になる。

指宿枕崎線末端区間の高校


はじめに、人口は、2023年12月1日推計人口、生徒数は、2023年4月の鹿児島県教育委員会発表のデータである。
鹿児島市の喜入、日置市以南の薩摩半島は、南薩学区と言う学区である。指宿枕崎線は、喜入駅以南は全て同じ学区である。
指宿市
指宿市は、鹿児島市の南に隣接し、人口37,183人。鹿児島中央駅から指宿駅まではおよそ50km離れている。東京〜藤沢、京都〜大阪間と同程度の距離である。
二月田駅が最寄り駅の指宿高校が生徒数231人、山川駅が最寄り駅の山川高校が生徒数75人、薩摩今和泉駅が最寄り駅の指宿商業高校が生徒数465人、合計771人。この中で指宿枕崎線末端区間を利用するのは山川高校が多いと見られる。
中学校は、山川駅が最寄り駅の頴娃中学が207人、開聞駅が最寄り駅の開聞中学が95人。他の中学校は、卒業してもほぼ指宿枕崎線末端区間を使わないと見られる。参考までに、北指宿中学(宮ヶ浜)が303人、南指宿中学(指宿)が309人、西指宿中学(薩摩今和泉)が59人。
南九州市
南九州市は、指宿市の南に隣接し、北は鹿児島市と隣接している。人口30,925人。中心は知覧で、鹿児島中央駅から直接車で行くと、32km、45分。市内主要駅の西頴娃は知覧から遠く、旧頴娃町住民しか使わない。しかも鹿児島中央駅から67.7kmもあり、道路の54kmと比べて遠い。
高校は3校。そのうち指宿枕崎線沿線には、西頴娃駅近くの頴娃高校がある。生徒数127人で、9割の生徒が指宿市、南九州市に住んでいて通学している。西頴娃駅の乗車人員が2015年で76人なので、この数字は、ほぼ頴娃高校の生徒と見て良いだろう。
他の2校は、指宿枕崎線で通学できない場所にあり、指宿枕崎線で通学する生徒は皆無だろう。
知覧の中心部にある薩南工業高校は生徒数276人、川辺の中心部にある川辺高校は生徒数132人である。
中学校は、頴娃中学(生徒数160人)、知覧中学(生徒数234人)、川辺中学(生徒数259人)の3校がある。こちらも高校と同様、知覧、川辺は指宿枕崎線沿線ではないため、卒業後に指宿枕崎線で通学するようになる生徒は皆無。頴娃中学の生徒のみが指宿枕崎線を使う可能性がある。
枕崎市
枕崎市は、薩摩半島南西部にあり、鹿児島中央駅から直線距離で50kmほど。人口18,687人である。通勤通学で市外に出る人は、ほぼ隣接する南九州市、南さつま市に通っている。鹿児島市への通勤通学者も2割ほどいる。しかし地域の中心で流入人口が最も多い南さつま市加世田は鉄道が通っておらず、南九州市知覧、川辺も鉄道がない。加世田へは比較的多くバスが走っているが、他は本数が少ない。市内中心部近くにも公共交通機関空白地帯があるため、通勤通学は自家用車、職場や学校の送迎バスを使うことが多い。
高校は、枕崎駅が最寄り駅の枕崎高校(生徒数95人)、薩摩板敷駅が最寄り駅の鹿児島水産高校(生徒数300人)がある。
鹿児島水産高校は、県内全域、県外からも進学する。校内に男子寮の青雲寮(定員88名)、指宿枕崎線御領駅付近に女子寮のつぼみ寮(定員20人)がある。女子寮の入寮生で指宿枕崎線で通学する生徒は皆無で、ほとんどが寮の送迎車か単車通学をしていると見られる。これは御領駅の1日平均乗車人員が0.3なので間違いない。(学校は指宿枕崎線での通学を選べるとしている)
寮は県外や、鹿児島市以遠の学生で満室である。枕崎市は付近で下宿も募集しているが、非常に少ないようである。このため学校では鹿児島市在住の生徒には指宿枕崎線での通学を推奨している。
生徒数の多さ、生徒の通学範囲の広さを考えると、指宿枕崎線の末端区間の利用者のほとんどが、鹿児島水産高校の生徒と考えられる。
中学校は4校ある。枕崎中学(生徒数203人)、桜山中学(生徒数63人)、別府中学(生徒数52人)、立神中学(生徒数132人)がある。このうち、別府中学は、最寄り駅が白沢駅で、他は枕崎駅が最寄り駅である。
また、指宿枕崎線から離れるが、南九州市加世田地区に、私立鳳凰高校がある。こちらは生徒数1,369人、寮生600人、通学生も、鹿児島市、薩摩川内市以南薩摩半島全域に16路線のスクールバスを走らせている。指宿枕崎線沿線にも複数路線走らせており、指宿枕崎線に乗るはずの高校生がかなり流れていると見られる。

沿線の交通機関


並行道路


指宿枕崎線は、ほぼ全線が国道226号と並行している。鹿児島市内は混雑するが、喜入付近は1日16,000台程度の交通量になる。これも枕崎市へは並行して走る車は皆無で、多くの車は谷山ICから南薩縦貫道を使い、谷山付近からほぼ最短距離に近いルートで枕崎市に向かう。
指宿市から枕崎市にかけては、特に頴娃付近から枕崎にかけて、海沿いに住宅や工場などが立ち並ぶ。それなりに交通量が多いが、信号が少なく、2車線だがよく整備されているため走りやすい。歩行者がほとんどおらず、横断歩道の信号停止もほとんどないのも大きい。車が主役で、典型的な車社会の地方の中小都市の主要道路という感じだ。これでわざわざ鉄道を使おうとは思えない。

対抗交通機関


鹿児島から枕崎へは、指宿枕崎線を使うと2時間半、1850円である。鹿児島交通バスを使うと、種別やルートが複数あるが、加世田(南さつま市)経由スーパー特急で1時間半、川辺(南九州市)経由の特急で1時間38分、普通で2時間弱である。いずれも運賃は鹿児島中央駅まで1580円、終点の金生町(山形屋)まで1630円。バスは鹿児島中央駅だけでなく、天文館や山形屋にも止まり、川辺経由のバスは谷山副都心にも止まる。
実際バスは意外と混んでいた。本数もJR6往復。バス7往復。これだけ見てもJRを利用する理由が見つからず、全く対抗できない。
自家用車なら、鹿児島インター、谷山インター、鹿児島加世田線、南薩縦貫道経由で1時間弱で鹿児島中央駅から枕崎駅まで行くことができる。鹿児島の公共交通機関の分担率の低さから見ても、18歳以上の人は、この区間をほぼ車で移動していると見て良い。
指宿枕崎線は指宿市を通り、東へ大きく迂回するので選ばれない。鹿児島県内の地方都市では、市外への需要は、ほぼ鹿児島市内か鹿児島空港に限られる。多くの都市ではこの2つのバス路線だけ利用が多いことからもわかる。だから枕崎市から指宿市へは、最初から需要が限られて、公共交通機関を走らせるほどの需要はないと言える。
鹿児島空港へは、所要1時間45分、2500円、毎日4往復のバスがある。

指宿市へは、東大川乗り換えの路線バスが1日3往復ある。JRとバスの本数から見ても、バスに乗るのはせいぜい50人、JRも6往復で指宿市を目的地にする人はそう多くないだろう。実際乗ると、指宿枕崎線の乗客は、枕崎、西頴娃、開聞、高校などの近くから2〜3駅乗る人がほとんどで、乗り通す人は明らかに乗車目的と言う雰囲気の人である。枕崎市から指宿市へは、公共交通機関の需要はほぼないと言って良い。逆方向で指宿からは、朝の鹿児島水産高校の通学時間だけ混む。指宿枕崎線末端区間は2両固定編成の気動車だが、2両とも満員になっていた。

自家用車転換がベスト


 指宿枕崎線末端の主要都市である枕崎市、指宿市から市外へのまとまったは、鹿児島市内と鹿児島空港に限られる。鉄道はどちらへも競争力が著しく低くて利用されない。また、指宿市へは周遊観光ルートがあればそれなりに利用されるかもしれないが、枕崎市もそれほど観光地ではないし、観光地として魅力の高い坊津は車がないと行くことができない。薩摩半島南部で一番の観光地は指宿市だが、枕崎市を観光するなら坊津や知覧もセットで加世田に抜けるルートになるだろう。盲腸線で同じルートを戻って来るのは観光ルートとして効率が悪い。この点で指宿枕崎線は観光に使いにくい。
指宿市の年間観光客数は約400万人。1日当たり約11,000人、枕崎市の年間観光客数は約60万人、1日当たり約1,600人。仮に全員が指宿市に泊まり、指宿枕崎線で枕崎市へ移動してもこの数で路線維持は難しい。
結局指宿市と枕崎市の間に鉄道を維持するほどの移動需要がない。自家用車で十分であり、観光需要も、現状のようなレンタカー中心で丁度良い。最も適切な方法は自家用車転換である。

JR九州は指宿枕崎線末端区間を廃止したいのか?


よく揺れる路線として紹介される指宿枕崎線だが、今は全線にわたり、ロングレール化、枕木の強化、路盤改良で揺れを改善している。山川までは丙線規格、山川から末端は簡易線規格で建設されたので、何もしなければ85キロ、45キロが最高速度のはずだ。それを85キロで飛ばすから揺れる路線になる。しかし揺れを抑えるこれらの工事は費用がかかる。JR西日本なら、保線費用を抑えるために25キロ運転するところだが、指宿枕崎線は末端区間を一部運休してでも工事している。逆に運休しで工事しても困らないほど利用が少ないとも言えるが。廃止するつもりでこんな投資をするのだろうか?

考えられるのは、バス運転手不足で廃止してもバス転換できない。だからしかたなく残す。北陸鉄道石川線の例にあるような存続である。もう一つは、鹿児島水産高校生徒の通学輸送がバスでは間に合わないのでそのためだけに存続すること。
現在の輸送密度255ということは、片道100人程度の利用だろうが、ほとんどが通学時間帯と考えられる。この場合、通学時間帯だけバスでは運びきれないから鉄道を残すのである。実際指宿枕崎線末端区間は、数字で見るなら単行の気動車で十分だが、キハ40系2両で運転されている。このことからも、単行では運びきれないほど通学時間帯だけ集中していると考えられる。
JR九州は、沿線自治体に廃止を求めているのではなく、通学専用線として残すために上下分離など表面での負担を求めている可能性も考えられる。私は赤字ローカル線は廃止し、ローカル線の予算は道路整備に回すべきというのが持論だ。丙線規格で最高速度65km/h、簡易線規格で最高速度45km/hという低速の鉄道は時代遅れである。指宿枕崎線末端区間に至っては、人の流れと合っていない。中途半端な金をかけて残すなら、南薩縦貫道と谷山ICを高速道路でつなぐ、南薩縦貫道の4車線化に金を使う方が効率的だ。しかし昨今のバス運転手不足で廃止できないのならば、しっかり投資して使ってもらえる=車より速い鉄道にして残すしかない。

指宿枕崎線末端区間を残す秘策


一つだけ指宿枕崎線を残す方法がある。
それは短絡線新設である。

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